ラブ・シンフォニー  第23話














 「 ― さて、これはどういう事なのか勿論、説明してくれるわよね?」

堰を切ったように泣き始めたキラが少し落ち着き始めたのを見計らってその場をミリアリアに託したフレイはリビングにいた。
そして彼女の目の前にはキラの状態の事情をもっとも知っているであろう人物が座っている。アスランである。
そもそもフレイとミリアリアが今日キラの家に来たのは偶然でも勿論、フレイの気まぐれでもない。
キラの母カリダがやはりアスラン一人に任せるのは多少心配な所もあったのだろう、フレイ達に様子を見てきて欲しいと頼んでいたのだ。
フレイ達は詳しい事情を知らされないままキラ宅まで取り合えず着たところ、この状況を持て余していたアスランに遭遇して、現在に至る。

 「 私が知る限り、キラは夏休み前までは普通だったわ。男性恐怖症も治す事に前向きだったし 」
 「 …………… 」

彼、アスランは神妙な面持ちで黙ったまま視線も下を向けたまま動かそうとしない。その態度にフレイは眉を寄せ、口調を更に強めて言葉を続ける。

 「 それなのに今のキラの状態はどういう事?体調を崩しているのもそうだけど、それよりもなんであんなに精神的参ってるのよ?!」

アスランは辛そうに顔を歪めてぐっと膝の上の拳を握り締める。
その様子を見てフレイは確信する。やはりキラの様子がおかしい原因は彼なのだと。

 「 フレイ、そんなに頭ごなしにポンポン言われたらザラ君何も言えなくなるじゃない? 」

ガチャッとドアを開ける音と共に聞こえてきた声にリビングにいた二人は振り向く。

 「 ミリィ…キラは?」
 「 今は眠ってるわ、きっと泣きつかれたのね… 」

ミリアリアは少し悲しそうな笑みを浮かべてアスランを見る。

 「 ねぇ、ザラ君。何があったの?キラは私達の大切な親友なの。そのキラが泣いていても理由が分からないと何もして
  あげられない…何て声をかけてあげればいいのかもわからない……それが凄く辛いの… 」
 「 ………… 」
 「 お願い…ザラ君 」

ミリアリアの真剣な声にアスランは視線を上げて彼女に向けた。
彼女は…いや、彼女達は本気でキラの事を心配している。それが痛い程伝わってくる。
フレイがあんなに怒っているのもキラを想ってのことだ。やはり彼女たちには話さない訳にはいかないようだ。
話せば今以上に叱責されるだろうがそれがキラを傷つけた事への罰に少しはなるのなら甘んじて受けようと思った。
そして、アスランはゆっくりと話出す。

 「 ………俺の…せいなんだ……… 」

漸く、語りはじめたアスランをフレイとミリアリアは黙ってその話を聞く。

 「 …今日、本当は久しぶりにキラに会う予定だった……でも昨日、偶然街でキラに会ったんだ……
  俺は昨日まで家に来ていた客の相手をさせられてたんだが…その…キラに会った時もその人と一緒にいて…… 」

 「 そのお客って女の人?」

ミリアリアの質問にアスランは頷く。
フレイは額に手を当ててはーっと思い切り溜息を吐いた。

 「 あんた、馬鹿じゃないの?夏休みになって全然会えなかった相手が見慣れない女と二人で歩いてたら誤解しない方がおかしいわよ!
 普通の友達だったらそんなのどうって事ないかもしれないげと、キラとあんたは普通とはちょっと違うでしょっ!!
 そんな誤解されるシチュエーションで知らない女といるとこなんて見たらあの子がどう思うかなんて簡単に想像がつくじゃないっっ 」

思っていた通り凄い剣幕で捲くし立てるフレイの叱責をアスランは黙って受ける。彼女の言うことはもっともだから。
ラクスが外出したいと言い出したのだから外出は相手役としては仕方なかったとしても、もっと気を配るべきだったのだ。
こんな近所を出歩いていたらキラと遭遇する可能性が高いのは分かりきっているのに。

