「あら…困りましたわねぇ」


 お手伝いをしようと思って台所へ顔を出した所、女中さんが困ったような顔をしていました。
 何かな?と思い、女中さんの所へ行くと…
 大量の卵があったのです。







木洩れ日のような 12







「凄い量の卵ですね…どうされたんですか?」
「城下にある養鶏の主から頂いたんですよ」


 そうなんだぁ。この時代の卵って貴重なんだよ…ね?
 うろ覚えだから確信がもてないけど…
 でも、いくら貴重でも何日も保存しておけないし。
 今日は卵料理かな?


「今日は卵を使った料理ですねぇ。何を作るんですか?」
「うーん…そうですわねぇ。まだ特には決めていませんが…」


 まだ決めてないんだ。
 そういえば…家ではよく卵料理をしてたなぁ。
 弟が好きだったから、よく作ったっけ。
 目玉焼きとかオムライスとか…
 あとはほうれん草の卵とじ、かに玉も作ったわね。
 流石にこの世界にはケチャップがないからオムライスは無理だけど…
 そうだ!!


「あの!この卵、少し貰っても良いですか?」
「それは構いませんが…何か作られるのですか?」
「はい!久し振りに茶碗蒸しが食べたくなりまして」
「『茶碗蒸し』とは…?」
「え〜っと…出汁と溶き卵を混ぜた中に椎茸などの具を入れて蒸すんですよv」
「まぁ!それは美味しそうですわね!」


 うふふーv美味しいんですよ〜〜v
 お母さんから教えてもらった、私の得意料理の一つ。
 信玄様や幸村さん達にも食べてもらいたいな。
 そう言うと、女中さんは「じゃあ、今日の一品に加えましょうね」と言ってくれたの。
 やったー!茶碗蒸し〜v
 久し振りに食べるから嬉しいかも。
 信玄様達も気に入ってくださると嬉しいな。


「一品は茶碗蒸しで決まりとして…他はそうですわねぇ。卵黄を使った料理も作りましょうか」
「卵黄を使うんですか?卵白は?」
「卵白は使いませんの。この卵白は…どうしましょう?」


 え!?卵白を使わないの!?
 だったら貰っても良いかな?
 尋ねてみると、女中さんは不思議そうな顔をした。


「卵白で何をお作りになるのですか?様」
「この卵白でお菓子を作ろうと思いまして」
「お菓子…ですか?」
「はい!幸村さんに私の世界のお菓子を作ってあげようと思って」
「まぁ!素敵でございますわ!幸村様もお喜びになられますよ」


 そうかな?幸村さん、喜んでくれるかな?
 信玄様や佐助さんも食べてくれるかな?
 ちょっとドキドキするけど、頑張って作ってみよう。
 でも…その前に茶碗蒸しだよね。
 もうすぐお昼になるんだし。
 さぁて!久々の茶碗蒸し作りだ。
 頑張るぞ〜〜!



































 + + + + +


 お昼時。
 今日中に終わらせなくちゃいけない書類もなかったから、昼食の用意を手伝ってたの。
 料理の乗ったお膳を、コの字型になるように置いていく。
 もちろん、信玄様は上座。
 その左右には信玄様の懐刀と言われている武将様。
 上座から少し下がった位置に勝頼様等、信玄様のご子息方。
 その向かい合わせの位置に幸村さんだ。
 ご飯はみんなで一緒に食べたほうが美味いから。
 信玄様がかつてそう仰ったみたいで、名だたる武将様方は出来うる限り一緒に食べるんだって。
 でもって、私が信玄様のお城にお世話になり始めてからは、私も同席を許されてる。
 や、初めは畏れ多くて断ったんだけど…


殿は某達と一緒に食すのは嫌か…?』


 と、幸村さんに捨てられた子犬のような瞳で見つめられてしまったのですよ。
 あの瞳を見て、断れる人はいませんって!
 結局は信玄様に『異世界の話も聞きたい』と言われて、一緒に食べる事にしました。
 一緒にご飯を食べるようになって、随分と武田の武将さん達の名前と顔を覚えました。
 それに皆さん、とても優しくしてくださるんですよ。
 最初は『粗相をしないように』と緊張していたんですが、今では和気藹々とお喋りをしています。


「おや?今日は殿も一緒に準備をされていたのか」
「あ!こんにちは、内藤様。お仕事は一段落したのですか?」
「うむ。少し早いとは思うたのだが、広間に来たのだ」
「もうすぐ準備が終わりますので、お待ちくださいね」
「あぁ」


 内藤様がご自身の席に着かれた直後、秋山様も広間に来られたの。
 むむ…これは早く準備をしないと、他の皆様も来てしまいますね。


殿、これは何だ?初めて見る料理だが…」


 秋山様が不思議そうに陶器に入った料理を眺めている。


「秋山様、その器は熱くなっております。気をつけてくださいね。
 で、それは茶碗蒸しと言いまして、私が作ったんですよー」
「何と!殿が作ったと申すのか!」
「はい。今日は卵を沢山頂いたので、久し振りに作ってみました。
 私の大好きな料理の一つなんですよ」


 そう言うと、秋山様は「そうかそうか。異世界の料理か」と、物珍しげに眺めていた。
 秋山様だけじゃない。内藤様もまじまじと見つめていらっしゃる。
 自分で言うのも何だけど、今日の茶碗蒸しは大成功!
 早くみんなに食べて貰いたいなv
 そう思いながら女中さん達と準備をしていると、ぞくぞくと皆さんが集まってきたの。
 その中には幸村さんと佐助さんもいたのよ。


「幸村さん、佐助さん、こんにちは!」
「おぉ!殿。朝から姿が見えぬと思っていたら、手伝いをしてたのか」
「はい。今日は特に急ぎの書類もなかったので」
「偉いねぇさんは。俺だったら絶対のんびり昼寝でもしてるのにさ」
「実はそれも考えたんですよ。でも台所の方へ行ってみたら面白い事になってて」
「面白い事でござるか?」
「はい。城下の養鶏場の主から、大量に卵を頂いたんですよ。
 女中さんがどんな料理にしようか迷っていたので、私も卵を少し分けて頂いて作ってみたんですよ」


 そう言うと、幸村さんも佐助さんも驚いた顔をしたの。
 え?何をそんなに驚いているの?
 ………もしかして私が料理作れるのが意外だった…とか?


