ラブ・シンフォニー 第29話



















「でね、そこで見た景色が凄く綺麗でー」

嬉しそうに語る親友。それを複雑な心境でフレイは見ていた。そして思わずため息を吐く。それに気付いた親友であるキラが訝しげな顔で不満を零す。

「フレイ、僕の話し聞いてる?」

「ええ、ええ。聞いてますとも甘ったるい惚気話をね」

「ええっ!!そんな…惚気だなんて…」

(まったく、この子は……無自覚て恐いわね)

キラが余りに嬉しそうに話すからフレイは少し意地悪心が湧いてきてしまい不貞腐れてそう呟く。
するとキラは慌てて手を顔の前でブンブン振って否定を示す。顔はおろか首まで真っ赤になってしまっている。


(こんな純真で可愛いキラがこれからアイツに……あー考えただけでムカつくわっ!!)


キラが幸福そうなのは嬉しい。今まで本当にいろいろあったから。
悲しい思いとか辛い気持ちとともに過ごしてきたキラが幸せに笑ってくれるのは友達として凄く嬉しく思う。
しかし、それとは別にあの男は個人的に気に入らないのだ。キラを前にした時といない時では態度に雲泥の差がある。
まるで二重人格のようで、あれだけ協力してあげたのに。と恩を仇で返された気分だ。
最終的には二人の問題であったのだから結果的に解決したのも本人達だ。
しかしそこに至るまでの過程を自分達がお膳立てしてあげなければあの二人は何年経ってもすれ違い続けていたと思う。
決して恩を着せたい訳ではないのだがあそこまで態度を変えられると恩も着せたくなるというものだ。
確かにキラの事は大事にしているとは思うし、顔もまあいい部類に入ってるし、頭も良くて運動全般なんでもこなせてその上、大きな会社の御曹司らしいし…


(………………)


考えていたら余計にムカムカが増した。あれだけ完璧な人間がいてもいいのか?等と思わず彼を賛辞しているとも取れる事を考えてしまう。

「どうしたのフレイ?急に黙り込んで」

どうやら考え込みすぎて自分の世界に入り込んでしまっていたらしい。キラが心配そうに見つめていた。
キラはほんの些細な事でも過敏に心配する節がある。それ故に自分の中に色々溜め込んでしまいがちなのだが。
こんな相変わらずな態度を取られると、どんな事でも全力で応援したくなる。ズルイわよね。と心の中でフレイはこっそり呟いた。

「なんでもないわ、ただ…」
「ただ?」

きょん。と首を傾げるキラを見てフレイがふっと優しい笑みを浮かべる。

「ただ、キラが幸せそうだなと思って」

「え・・・」

「良かったわね、キラ」

優しいフレイの言葉にキラは大きな菫色の瞳を更に大きくして潤ませる。
キラの幸せを自分の事とように喜んでいてくれるフレイにそしてここには今いないが同じくらい喜んでくれているミリアリアに
改めて心の底から感謝の気持ちが溢れてきて胸が熱くなる。
キラは万感の想いを込めて微笑みを浮かべる。



「…うん。ありがとう……」



瞳には涙が今にも溢れんばかりに浮かんでいる。以前のような悲しい涙ではなく、嬉しい涙。
そして、この笑顔はフレイの知りうるキラの笑顔の中でも一、二を争うほどに綺麗だった。







                                         



  ◆あとがき◆
はい。お久しぶりです。『ラブ・シンフォニー』第29話をお届けします。
今回はキラとフレイのお話です。これまでいろいろ頑張ってくれたフレイ達に(ミリアリアいませんが…)
キラにちゃんとお礼を言わせたかったのです。それだけの為の話なので今回は結構な感じで短めですが…
次回はいよいよ第一部最終話となります!!(これは流石に断言)
もうこれ以上何かしらある訳ではないですが幸せなアスキラで終わらせる様に頑張りますので最後までお付き合いくださると嬉しいです。