ラブ・シンフォニー  第26話






「……はぁ……」
(僕ってどうしてこうなんだろう…)

お祭り会場にもなっている神社の入り口付近でぽつんと佇んでキラは重々しく溜息を吐く。
今日は何も考えず楽しむ事と、フレイに言われてキラ自身もそう努力しようと思っていた矢先にこんな事になっている。
元々自分自身に対してよい感情は持っていないが自分の鈍くささにホトホト嫌気が差してくる。

「あら?キラ?」
「え?」

キラが何度目かの溜息を吐いた時、どこか聞き覚えのある優しい声がした。
反射的に俯いていた顔を上げるとそこにあったのは今、世界で二番目に会いたくない相手だった。

「やっぱり!キラではありませんか!!」
「ラ、クス…」
「まあっ!覚えていてくれたのですか?!嬉しいですわ」

ニコニコ笑うラクスは藍色の浴衣を身に纏っていて彼女の真っ白な肌と桃色の髪にとても良く映えていた。
咄嗟に思い浮かべてしまったのは彼女の横に立つ彼の姿。きっとお似合いなんだろうと思うと悲しい気持ちになってしまう。
彼女がここにいるならもしかしたら彼も来ているのだろうか?途端に強い嫉妬心に苛まれる。しかしすぐにその事に苦笑を漏らした。
約束を違えたのは自分なのに彼と一緒にいるラクスに嫉妬するなんて自分勝手だ。なんて我侭なんだろう。
きっと彼もこんな自分を知ったら嫌いになる。そしたら自分から離れていってしまう。それだけは耐えられないから。






「あの時連絡先を伺うのを忘れてしまって…もう会えないかと心配してましたの」
「………」
「でもこんな所で会えるなんて偶然ですわね?キラは今日はお友達といらしたのですか?」
「あ、ああ、うん。でも、逸れちゃって…」
ラクスの話を半分上の空で聞いていた為、突然の問いかけに慌ててしまった。
しかし、そんなキラを気にする事もなくラクスは話を進める。

「まあ…それは大変ですわね…宜しければ探すお手伝いしましょうか?」

キラを見つめるラクスの瞳は心底心配そうな顔をしていた。きっと彼女はキラの事を本当に心配しているのだろう。

(良い人だな…)

こんな出会い方をしていなかったらホントにいい友達になれたのに。でも、否、だからこそ自分の事で二人を煩わせたくない。
折角の夏の思い出を楽しいものにして欲しいと思う。自分の事なんて忘れて。
キラは彼女にゆっくり首を振った。

「…いいよ。ラクスも誰かと一緒なんでしょ?僕になんて付き合せたら悪いよ」
「…ですが、キラをこのまま一人になんて…」

余程の心配性なのか彼女は中々納得してくれない。ラクスの優しさを嬉しく思いながらキラは彼女を安心させるようににっこりと微笑んだ。

「大丈夫だよ!逸れたときに落ち合う場所、ちゃんと友達と打ち合わせてるから。今そこに向かってる最中だったんだよ?」
「そうなのですか?」

勿論、嘘だ。そんな打ち合わせなんてしてない。フレイとここに来たのだって突然だったのだ。そこまで打ち合わせる暇はなかった。
しかし、こうでも言わないと彼女が納得してくれないと思った。キラは笑顔を崩す事無く言葉を続ける。

「うん。だから僕の事は心配なんてしなくていいからラクスも彼と楽しんできて」
(彼?)
ラクスはキラの言葉に含まれていた『彼』という単語に首を傾げる。しかし、目の前のキラは自分が何を言っても駄目だと全身で言っている。
ふーと諦めたように深く溜息を吐いたラクスは手に持っていた巾着から何かを取り出した。
「…分かりましたわ」

どうやら書くものだったらしく何かをその紙にスラスラ書き込むとキラの手に渡して握らせた。

「ラクス?」
「私の連絡先ですわ。また偶然出会うまで待つなんて嫌ですもの。アスランも何故が教えてくれませんし…」
「………」

ラクスの口から漏れたアスランの名前に胸がちくんと痛む。

「では、キラ。ご連絡、楽しみにしてますわね」

何度も振り返るラクスにキラも絶えず手を振り続けた。漸くラクスの姿が見えなくなったところでキラは体の力を抜いた。

(ラクスがもっと嫌な人だったら良かったのにな…)


キラは俯いて小さく微笑を浮かべた。そして、一度落ち着くために瞼を閉じる。
次に瞼を開けたと同時に凭れていた鳥居の柱からぴょん。と勢い良く飛んだ。


「さーて。これからどうしようかなー」








                                        



  ◆あとがき◆
 はい。『ラブ・シンフォニー』26話をお届けです。
 結構時間が開いてしまいました…ホントはもっと早く更新できる筈だったんですけど…可笑しいな???
 今回はラクス様再びです。ラクスはただキラを一目で気に入って仲良くなりたいと思っているだけなのに、
 キラはアスランとの事を誤解しているからラクスが優しければ優しい程、いろいろ葛藤してしまうんです。