■淋しがり屋の君に桜色の祝福を その3
「なーアスラン。その後どうよ?」
「は?」
唐突な友人の質問にアスランは間の抜けた声を上げてしまう。
そんなアスランの様子を気にも留めずにラスティはずいっとアスランに詰め寄った。
「惚けんなよ、例の家政婦の事だよ。あれからそれらしい話は聞いてないからあの日に来た奴を採用したって事だろ?」
「ああ…まあ…」
「で?どんな奴だったんだ?」
「どんなって……」
自分と同じ年の可愛らしい子だった― なんて言える筈がなかった。そんな事言おうものならこの友人は興味本位に家に
来たがるに違いない。彼がキラを見たらどうなるかなんて容易く想像ができてしまう。
そんな事になったらその事実があっと言う間に学校中に知れ渡ってしまう。
「普通の年配の女性だったさ」
「へー年配の女性ねぇ……」
ラスティは疑わしい目を向けてくるがアスランはそれを直視出来ずに視線を逸らす。
「俺さーこの前お前の家に電話したんだけど、」
ぎくり。とアスランの体が揺れる。
「その時、電話に出た人の声が豪く可愛らしい声だったんだよなー」
ぎくり。アスランの額から汗が滲む。
「こ、声だけ可愛らしい人なんだよ…」
かなり苦しい言い訳なのは分かっていたが言わずにはいれなかった。
「ほー」
ダラダラダラダラ…………実際はそこまで汗をかいてはいないのだが大量の汗が流れるような幻覚に陥ってしまう。
多分、ラスティにはもうバレバレなのだろう。これ以上何を言ってもこの後の結果は同じなような気がする。
ここは素直に話して口止めをした方が得策かもしれない。そう思った時だった―
― ガラリ ―
「おーい。アスランいるかー?」
教室のドアが開くと同時に自分を呼ぶ声に振り向くとそこには隣のクラスのカガリ・ユラ・アスハとラクス・クラインが立っていた。
二人とも結構な家のお嬢様でラクスはふわふわおっとりとした性格、対照的にカガリは活発でサバサバした性格で共に整った容姿とその性格で
男女共に人気のある学園の有名人である。アスランとは昔からの腐れ縁でことある事に何かと一緒に行動することが多かった。
そんな人物達の突然の訪問に教室は俄かに色めき立つ。
アスランとラスティも容姿は抜群にいい為にどうしても無駄に目立ってしかたがない集団になってしまう。
「カガリ、ラクス何か用か?」
「いえ、私達がようがあると言う訳ではないのですが…」
「こいつが『アスラン』を探してたからさ」
そう言って二人が振り返るその先には見覚えのある亜麻色。
ぴょこん。とカガリの後ろから姿を現した人物に吃驚する。
「キラっ!!」
思わず声を上げて、しまったと思った。が、時既に遅し。教室中の視線はアスランと突如登場したメイド服の美少女に集中された。
「アスランっ」
そんな空気を微塵も感じずにきょろきょろと教室の中を見回してアスランの姿を発見したキラは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
そして嬉しそうにアスランに近づくとキラとしてはあたり前な事、しかし事情を知らないクラスメイト達には問題発言を放つ。
「アスラン、今日玄関にお弁当忘れたでしょ?」
「え?ああ、そう言えば」
「食事はちゃんと摂らないと駄目だと思ったから。はい、もう忘れないでね」
にっこりと笑ってアスランに弁当が入っている包みを手渡した。
「キラ、それだけの為に?」
「うん」
「…ありがとう…」
何気ないキラの心遣いが心に温かく染み渡る。
「じゃ、僕もう帰るね」
「ああ、気をつけて帰れよ」
「わかってまーす」
そう言って元気よくアスランに手を振った後、教室の出入り口で律儀にぺこりと頭を下げたキラは駆け足で去っていった。
(まったく…嵐のような奴だな)
キラがアスランの家に着てからというもの彼の生活はがらりと一変した。
散らかり放題荒れ放題だった部屋はあっという間に綺麗な新築のような姿になり、朝、昼、晩と三食しっかり栄養を考えた食事、
制服のシャツも毎日パリッとアイロンがけしてあって、アスランの生活は快適そのものだった。
唯一気になる事と言えばキラが着ているメイド服。初めて会った時には着ていなかったのだが仮採用が決まって
家に着くと真っ先にそれに着替えてしまったのだ。一度、普通のラフな格好で仕事をすれば?と言った事があったのだが
キラ曰く、『メイド服はメイドの戦闘服』なのだそうで今のところ変えてくれる気はないようだ。そのうち折を見て説得してみるつもりだが。
「なーにが年配の女性なんだかねー」
キラの余韻に浸っていたアスランは、はた。と自分に向けられている冷たい視線を感じてゆっくりと振り向いた。
「キラちゃんって言うんだ、あの子」
「ああ…」
「とっても可愛らしい方でしたわねv」
「…………」
「どういう事なのか、じっっっくり説明して貰おうか?アスラン?」
「…………」
最早逃れる術はアスランには残されていなかった。ラスティのみならずカガリやラクスにまでバレる破目になるなら初めからラスティには
正直に話しておけば良かったかもとか、弁当さえ忘れなければなーとかその後悔は後を絶たない。
「「「アスラン」」」
がっくりと肩を落としてはーっと深く溜息を吐いた。そして彼は昼休みの間中、興味津々の友人達の質問攻めに耐えるのだった。
■あとがき■
はい。久しぶりの更新です。『淋しがり屋の君に桜色の祝福を』その3をお届けします。
今回、メイドキラの性別が確定しました。まあ、大方予想通りにメイドキラは女の子になりました。アンケートにご協力下さった皆様、
ありがとうございました。女の子希望だった方も男の子希望だった方も宜しければメイドキラとアスランの行く末(笑)を
見守って下さると嬉しいです★
さて、今回はカガリ&ラクスが登場しました。元ネタになっている漫画にも主人公に恋している3人娘と悪友二人が登場するのですが
カガリとラクスはアスランを恋愛対象としては見ていません。あくまで幼馴染の腐れ縁です。これからもう少し登場するキャラは増えますが
基本コメディ時々シリアスを目指してがんばります。