さんが作ったって事は…もしかして異世界の料理?」
「あ、はい。女中さんに聞いたら知らなかったので、恐らくはこの世界にはないものかと」
「どっどれでござるか?異世界の料理と言うのは」


 何か幸村さん、目をキラキラさせてお膳の中を覗いている。
 そこまで期待されるとは………
 何の変哲もない茶碗蒸しなんですよー(苦笑)
 幸村さんだけじゃない。
 佐助さんも内藤様も秋山様も、他の武将様方も。
 すっごく期待した目で茶碗蒸しを見つめている。
 もっと豪華なのを作れば良かったかな?
 内心苦笑していた時、信玄様も広間にいらっしゃったの。


「皆揃っておるか?」
「あ、信玄様。こんにちは。皆さんもうお揃いですよ」
「おぉ!。昼餉の準備を手伝っておったのか?」
「はい」
「うむ。あっぱれじゃ」


 信玄様は軽く私の頭を撫でられると、ご自分の席へ着かれたの。
 さて、信玄様も席に着かれた事だし、私も座りますか。


「ところで皆、何を騒いでおる」
「実はですね…」


 信玄様の弟君の信繁様が、事の顛末を伝える。
 すると信玄様もまた、驚いた声を上げたの。


「なんと!この昼餉にの手料理があると!!
 それも異世界の料理とは!で、。『茶碗蒸し』とはどんな料理なんじゃ?」
「えっとですね…」


 と、女中さんに話した茶碗蒸しを皆さんにも説明する。
 皆さん、興味津々といった感じで私の話を聞いてくれた。


「『茶碗蒸し』とはそんな料理なのか。美味しそうでござるな!」
「あ、茶碗蒸しは熱くなってますので、気をつけて下さいね」
「うむ。では早速『茶碗蒸し』を頂くとしよう」


 信玄様のその言葉を合図に、皆さん「頂きます」と箸を持ち始める。
 どの武将様も最初に手を伸ばしたのは茶碗蒸し。
 大丈夫かな?美味しいかな?口に合うかな?
 ドキドキしながら見つめていると………


「う…美味い!『茶碗蒸し』とはこんなにも美味しい物なのか!!」


 と、まずは幸村さんが大きな声で言ってくれたの。


「いや、これホント美味しいよ。さんって料理上手だったんだなー」


 これは佐助さん。
 ………以前に料理は作れると言った言葉、信じてなかったんですね(泣)
 まぁ確かに、全部一人で作るのは、この世界に来てからは初めてですけど。
 これで私の腕を信じてくれましたかな?佐助さん(笑)


 お二方だけじゃなく、皆さん茶碗蒸しを気に入ってくれたみたいです。
 信玄様にも誉められました。
 久々にお父さんに誉められたみたいで嬉しいですv
 一安心したところで、私もお昼ご飯を食べ始めたの。
 いつもの様に私の世界の事を話しながらご飯を食べていたとき。


「ねぇねぇ。さんの世界には、他にどんな料理があるわけ?」


 ふと、佐助さんが聞いてきました。
 私の世界の料理…ですか?色々あって一口では語れませんよ。
 和食だけじゃなくて洋食とかもあるけれど、流石に材料がなくて作れない。
 そういうと、皆さん残念な表情を浮かべました。


「ちぇー。もっとさんの手作り料理を食べてみたかったんだけどな」
「ん〜…ご飯じゃなくてお菓子でもいいですか?」
「菓子…とな?」
「はい。今日の昼食の準備で余った卵白を使って、メレンゲクッキーを作ろうと思ってたんです」
「『めれんげくっきぃ』とはどんな物でござるか?」


 メレンゲクッキーは、卵白と粉砂糖を使って作るお菓子。
 小麦粉がなくても、クッキーが作れるのよv
 ここで言うなら、南蛮のお菓子みたいなものかな。
 そう言うと、幸村さんはまた子犬みたいに瞳をキラキラさせ始めました。
 うん、ごめん。そんなに見つめないで。
 襲われてもしりませんよ?私に(マテ)


殿!!某、めれんげくっきぃとやらを食べてみたいでござる!」
「あ!俺も俺も〜〜♪」
「ずるいぞ、幸村殿に佐助!俺も食べてみたいぞ!」


 幸村さんの意見に佐助さんも乗って、他の武将様も食べたいと言い始めたの。
 ふふふvもちろんですよ。
 皆さんに食べて貰おうと考えてたんですから。
 卵白も大量にあるし、沢山メレンゲクッキーを作ろう。
 きっと昼食後も大忙しになりそうねv
 



後書き
武田軍主要武将勢ぞろい☆
勝頼様はご子息様ですし、秋山様も内藤様も実在した人物ですよ。
多分…
いや、もともと世界史をやってたので詳しくないんですが(汗)