★キミとボクと約束のカケラ★ 第15回
それから数日がたったが、アスランとキラは至って何も変わっていなかった。
一時はこの事がきっかけでアスランとの関係も壊れてしまうのではないかと危惧していたのだが、
本当に何もなかった様に接してくるアスランにキラは内心ほっとして自分も変わらない態度をとっていた。
「はいっ!これがラストだよ!!二人とも一番いい顔よろしくー!!」
二人セットでの仕事にもすっかり慣れ、それどころか隣にアスランがいることが当たり前になり始めていた。
こんなことではいざアスランと離れた時に困ると分かってはいるがアスランとの必要以上親しくなることはあんなにも拒絶感が
あるのに、彼から離れることはどうしてもできなかった。
本当に彼と親しくなるのが嫌ならば、仕事以外で接触しなければ良いことなのだ。でも、キラにはそれができなかった。
それぐらいキラにとってアスランが傍にいることはどこか懐かしく心地良いものだった。
(僕ってかなり我侭なのかも……)
シンにも気にし過ぎるなと言われたし、キラも延々と考え込むのは自分の悪い癖だとも分かっているから気を付けてはいる。
しかし、いくら周りに言われても自分で分かっていても中々すぐに切り離せるような事なら始めから考え込むことまでには至っていない。
ぐるぐると思考の渦になりそうなところで、一緒に撮影していたアスランが抱いていたキラの肩に少し力をいれた。
それにはっとしてキラは意識を撮影に戻す。上の空で撮影していて集中していなかった。
しかもそれをアスランに見透かされていたのだなんてすごく気まずくてそして自分が恥ずかしかった。
一緒に仕事をしている者として仕事にプライドをもってやっているアスランにも周りのスタッフにもこれは失礼な態度だった。
激しく自己嫌悪に陥りそうになるのをキラは必死に堪える。
今それを声や顔に出す事は更に迷惑をかける事になる、それなら自分の出来ることをするしかない。
それはラストショットを自分の最高の表情にすること。それが今、キラにできるただ一つのことだった。
『お疲れ様でしたー!!』と声を掛けてくれるスタッフたちにキラは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
『ありがとうございました』『お疲れ様でした』と声をかけてくスタッフたちに挨拶をしながらも内心では『すみません』と謝っていた。
「キラ!」
そんな罪悪感塗れのキラの頭を聞きなれた声と共に小さく小突かれた。
びくっとして身体を竦ませる。そしてゆっくり振り返ると予想通りの人物が立っていた。
「あ、アスランさん……」
少し怒ったような表情で目の前に立つ彼にキラは視線を合わせる事ができず俯く。
とくに今アスランには合わせる顔がない。彼がどれだけ仕事に真剣に向き合っているかを知っているから。
アスランが怒るのも当然だし、キラが怒られるのも仕方のないことだ。
意を決して顔を上げる。すると、そこには怒ったアスランではなく苦笑を浮かべているアスランがいた。
あれ?と首を傾げるとアスランはもう一度キラの頭を軽く小突いた。
「キラ、俺が何を言いたいか分かってるよね?」
少しだけ引き締めた顔になったアスランにキラはゆっくり頷いた。
「はい。」
キラの返事を聞くとアスランは微苦笑を浮かべる。
「分かってるならいいんだ。プライベートで色々あるにしても、仕事の時には割り切らないと」
「はい。すみませんでした」
「分かっていればいいんだよ。キラは同じ失敗を繰り返すような事はしないだろうから」
「はい。」
キラの返事に満足そうに目を細めるアスランはキラの頭を優しく撫でる。
そこで再び、一瞬のフラッシュバック。幼い頃、同じようにしてくれた誰かの映像が浮かぶ。
(え?あれ?)
「キラ?」
突然、呆然としたキラを心配そうに覗き込む。瞬間、はっと我に返ったがどこかぼうっとしていた。
「キラ?大丈夫か?もしかしてどこか具合でも悪いのか?」
「えっ?いえ、……大丈夫です……」
心配してくれているアスランにちゃんと答えなくてはいけないと思うのに上手く頭が回らない。
この前の時とは違い、先程のフラッシュバックの映像が頭の中にぼんやりと残ってしまっていて、何故か頭の中が混乱してしまう。
(……僕は……)
僕の頭の中には何が隠れているんだろう。そこまで考えたところでキラの意識は暗闇に吸い込まれていった。
「キラっ!!」
突然、ぐらりと傾いたキラの身体を咄嗟にアスランが抱きとめた。キラは瞳を硬く閉ざして意識を失っていた。
抱きしめた身体は華奢で少し力を入れただけでも壊れてしまいそうだった。こんな小さな身体でどれだけのモノを抱えているのだろうと
思うと何もしてあげられない自分に遣る瀬無くなる。
その異変に漸く気づいたスタッフたちが騒ぎはじめたのをアスランは静かに制した。
アスランはキラの顔に掛かった髪を指で梳くとキラを横抱きにして立ち上がりゆっくりした動きでスタジオを後にした。
■あとがき■
はい。そんなに間を空けずに更新できました。『キミとボクと約束のカケラN』のお届けです。
キラとアスランとの間にそんなに変化はありません。というか多分、アスランが気を遣って敢えて普通にしてくれているのです。
変にキラとの関係がギクシャクするのが嫌ですから。アスランとキラの気持ちは少しずつ育っていっていると思います。
多分、アスランの方が一歩進んでる感じですかね。