小十郎さんから逃げたあと、必死で幸村さんを説得してお館に帰りました。
 ごめんね、幸村さん。城下はまた今度行きましょうね。







木洩れ日のような 11







 あ〜あ。昨日は小十郎さんの所為でお館の外を楽しめなかったよ。
 あの人があんな事をしなかったら、この時代の文化を楽しめたのに。
 心の中で文句を言いながら仕事をする私。
 相変わらず電卓を片手に書類を仕上げてます。
 ふと机の上に置いてある携帯に手を伸ばし、時間を見てみる。
 そろそろ幸村さんが来る時間ね。
 幸村さんが来る前に、この書類を仕上げなきゃ。
 え?何で携帯で時間が判るのか?
 それはですね、携帯電話が生きてるからなんですよ!
 この世界に来て2ヶ月は経つのに、携帯のバッテリーが切れないの。
 アンビリーバボーです!
 まぁ…その方がありがたいんですけどね。
 暇なときは携帯ゲームで遊ぶし、夜は携帯に内臓してあるライトを利用してるもの。
 でなきゃ、夜は真っ暗になって怖いのよ。
 最初は何でバッテリーが切れないのか不思議だったんだけど、考えるのは止めたわ。
 私がここにいる時点で、不可解な事が起きたんだもん。
 今更バッテリーくらいで驚いてたら身が持たないって(笑)


殿―!」


 あ、幸村さんが来たみたい。
 相変わらず元気だなぁと思いつつ、筆をおいて幸村さんを迎えたの。
 障子を開けると、幸村さんは満面の笑みを浮かべていた。
 どうしたのかな?何か良い事でもあったのかな?


「幸村さん、何か良い事でもあったのですか?」
「えぇ!?何で判ったのでござるか?殿は心が読めるのか?」


 いやいやいや。そんな事できませんから。
 幸村さんの顔を見れば判りますって。
 本当に嬉しそうに笑ってるんだもの。


「幸村さんが嬉しそうに笑ってるから、何か良い事でもあったのかな?って思ったの」
「実はそうでござるよ〜〜!お館様が某達に団子をくださったのだ!!」
「信玄様が?私達に?」
「うむ。『一緒に食べるが良い』と言われた。殿、一息いれぬか?」


 信玄様が!?嬉しい!嬉しい!!
 何が嬉しいかって、お団子を頂いた事よりも、私の事も気にかけてくださってたのが嬉しいの。
 優しくって、頼もしくって、大きくて。
 信玄様を見てると、お父さんを思い出すな。
 今度『父上』って呼んでみようかな?
 信玄様、許してくれるかな?
 そんな事を思いつつ、私は仕事道具を片付けた。


「あ、そうだ。私お茶を淹れてきますね」
「大丈夫だ。さっき殿の部屋に来る前に女中に頼んできた」


 幸村さんが言った直後、「失礼します」と部屋の外から声が聞こえたの。
 障子を開けて入って来たのは女中さん。
 お盆の上には湯気の立った湯飲みが二つある。
 女中さんはその湯飲みを、お団子の置いてある机の上に置いたの。


「真田様、様。ここに置いておきますね」
「うむ。かたじけない」
「ありがとうございます〜〜」
「いえいえ。私どもの仕事ですから」


 女中さんはにっこり笑うと、一礼をして部屋から去って行った。


「お茶も来たことだし、早速食べるでござるよ!」
「そうですね。いただきます」


 団子を一口齧ってみる。
 すると団子独特の風味が口の中に広がった。
 な…何て美味しいの!?
 三色団子みたいだけど、甘過ぎないから食べた後は変に口に残らない。
 これなら何本でも食べれちゃうよ!


「このお団子、美味しいですね!」
「うむ!本当に美味しいでござる。このような団子をくださったお館様に感謝せねば!!」
「本当ですね〜〜。あとで御礼を言いに行きましょうね!」
「そうでござるな。ところで殿。昨日は何故すぐに帰ろうと言い出したのだ?」
「あー…あれですねー…」


 そう言えば詳しい事を幸村さんに話してなかったなぁ。
 「まぁ昨日の事だし」と気楽に考えつつ幸村さんに話したら………


「何故、早く某に言わないのだ!!」


 と怒られてしまいました。
 え?何で幸村さんが怒るの…?


「昨日は無事だったから良いものの、何かあってからでは遅いのだぞ」
「え…?でも言う程の事でもないかと思ったし、幸村さんに迷惑かけたくなかったんです」
「某達は殿が元の世界に帰るまで守ると決めた。
 だから迷惑だなんて思わず、何かあったら必ず言ってくだされ」
「〜〜〜〜っはい!!」
 

 何て!何て!!何て優しいの!?
 ホント武田領に…幸村さんに拾ってもらって良かったぁ。
 いきなり違う世界に放り込まれてどうしようかと思ったけど、幸村さんがいてくれたら何とかなりそう。
 信玄様、幸村さん、佐助さん、他にも武田の皆さん…凄く優しいの。
 そんな皆さんに何かお礼をしたいなぁ。
 私にできることって何だろう?


殿、どうしたのでござるか?」
「うーん…私にできることって何だろう?と思いまして」
「へ?いきなりどうしたのだ?」
「ほら、私って色々な方にお世話になってるでしょ?だからお礼がしたくって」
「そんな必要はない!殿には充分な事をしてもらっているでござるよ」
「…そうですか?」
「そうでござる。殿が計算をしてくれるおかげで、某達の仕事も捗ってるでござる。皆感謝しているのだ」
「そう言ってもらえると嬉しいですv」


 こんな私でも、武田のお役に立ってるなら嬉しいなv
 いつか私が元の世界に帰るまで、皆さんのお役に立てるように頑張ろう!




後書き
私も、ゆっきーと一緒にのんびりまったりお茶をしたいです(切実)