ラブ・シンフォニー 第22話
優しくて温かくてとても安心できる手の温もりを感じた気がした。
お母さんかな、と思ったけれどでもどこか違う気がして…でもとても知っている感じ。
頭はふわふわ、ぼんやりする。お母さんが熱があるって言っていたからそのせいなのかな…
何だか凄く嬉しい夢を見ていた気がする。
ぼんやりする頭でどんな夢だったっけ?と思い出して見て、少し悲しくなった。
( そんなこと…ある訳ないのに… )
アスランの夢を見たんだ。と思い出してしまって、思い出した事を少し後悔する。
いい夢のままで幸せな気分に浸っていれば良かった。
現実にはある訳のない事なのだから。
アスランがここに来てくれるなんて。出来過ぎた夢だ。
( 昨日の今日だから願望が夢に出ちゃったのかな )
昨日、アスランとラクスの二人の姿を見てしまって、その姿が絵に描いたような恋人同士の光景に見えた。
その光景を見ているのが辛くて、苦しくて、そして逃げ出して。それでも二人の事が頭から離れなくて自分がアスランを好きだと自覚した。
でもそのアスランにはラクスがいて…自分とアスランは友達で…
自分でもどうしていいのか、どうしなくてはいけないのか、わからなくなってしまった。
( 取り合えず、今日の事はアスランにちゃんと謝らなくちゃ… )
今日は久しぶりにアスランと会う約束していた。少し前までは凄く楽しみにしていた今日という日。
でも、今日は普通に会える自信がなかったから、熱が出てくれて良かったと思った。
きっとアスランの事だから律儀に電話くらいはくれた筈だ。母もちゃんとそれに対応してくれたと思う。
もしかしたら仮病だと思われたかもしれない…昨日の自分の態度はあからさまに変だったと自分でも自覚しているから。
そう思われたって仕方がない。でも―
「 会いたくない訳ないのにな… 」
思わず口に出してしまった言葉。無意識に出てしまった自分の声にキラは吃驚してぱちりと重かった瞼を持ち上げた。
目の中に急激に入ってくる光に目が慣れなくて、その眩しさに目を細めた。
「 あら、漸くお目覚め? 」
「 会いたくないって誰に? 」
自分以外の声が聞こえてきて、明るさに慣れ始めた目を向けた。
真っ白だった視界が少しずつクリアになっていく。すると、ベットの傍らに居たのは母親のカリダでも勿論、アスランでもなくて―
「 …フレイ?ミリアリア?」
キラの部屋に居たのは二人の親友だった。
思いもしていなかった人物の登場にキラはまだ夢でも見てるのかな?と思ってしまう。
でも、それは夢などではなく現実で。二人はキラの寝ているベットの脇に座り込む。
「 まったく…久しぶりに遊びにきてみれば…何寝込んでるのよ 」
唐突に始まったフレイのお説教にミリアリアは補足を加えてくれる。
「 今日は久々に私もフレイも部活がなくって、キラのところに行こうかって話しになったの。
そしたらキラの家に電話しても誰も出ないし、キラって携帯持ってないしでしょ?」
連絡とれなくって。と、突然来たことに対して申し訳なさそうにミリアリアが苦笑する。
「 それならキラの家に直接押しかけるしかないじゃない?」
しかし、フレイはそんな事微塵も考えていないのか、実にシンプルな答えだった。
何でそうなるんだろう?キラは頭がぼんやりしていながらも思わず心の中で突っ込みをいれてしまう。
「 だって、もしかしたら電話の直後に帰ってきてる可能性もあるじゃない?」
「 そう言って聞かなかったのよ 」
ミリアリアは呆れたように深く溜息を吐いた。
「 でも結果的に着てよかったじゃない。現にキラは家に居た訳だし 」
「 まあ、それはそうだけど 」
「 結果オーライって事よ 」
その彼女らしい言動にキラは思わずくすくすと吹き出してしまった。
ホントにフレイらしい。思ったら悩むよりも先に行動に出る。やらずに後悔するくらいならやってから後悔した方がいい。
と、言うのが彼女の自論らしい。彼女のそういうところがキラには少し羨ましくもあった。
彼女の十分の一でもいいから自分に行動力があれば、アスランに真意を問いに行く事だってできるだろうに…
「 キラったらいつまで笑って… 」
フレイが笑い続けているキラの顔を覗き込むように蹲う。キラの顔を見たフレイは途端に目を瞠った。
「 え?どうしたの?フレイ… 」
覗き込んだキラの顔は表情こそ笑っているが、その大きな菫色の瞳は揺れていて、涙が溢れ出していた。
「 キラっ! 」
「 どうしたの?どこか痛いの?」
キラの涙を見た二人が慌てるのを見て、キラも始めて自分が泣いている事に気が付いた。
何でもないと笑いたいのに上手く笑えなくて、せめて意思は伝えたくてキラはブンブンと首を横に振った。
普段と変わりない二人の様子に気が緩んでしまったのか、それとも堪っていたものが限界を超えたのか。
一度、堰を切ってしまったキラの涙は何度手で拭っても次から次へと溢れてきた。
「 あれ?僕…どうして…?」
自分が涙を流している原因をキラ自身が分かっていない。
そんなキラにフレイとミリアリアは苦笑して優しく声をかける。
「 キラ、いいから。もう大丈夫だから… 」
「 涙が出るって事は今のキラにそれが必要だからだよ。」
だから、無理に止めなくていいと。好きなだけ涙を流せばいいと。そう、微笑んでくれる。
二人の優しい言葉に余計に目の奥が熱くなり、キラの涙は本格的に溢れはじめた。
◆あとがき◆
はい。お久しぶりの更新です。『ラブ・シンフォニー』第22話をお届けです。
前回UPが1月下旬…更新遅くて申し訳ないです……まだ付いて来てくれてますでしょうか?(ドキドキ)
続きはもう少し早くできたら…と思っていますが、どうですかね?(聞くなっ)
さて、今回はアスランが全く登場してませんが彼はどこに?何故フレイとミリアリアが?といろいろ謎な部分が多いですが
全て次回(多分)に明らかになります。(皆様大体予想していると思いますが…)