涙色の旋律 Melody.2
心地良いピアノの音色が辺りを包む。
辺りを温かい雰囲気にしてしまう優しい旋律は天使のような愛らしい少女の手によって奏でられていた。
「キラさん」
キラと呼ばれた少女がその長い亜麻色の髪をなびかせてくるりと振り返るとそこには若草色の髪をした少年が立っていた。
「ニコル」
ゆっくりとキラに歩み寄る少年、二コルは心配そうにキラを見つめる。
「聞きましたよ、最近毎日ピアノを弾いてるんですって?」
元々、ピアノを弾くのが好きなキラ。普通なら好きなのなら毎日の様に弾いて上手くなる為にレッスンするのも可笑しくない。
寧ろ当たり前の事だ。しかし、キラの場合は少し事情が違っていた。
キラは小さな頃から身体が弱く、少しでも無理をすると直ぐに体調を崩してしまう。だから一日の中で一番多くいるのはベットの上、好きなピアノも二、三日に一回長くて一時間程弾くくらいだった。
キラもそれは十分分かっていて、両親にも迷惑や心配をかけてはいけないと無理に動いたりする事はなかった。
しかし、一週間ほど前から何故か同じ時間帯に毎日ピアノを弾くようになったという。
キラの両親は彼女の身体を心配して従兄弟でキラのピアノの先生でもあるニコルに相談したのだった。
「おばさんもおじさんも心配してましたよ」
「うん。分かってる…でもね、最近は凄く調子がいいの。」
『だからピアノが弾きたくって』とにっこり笑うキラにニコルはやれやれと溜息を漏らす。
「わかりました、でも今日はもう終わりにしましょう身体を休めないと」
そう言われたかと思うとピアノから離されベットに強制送還。
「あ…」
「無理しすぎるとそれこそ何日もピアノに触れなくなりますよ」
「うん…」
そう言われるともう返す言葉もない。
それは嫌だ。あの人が聞いてくれているから…僕の初めてのお客さん。
今日は早く切り上げされられたけど、明日はまた来てくれるかな?
来てくれると、嬉しいな………
(今日は随分早く終わったな…)
ベンチに座っていたアスランはピアノの音色が聞こえなくなった事に気付くと手にしていた本を閉じた。
あのピアノの音色に出会ってからアスランは殆んど毎日この場所を訪れていた。それはアスラン自身も驚いていることで何故あのピアノにそこまで惹かれてしまうのだろう疑問に感じながらも足を向ける事をやめることはできなかった。
そしてその興味はピアノの弾き手にも向けられていた。
一体どんな人物がこんなに美しくて柔らかな旋律を奏でているのだろうとアスランは想いを馳せていた。
(いつか会ってみたいものだな)
きっと無理だけど…などと思いながらさっきまでピアノの音が流れていた部屋の窓を見上げる。アスランはふっと優し気な笑みを浮かべるとその場所を後にした。
「アスラン」
「ラスティ?」
本日の授業を終え、アスランがいつものあの場所に向かうべく帰り支度をしていると友人が彼の元に駆け寄ってくる。
「お前最近、どこかにいってるのか?」
「いや、別にとくには…何でだ?」
「なんでだ?ってお前な…授業が終われば早々に帰ってくし、
俺達が誘いをかけてもなんだかんだで断るし、それに…」
ラスティはそこで一呼吸置く。そしてわざと上体を屈めると下からずいっとアスランに詰め寄った。
ぎょっと目を見開いて驚くアスランにラスティはにっと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「お前何となくだけど変わったんだよここ最近。
どこがって言われると困るんだけど何ていうかー…」
「……………」
「そう、雰囲気が柔らかくなったんだよお前」
「え?」
「今までは何かギスギスしたっていうか何ていうか
そんな雰囲気だったんだけどな、ここ最近その感じが和らいだ感じがするんだよ」
ラスティの言葉にアスランは驚いた。
実はアスラン自身も自分の変化は感じていたから。でもそれは自分自身で感じる些細なものだと思っていたからこうして第三者であるラスティに言われるなどとは思っても見なかった。
自分の変化の原因…そんなのは考えるまでもなかった…
「やっぱり何かあるのか?」
「今度、気が向いたら話してやるよ」
アスランはそれだけ言うと残っていた帰り支度を素早くすませ、友人を置いたままその場を後にした。
◆あとがき◆
はい。続けて2話目です。キラとニコルは従兄弟同士です。キラの奏でる音色に出会ったアスランは少しずつ変わってきている
模様。。。毎度おなじみラスティはアスランの悪友です。