★キミとボクと約束のカケラ★ 第17回















「アスランっ!!」

癖のない亜麻色の髪をサラサラ揺らしながら一人の子供が駆けてくる。
印象的な菫色の瞳をキラキラと輝かせて、満面の笑顔で嬉しそうにもう一人子供の元に行く。

「キラ」

深い宵闇色の髪の子供がその存在に気付き、翡翠のような瞳を細めてふわりと微笑む。

「キラ、そんなに急ぐと危ないよ」
「だって、早くアスランに会いたかったんだもん!!」

走って来たために息を切らせて、頬は紅潮していた。そんなキラが可愛らしくて走って乱れた髪を優しく撫でて直してやる。

「ねぇ、アスラン。今回はどのくらいこっちにいられるの?」
「今回は三日くらいかな」
「えー!!そんなに短いの?」

しゅん、と淋しそうな顔をするキラの手をアスランはぎゅっと握る。
驚いて、顔を上げるとアスランが優しい顔をしてキラを見つめていた。

「折角、久しぶりにキラにあったのにそんな顔しないで。キラは笑顔が一番可愛いよ」
「アスラン……うん、わかった」

ふんわりと笑顔を浮かべたキラにアスランは満足そうにその瞳を細めた。












キラとアスランは二人が5歳の頃にアスランがキラの家の近所に引っ越してきたことで知り合った。
二人の母親が仲良くなったことで家族ぐるみの付き合いをするようになったのだが、初めのうちアスランはこの生活に馴染めていなかった。
五歳児なのにそれ以上の知能を持ち、そして育った環境に同じ年頃の子供がいなかったせいか、アスランは一般の子供よりもかなり大人びていた。
それ故に引っ越してきてからも特定の友達を作ることもなくいつも一人で本を読んでいるような子供だった。
一方、キラは明るく、行動的でアスランとは正反対の子供らしい子供だった。
それにキラにはどこか放っておけなくなる庇護欲を掻き立てる独特の何かをもっていた。
初めのうちは面倒臭がっていたアスランも、次第にキラに気持ちを許し始め二人はゆっくりとでも確実に仲良くなっていった。

しかし、別れの日は突然訪れる。

アスランは一時的に来ていただけだったのでまた、戻らなくてはいけなくなったのだ。
別れの日、突然それを告げられたキラは泣きじゃくり、『行かないで』と駄々を捏ねた。
困ったアスランはアスランはキラに『魔法をかけてあげる』と言った。
それは子供がするお遊びのようなもの。しかし、その時のアスランは真剣だった。
アスランはキラの頬に手を当てる。瞳に涙をいっぱい溜めたキラはされるがままにアスランを見つめていた。

「キラが毎日笑って過ごせますように」

そういうと願いを込めてそっとキラの頬にキスをした。
きょとん。とアスランを見つめるキラの瞳にはびっくりしたのかもう涙はなかった。

「これでキラは僕がいなくても泣かないよ」
「本当に?」
「本当だよ。だからキラ、笑って。次にキラと会う時までキラの笑顔を覚えていられるように」
「うん!」

そして、二人は再会を信じて笑顔で別れた。







それから数ヶ月後のこの日。アスランとキラは本当に再会を果たす。
キラはアスランの『魔法』が効いているのか全くとまではいかなくても泣く事がかなり少なくなっていた。
そんな中のアスランとの再会はある勘違いをさせていまう。

(もっと泣かなければ、アスランとずっと一緒にいられる)

幼いが故にそう思い込んだキラ。三日間という短い時間をギリギリまでアスランと過ごしたキラは別れ際も涙は見せなかった。
そんなキラの様子にアスランは満足そうに微笑み、帰って行った。

泣いてはいけない。と自分を常に戒めるようになったキラは全く涙を見せる事がなくなった。初めは泣き虫なキラが少し成長したと傍観していた周囲だったが、
次第に心配になってきていた。子供らしく、感情豊かなところがキラの一番の長所であったのに今はこんなに感情を殺してしまっている。
きっと、キラが一番好きなアスランならなんとかしてくれると、次にこちらに訪れる時に頼んでみようと両親が考えていた矢先の事だった。
友達と遊んだ帰り道。キラは車との接触事故にあってしまう。幸い、命に別状はなかったものの、運命は残酷な試練をキラとアスランに与えた。
キラは事故のショックで記憶の一部を失ってしまったのだ。大好きだったアスランの事もその涙と共に。

事故の事を聞いたアスランは両親に無理を言ってキラの元に駆けつける。

「キラ!」

病室に入ったアスランはベットに座り窓の外をぼんやりと眺めるキラの姿に取りあえず無事を確認して安堵する。
しかし、すぐに違和感を感じた。ゆっくり振り返ったキラの瞳に自分の姿が映っていないのだ。

「キラ?」

一体、どうしたんだろう。とアスランの胸にはよくわからない不安が湧き上がってくる。

「アスラン君、あのね……」

何か言い難そうにキラの母親は口を開く。しかし、その言葉の意味が上手く理解できない。
アスランは子供だが、その理解力は大人顔負けだ。言葉の意味は分かっている。でも、心が理解したくないと拒絶しているのだ。
だって、キラは今目の前にいて、前となにも変わっていないのに。

『キラ、アスラン君のこと覚えてないの』

そんな事あるはずがないと、アスランはキラに駆け寄る。

「キラ、僕のこと分からないなんて嘘だよね?」

「君、だぁれ?」

その言葉に目を瞠り、縋るような気持ちで掴んだキラの腕を力なく離した。
そして、ゆっくりとキラから離れ、心配する両親たちの元に近づいた。かける言葉がないのか親たちは一様に黙ってアスランを見つめていた。

「……帰る」

アスランはぼそっと一言呟いた。その場にいた大人たちもアスランの気持ちを考えるとキラの傍にいることは辛いだろうと判断して彼の言うとおりにしてあげた。
すぐに、家に帰ることは流石に無理だったので、その日はホテルをとり次の日のシャトルで帰ることになった。
ホテルに帰った後もアスランは一人部屋に篭ってぼんやりとしていた。
キラはアスランがはじめて出来た友達だったから立ち直るまでには時間がかかるだろうと、それまでは支えて守ってあげようとアスランの母は思っていた。
しかし、次の日。至って普通にアスランが部屋から出てきたのだ。初め、アスランが無理をしているのかと思ったのだがどうも様子がおかしい。
不信に思ったアスランの母が『大丈夫なの?』と問いかけるとアスランからは思いもよらない言葉が返ってきた。

「何がですか?」

キラという存在は想像以上にアスランには大切な存在だったのだ。故にキラの中から自分の存在が消えてしまったという事実はどうしてもアスランには
受け入れることができなかった。しかし、その事実は変わることがない。だから、アスランの心は一種の防衛手段として、キラとの思い出を仕舞い込んで
心の均等を図ろうとしたのだ。

こうしてキラの涙は止まり、アスランとキラは『知らない人』になった。








                                            




 ■あとがき■
どーも。お待たせしました!!『キミとボクと約束のカケラ17話』をお届けです。
今回はアスランとキラの真相です。昔、二人に何があったのか。やっと明かす事ができました。
幼い頃の二人はラブラブでした。五歳児の言うセリフじゃないところがチラホラありますが、そこはアスランですから(笑)
次回はキラがグルグル悩みます。出来るだけ早く更新できるように努力しまーす。