ラブ・シンフォニー  第28話






『で?二人はめでたく恋人同士になりましたってのは分かったけど今、あんた達はどこにいるのよ?』

アスランとは会えたものの未だキラを心配して探してくれてるフレイ達に取りあえず連絡だけでも入れようと思ったのだが、
キラは今時の女子高生には珍しく携帯を持っていなかった。
どうしたものかと考えあぐねていたらその姿を見たアスランがくすくす笑いながら携帯を貸してくれた。
しかし、今度は使い方が分からず目を白黒させていると再びアスランから笑いを堪えるような声が聞こえてくる。
キラは頬を赤く染めながら恨めしそうにアスランを睨んだ。
彼は『ごめん、ごめん。』とすぐに謝ってくれたが顔が未だに笑っていたら何のフォローにもならない。
顔を赤くして頬を膨らませているキラを可愛らしく思いながらアスランは彼女の小さな手から携帯を奪う。
キラが驚いてアスランの顔を見上げた。アスランは手慣れた手つきでピッ、ピッ、とボタンを操作する。
そしてさっき連絡用に聞いたフレイの番号を呼び出すとキラに渡す。きょとん。としているキラにアスランは優しく笑いかける。
『後はこのボタンを押せば繋がるよ』と一言付け加えた。
その表情が余りにも優しげで綺麗で…キラは彼に思わず見惚れてしまった。

「キラ?」
「え?あ、、」
「あ?」
「あ、ありがと…」

小さな声でそう言うキラが愛しくて。アスランは浮かべていた笑みを更に深くした。

「どういたしまして」












そして冒頭のフレイの台詞に繋がる。

『大体、キラ!あんたいい加減携帯くらい持ちなさいよ!!今時有り得ないわっ』
「う、うーん…」
『連絡取れなくてヤキモキするのはもう今回だけで懲り懲り…』

少し淋しそうなフレイの声にキラは申し訳ない気持ちで一杯になる。

「ごめんね…フレイ。ミリアリアにもごめんって謝っておいて」

ミリアリアにも後で自分の口で謝るつもりだが、少しでも早く謝罪の気持ちは伝えたかった。


『で、話しは戻るけど今どこにいるの?』
「えっと、ここはー」

自分の居場所を説明しようとした、まさにその時だった。キラの手の中から再び携帯が消えた。

「え?」

驚いて顔を上げるとにんまりと笑みを浮かべている彼がいた。

『キラ?どうかした?』

フレイの声が携帯から小さく聞こえてくる。話さなくては彼女が変に思ってしまう。
そんなキラの気持ちを知ってか知らずか、アスランはキラの代わりとばかりに話し始める。

「どうもしないさ、ただ俺達はこれから別行動なんで居場所は教えられない」
『なっ!!』
「アスランっっ」

そう宣言すると何かまだ言っているらしいフレイを一切無視してピッ、と通話を切ってしまった。
突然のアスランの行動にキラはすぐには言葉もでなかった。
しかし、携帯を切った後のアスランの顔が子供のように悪戯っぽくて楽しそうで。普段の彼からは想像もつかない姿だった。
そんな彼を見てしまってはフレイ達には悪いと思いながらも彼の好きにさせてあげようと思ってしまう。
キラはフレイ達に心の中で『ごめんね、明日いっぱい怒られるから』と詫びると今日残り僅かの時間をアスランの為だけに使おうと決めたのだった。
















「もう、何考えてるのさ…」

後で怒られてもしらないから。とチラリと恨めしそうにアスランを見上げる。
するとアスランは、ふっと笑みを浮かべながらキラの顔を見つめる。

「もうやめたんだ。」

「?…何を?」

アスランの言っている意味が分からずキラは首を傾げる。

「色々。我慢するのをね。」
「は?」
「今回の事で思い知ったんだ。俺が気持ちを抑えて何かすると悪い事しか起こらない」
「そ、そんな事は…」
「いや、あるんだ。それに…」

アスランは一端言葉を止めて、キラの顔を見て目を細める。
キラは彼の言わんとしている事がいまいち分からないという感じできょとん。としている。
そんな姿が愛しくて、その身体を再び抱きしめてしまいたい衝動に襲われる。

(もう、抑えようと思っても抑えきれない。この気持ちは…)

