涙色の旋律 Melody.3
(今日も雨…)
部屋の窓から外を見てキラは深く溜息を吐く。
外と言えば生憎の雨模様。先週くらいから梅雨に入ったとテレビの天気予報士が言っていたのを覚えている。
普段から家の中から外出しないキラにとって外の天気なんて関係ないように思えるが、今のキラにしてみれば大問題だった。
(もう、5日も見てない…)
キラが思い浮かべるのはいつも自分の部屋の近くのベンチに座っている名前も知らない彼。
遠目からでも判る鮮やかな藍色の髪はとても印象的だった。
いつの頃からか彼が天気の悪い日以外は毎日そこにいる事に気が付いた。家族以外と接触を余りした事のないキラは知らないうちに毎日彼を見つめるようになっていた。
そうして見ている内にもう一つキラには発見があった。
彼が自分のピアノを聞いてくれているみたいだと言う事だ。
初めは気のせいかとも思ったキラだったがピアノを弾き終わって窓辺に近づくと彼が自分の部屋を見上げていたのだ。
誰かに自分のピアノを効いて貰うという経験が家族以外にはないキラにとってそれはこの上なく嬉しい事だった。
しかし、ここ最近は雨が続き彼が現れない。
毎日の日課になってしまったその行動は空模様が分かっていてもどうしても体が動いてしまう。
そして今日も彼の不在を確認するとキラは重苦しい溜息を吐くのだった。
(なんでかな…凄く胸の辺りがぎゅってする)
彼の事を想うと病気の時とは違う胸の痛みが襲ってきて、泣きたい気持ちになる。しかし、キラにはそれがどうしてか分からなかった。
ただ想うことは一つだけ。
(彼に会いたいな)
そう思った時キラの中で何かが動いた。
(次に雨が止んだ時に……)
キラは心の中で何かを決意した。
昨日までの悪天候が嘘のような晴天が広がる空の下。
アスランは久しぶりのその場所にやや足早で向かっていた。
「久しぶりだな…」
そう呟いて想うのはあのピアノの音色。梅雨入りが発表されてからというもの毎日、毎日、これでもかと言うほどの雨が降り続いていた。
梅雨というのはそういうものだと分かってはいるけれどそれでも、恨めしく思ってしまうのはあの音色を聞く事ができないから。
いつのまにかアスランにとってあのピアノは大きな存在となっていた。
時に温かく包み込むように、時に優しく励ますように。
ピアノはいつでもアスランの心を優しさで一杯にしてくれた。
そのピアノを聞く事が儘ならない状態が一週間以上も続いたのだ、久しぶりの晴天に喜び、逸る気持ちを抑えて平静を装って一日を過しただけでも褒めて欲しいというものだ。
そして漸く一日の学校生活が終わり、こうしてあの公園のあの場所に向かっているのだ、足も自然と早足になると言うものだ。
「あれ?」
いつもなら少し離れた場所からも少しづつ聞こえてくる音色が全く聞こえてこない。
(どうしたんだ?)
今日はもう終わってしまったのだろうか?それともまだなのか?
もしかして聞く事が出来ないかもしれないという可能性も頭にチラチラと掠めたけれどやはり聞ける可能性がある以上その場に向かう歩みを止めることはできなかった。
そして、もうすぐ何時ものベンチに着くと言うところで突然近くの茂みから何かが飛び出してきた。
「きゃっ」
「うわっ」
出会い頭にぶつかってきた何かはアスランにぶつかると同時に反対方向に弾かれて地面に倒れた。
「何が起こったんだ?」
突然の出来事に唖然としたアスランだったがぶつかってきたモノが人でしかも女性のようだと気付くと慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「…はい…すいません……」
座り込む女性を起してあげようと手を差し出したアスランは手を取ろうとして見上げた彼女を見て目を瞠った。
◆あとがき◆
はい。引き続いて3話目です。キラとアスランの出会いは少女漫画の王道(笑)出会いがしらにぶつかる。でしたvvv
この話を書き始めたのが確か梅雨の時期だったのでこの世界でも梅雨入りして雨を降らせていた記憶が…あるようなー