★キミとボクと約束のカケラ★ 第16回














キラを自分の控え室の備え付けのソファーに横たえると、アスランは、はーっとため息を吐く。
スタジオで突然倒れたキラ。あの場は咄嗟にキラを抱き上げて連れ出してしまったがその行動が果たして正しかったのか。
もっと他に的確な方法があったのではなかったかと今更ながらに思う。
きっと、明日にも今日の事が業界中に広まってしまうのだろう。小さな頃からこの世界に身を置くアスランはそんな事にはある意味慣れているが
キラはまた悩むのだろうな。そう思うと胸が少し痛む。
眠るキラの顔をふと見ると今は閉ざされている瞼に髪がかかっていた。それをそっと梳いて払ってやる。
額にも手をあててみるが熱はないようだった。おそらく軽い貧血だろうが暫くは安静にしていたほうがいいだろう。

(もう少ししたらあの付き人に連絡でもいれるか)

そう決めるとアスランは自らもキラの向かい合わせにソファーに腰を下ろした。
今日の仕事はまだいくつか残っているが何だか疲れてしまった。こんな事では駄目だと自分を叱責する。
さっき、キラに偉そうに注意をした自分こそが最近、仕事中に他ごとを考える事が間々あった。
他ごとと言うかそれはキラのことばかりだった。
なぜ、こんなにもキラが気になるのか。なぜ、かまってしまうのか。好奇心、親愛、同情、それも確かに少しはあった。
しかし、それは気持ちの極々僅かな部分だ。その大半を占めている気持ち、それは――


― キラが好き ―


ずっと気づかないようにしてきたが、もう自分の心を偽るのも限界にきていた。
きっと初めて会った時からアスランの心は彼女に奪われていたのだ。
しかし、キラはアスランが同情でかまってくるのだと思い込んでいるようで何度も違うと説明しても一向に信じてくれない。
キラは、自分の特殊な事情のことで必要以上に自分に負い目を感じている。日常生活においてそれ程、重要視されないであろうそれは
キラの中で大きなコンプレックスになっていた。もしかして過去にその事で何か嫌な思いでもしたのかもしれないが、過去はどうであれ
今は今だ。今のキラは誰に恥じる事のないくらい世間に認められている。
あれだけ世の中に支持されているのにそれでも自分に自信を持つ事ができないキラの心理がアスランには理解できなかった。
そんなキラの心理が分からなくても少しずつアスランにも打ち解け始めるキラに嬉しく思ってしまうのも事実で、どうにも現金だと自分でも思った。
だがしかし、それに少し欲を掻いてしまい数日前にキラに敬称はなしで名前で呼んでくれないか。と言ってしまった。
キラは酷く困った顔をしながら結局最後まで頷いてはくれなかった。
その事でへこまなかったと言えば嘘になるがそれよりも後悔の方が強かった。自分は少し焦り過ぎたのだ。
日に日に募るキラへの気持ちを持て余して制御しきれなかった。
漸く警戒を解き始めてくれたキラに対してまだ早すぎたのだ。
これをきっかけにまた距離を取られたらへこむどころの騒ぎではなくなる。
そう思ったから、敢えて何もなかったかのようにキラに接したのだ。始めは緊張していたキラも次第に安心したのか元通りになっていった。
あからさまにほっとした様子に個人的には不本意に思わなくもないが今は仕方がないと我慢した。

(今は無理でもいつか絶対に……)

キラの口から『アスラン』と呼ばせてみせる。
決意も新たにしてふと、時計が目に入る。時刻を確認すると自分が控え室に着てから随分と時間が経過していた。
そろそろキラが目を覚ますかもしれない。アスランは携帯電話を取り出すと迷わず番号を打ち込む。
数回コールした後、最近毎日のように聞く声が受話器越しに響く。

『誰?』
「第一声がそれか?業界人としてよりも一般常識としてそれはどうなんだ?」
『は?だから誰だよ!なんで俺の番号知ってるんだ』
「臨時とはいえ、うちの事務所に籍を置いてるんだ。緊急連絡ようにそのぐらい知っててあたりまえだろ」
『ああっ!!あんたはっっ!!!なんでっっなんのようだよっっ!!』

大声で怒鳴る声は受話器を話しても聞こえるくらいで、耳がキンキンする。もう少し落ち着いて話せないのだろうかコイツは。
内心そんな事を思いながら、漸く自分が誰なのか察したキラの付き人であるシンに今の状況を伝える。


「お前、今どこにいるんだ?」
『は?どこって事務所だけど、なんでだよ』
「仮にも付き人って名乗るならキラの仕事場には一緒にこいよ」
『キラが今日は一人でいいって言ったんだよ!今日の撮りは一つだけだったし、俺もラクスとレイから雑用も頼まれてたし』

例え、本人が大丈夫だと言ってたとしても普通、本当に一人で行かせたりはしないだろう。やはり、こういうところは素人だ。
キラほど顔が売れてる人間がホテホテと一人で歩いてたらどんなトラブルに巻き込まれるか分かったものではない。
そんな危機管理のなさに驚くを通り越して呆れてしまう。

『もしかして、キラに何かあったのか?』
「撮影が終わってすぐに倒れたんだ。多分、軽い貧血だとは思うが今俺の控え室で休ませてるから迎えに――」

アスランは途中で言葉を止めると、はーっと深くため息を吐いた。そして、既に切れた携帯を見つめもう繋がってはいない相手に呟く。




「まったく……人の話は最後まで聞けよ、自称彼氏。」







                                              



 ■あとがき■
はい。中々の良いペースに更新できてると個人的には思ってます。『キミとボクと約束のカケラO』をお届けします。
いよいよ、アスランは自分の気持ちを認めました。キラは以前眠ったままですが。
次はシンとアスランのバトル……かな?ここまで長編になるとは思っていなかったので収集をつけるのが難しくなってきていますが、
出来る限りの力で頑張りますっっ!!