 「 でも、その人はザラ君とは何でもないんだよね?」
 「 ああ。彼女とは何でもない、ただの幼馴染なんだ 」

ミリアリアの質問にアスランは噤んでいた口を再び開いてはっきりと彼女との関係はは否定した。
アスランの態度にミリアリアの口元は少し緩む。彼の気持ちはやはり本物のようだ。ただ、キラもアスランも自分の気持ちにも
相手の気持ちにも鈍いのだ。その上、恋愛の経験値が低い故に気持ちの伝え方が下手なのだ。
普通なら見ていて微笑ましい光景なのだろうが、この二人の場合度が過ぎている。
だからすれ違ってしまうのだお互いが特別に想い合っているなんて本人達以外にはバレバレなのに。
それにキラの場合、未だ男性に不信感があるのだ。それが彼に会ってから少しずつ改善されていた所に今回の事はさぞキラの心を乱したのだろう。

 「 じゃあ、なんですぐにキラに誤解だって言わないのよ!」

フレイは、何事もはっきりしないと嫌な性質だからアスランの今の態度も行動も許せないのだろう。

 「 誤解は…解こうとした……でもキラは俺の話を聞いてくれないんだ……さっきも俺がいるのは夢だって言って信じてくれなくて― 」
 「 そんなのただの言い訳だわっ 」


いまだに興奮冷めやらぬといった状態のフレイはアスランの言い訳めいた話をぴしゃりと一喝して止める。
ミリアリア的にもアスランにはもう少ししっかりして貰いたい気持ちがあったのでフレイを止めずにいたのだがそろそろ潮時かもしれないと思った。
ミリアリアは苦笑を浮かべながら尚もアスランに叱責を浴びせているフレイを止めに入った。

 「 ハイハイ、フレイ。もうその辺でやめときなよ。」
 「 なによ!ミリィはこいつの肩をもつの?」
 「 そう言う訳じゃないけど、ここでザラ君に怒っていても何もならないでしょ?」
 「 それはっ、、、そうかもしれないけどー 」
 「 確かにザラ君にはもっとしっかりして貰わないとキラを任せられないけど… 」

ミリアリアはわざと少し冷めた目でアスランを見た。アスランは少し居心地悪そうに視線を逸らす。

 「 でも今は先にキラの誤解を解かないと… 」
 「 すまない… 」
 「 そう思うならもうこれっきりにしてよ?」
 「 あ、ああ… 」
 「 その言葉忘れないでよっ次またキラを泣かせるような事をしたら絶対に許さないから!!」
 「 肝に命じておくよ。もう二度とキラを泣かせたりはしないっ 」

はっきりと二人に約束するアスランの真剣な翡翠の瞳を見てミリアリアもフレイも目を見合わせて満足気に微笑する。
今度こそ、きっともう大丈夫だ。彼はきっと約束を守ってくれる。
あとは、キラの誤解と二人の関係の軌道修正をするだけだ。友達から恋人へと……




 「 多分、今のキラには普通にザラ君が何かを言っても駄目なんだよ…… 」
 「 だったら普通じゃない状況にすればいいじゃない?」
 「 普通じゃない状況?」

いつの間にかリビングでは三人でキラの誤解を解く為の作戦会議が始まっていた。
暫く彼是と考えていたところフレイが一つの提案を思いつく。アスランが少し驚いた顔をしてフレイを見ると彼女は少し顔を赤らめた。

 「 べ、別にあんたの為じゃないわよ!私にとってもキラは大切な友達だものっだからキラの為なんだからっっ!!」
 「 ふふふ、フレイったら素直じゃないんだから 」
 「 ありがとう… 」

くすくす笑うミリアリアと申し訳なさそうにしかし嬉しそうに微笑するアスラン。

 「 それで?さっきのはどういう事?」
 「 え?ああそれはね― 」

まだ微かに顔を赤らめているフレイはにんまりとした笑顔を浮かべると自分が考えた作戦をアスランとミリアリアに話し始めた。










                                          




   ◆あとがき◆
はい。今回は少し早めに更新できました。『ラブ・シンフォニー』23話をお届けします。
今回は、アスラン、フレイ達に怒られるの回(笑)でした。
そして、キラ登場せず………毎回、メインのどっちかが登場しないなー最近。。。
次は二人とも登場します…多分。。。。。
アスランはキラをほったらかして帰った訳ではなかったのです。そして、キラママは一応、ミリアリア達にも頼んでいたりしたのです。