今まで気持ちを抑えられていたのが不思議なくらい、今はキラへの気持ちが溢れている。
相手も自分と同じ気持ちだと知った今、それを抑える必要性こそない。

「それに…何?」

アスランの言葉を辛抱強く待っていたキラだったが痺れを切らして問いかける。

「それに、キラ相手には少しくらい強引な方が丁度いいって分かったから」
「なっ!何それー!!」
「言葉の通りだよ。キラはどうも物事を悪い方向に考えすぎるからね」
「むー」

アスランのあんまりな言い草にキラはぷーと頬を膨らます。
そんなキラの仕草一つ一つが可愛らしくて目が離せない。ほっとけない。恋は盲目とはよく聞くけどホントだと思う。
もうキラしか見えない。キラしかいらない。
そこまで思ってしまう自分はもうどうにもならないな。と苦笑を浮かべる。
するとその笑みを別の意味に取ったのかキラが不満の声を漏らす。

「何、笑ってるのさっ」

そんなキラが可笑しくて思わずぷっと吹き出してしまった。
一度、笑い出したら止まらなくて一応堪える努力をしながらも抑えきれずに笑っている。

「もうっ一体何なのさっっ」
「……っはは。ごめん、ごめん。」
「…アスラン…そんな顔が笑ってたら説得力ゼロだよ」

それもそうかと一度大きく深呼吸すると漸く落着いた。
キラはむすっと膨れた顔でアスランを睨んでいる。ああ、怒った顔も可愛いなとか思っているあたり自分は相当ヤバイ。
そもそもこんな事考えているのがばれたらキラが更に憤慨するだろう。

「大体、アスランは…」

ドーン。と光とともに大きな音がキラの言葉を遮って空に鳴り響いた。
どうやら花火大会が始まったようだ。


「キラ!こっちっ」
「え?」

突然、アスランがキラの手を取ると引っ張るように走り出した。
しかし、浴衣のキラは履いているのも下駄なので上手く走れずもたつく。

「ア、アスランっっちょっと…待っ…わっ」

それでもずんずん進んでいくアスランに必死で着いて行っていたのだが等々足を取られて躓いてしまった。
キラは思わず目を閉じる。すると予想している痛みはいつまで経ってもやってこず、ぽすと何か温かいものに受け止められる。
そろそろとキラが目を開けるとそこにはさっきまでキラを引っ張っていた張本人のアスランがキラを抱きとめていた。

「大丈夫?」
「…うん」
「ごめん。無理に引っ張って…足とかどこか痛めなかった?」
「ううん。大丈夫…」
「そう、良かった」

心底ほっとしたように微笑むアスラン。強引に引っ張ったのは自分のくせに…と心の中で悪態を吐く。
しかし、その優しげな笑顔とこの行動のおかげで先程まで起こっていた気持ちが何処かに飛んでいってしまった。

「キラをここに連れてきたくて」

そう言われてキラが見上げると木々の間にぽっかりと開けた空間があり、そこから光の大輪の華が咲き誇っては消えていった。

「うわぁ…」

キラが感嘆の声を漏らす。

「ここ穴場なんだ。他にももっといいベストポジションはあるかもだけど、そっちには人が沢山いるから」

キラにはこっちのほうがいいと思って。そう言ってくれる彼。優しい気持ちが心に溢れてくる。
どこまで自分を好きにさせれば気が済むのだろうこの人は。
キラはふと未だ二人の手が繋いだままなことに気付く。それにうっすら頬を染めると自分の気持ちを込めてきゅっと握り返してみた。

「!!キラ?」

不意に繋いでいるキラの手に力が篭った。アスランが驚いてキラを見遣るとキラは空に咲く華を見つめていた。
しかし、アスランは見過ごさなかった。夜空の光がキラの顔を照らす度に見えるキラの目元が薄ら赤らんでいるのを。
可愛らしいくも初々しいキラの意思表示にアスランは顔に浮かぶ笑みを更に深くした。
そして、アスランもそれに答えるようにキラの手を優しく握り返す。

花火大会が終わるまで、二人の手が離される事はなかった。








                                        



 ◆あとがき◆
はい。お疲れ様でしたー『ラブ・シンフォニー第28話』をお届けしました。
漸くです。花火大会が終了しましたー残りはあと本当に少しです。今回はやっと報われたアスランさんに少しだけ
幸せ気分を味合わせてあげました(笑)ここまで来るのに長かったですからねー既に一年以上経過してます…
では、あとほんとーに少しです。間が空かないように続きを頑張りますっっ!!