ラブ・シンフォニー 第21話
― ガッチャ ―
少し控え目に開かれる部屋のドア。中に眠るこの部屋の住人を起さないように細心注意を払い、最小限の物音ですむように心掛ける。
ここで彼女、キラが目を覚ましてしまったら…そう考えるだけで冷や汗モノである。
あれから…キラの母カリダが出掛けてからたっぷり三十分余り途方に暮れていたが、いつまでも玄関先でこうしていても仕方がないと
覚悟を決め、取り合えずキラの様子を見に行こうと思ったアスランはキラの部屋を探す為二階に向かった。
そして、なんの苦労もなくキラの部屋はかなりあっさりと発見できた…のだが、、、
( 女の子の部屋に本人の許可なく入るのはやっぱり拙いのではないか?)
ドアノブに手をかけてはたと考え込む。
これでドアを開けたときキラが起きていたら自分はどうすればいいのだろう?
しかし、カリダからキラの事を頼まれているし、それにもしかしたらキラの体調も悪化しているかもしれない。
( そうだよ、これはキラの様子を見るだけの為に部屋に入るんであって邪まな気持ちがある訳ではないんだから )
一体誰に言い訳しているのか、己を言い聞かせるように呪文を唱えているみたいに心の中で呟き続けた。
そして、漸く腹を括ったのか意を決して握っていたドアノブをゆっくり回してドアを押した。
部屋の中はカーテンが引かれている為に少し薄暗いかった。アスランはそっと室内を覗き込む。
ゆっくりと見渡して観察すると中から小さな寝息が聞こえてきた。どうやら起きてはいないようだ。
アスランはその事にほっと胸を撫で下ろす。取り合えず、第一関門突破した気分である。
そのまま静かに部屋の中へと入り込むと小さな寝息の聞こえるベットへと近づく。
その時も物音を立てないように細心の注意を払う事を忘れない。ベットに眠るキラの様子を伺おうとアスランが覗き込もうとした、
まさにその時 ―
「 ん… 」
アスランとは反対の方向を向いていたキラが寝返りを打った。幸い目を覚ますことはなかったがアスランは完全に体がフリーズしている。
固まっている体とは裏腹に鼓動は通常の2倍速で打ち付けている。
( びっ、びっくりした… )
脱力して折れてしまいそうな膝を懸命に耐えながら、未だ夢の世界にいるキラに目を遣る。
急に寝返りを打たれて驚いたが様子を伺うには都合が良かった。まあ、結果オーライってヤツである。
やはり少し熱が高いのかキラの頬は薄ら赤らんでいて、表情も少し苦しげだった。
そんなキラの様子に申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「 キラ…ごめん… 」
熱で汗ばむキラの額に張り付く前髪を優しく払ってやりながらアスランは謝罪の言葉を紡ぐ。
自分がもっと考えて行動していればキラがこんな苦しい思いをすることもなかった筈だ。もっと早く、ラクスの事も話しておくべきだったのだ。
でも、今後悔したところで過去は戻りはしない。だったら今出来る事をするしかない。
今、自分がキラに何が出来るか。それは真実をありのまま語る事だ。そう思って今日自分はキラの家に訪れたのだから。
「 う…ん……誰?お母さん?」
「 キラ、目が覚めた?」
「 アス…ラ…ン……??」
「 そう、俺 」
アスランがキラの部屋に入室して一時間余りと言うところでキラは漸く目を覚ました。
熱で頭がぼんやりとしているのかアスランがいる事に対してもそれと言って何の反応も示さなかった。
そんなキラにアスランは優しく声をかける。
「 気分はどう?どこか痛いところとかある?」
その質問にキラは首を横に振ることで答える。視線はぼんやりとしているがその瞳はずっとアスランを見つめていた。
そして、暫くして桜色の唇が小さく動いた。
「 どうしてアスランがここにいるの?」
そう尋ねるキラにアスランは目を細める。シーツの上にあるキラの小さな手をきゅっと握った。
「 だって、約束したじゃないか。今日会おうって 」
アスランの言葉にキラは驚いた様子で目を瞠る。しかし、すぐにその表情を消すと何か納得したようににっこりと微笑んだ。
「 キラ?」
その様子が余りにも不可解だったのでキラを見つめ直す。
「 だって、これは夢でしょ 」
さらり、と言ったキラの表情は先程と殆ど変わらずに微笑んだままだった。
「 キラ…何言って…… 」
「 だって、夢じゃなきゃアスランがこんな所に…僕の傍にいる訳がないもの 」
「 キラ、聞いてくれこれは夢なんかじゃ…― 」
「 ううん、これは夢、夢でしかありえない。でもね…夢の中でもアスランが会いに着てくれた、それが凄く嬉しいから 」
アスランが何を言おうとしてもキラは聞くことを拒むようにして今のこの状況を夢だといい続ける。
でもその表面上は笑顔のキラの瞳が今にも泣き出しそうなくらい揺れていて、表情が笑顔な分余計に痛々しく映った。
「 キラっ、キラっっちゃんと俺を見て俺の話を聞いてくれ。昨日の…ラクスの事は… 」
「 い、や…嫌、聞きたくないっ聞きたくないっっ 」
アスランがラクスの名前を出した途端、キラの様子が一変する。
辛そうに顔を歪めたかと思うと何もかも拒絶するかのように瞳を硬く閉じて手で耳を塞いでいやいやと首を振り続ける。
「 キラ…どうして… 」
どうしてそんなに俺を拒絶する?昨日の事の言い訳も自分はさせて貰えないのか?
いつまでたっても話すら聞いてくれないキラにアスランは僅かに苛立ち始めていた。
しかし次にキラから紡がれた言葉を聞いたアスランはそんな事を考えてしまった事を激しく後悔した。
「 聞いてしまったら…アスランは僕から離れて行ってしまうから…彼女の…ラクスの所に行ってしまうから… 」
騒ぎすぎて熱が上がってきたのかキラは辛そうに言葉を詰まらせながらそれでもアスランに訴えてくる。
「 いなくならないで…傍に…い……て……… 」
そう言ってキラは再び意識を手放した。
「 キラ… 」
◆あとがき◆
はい。待っていてくださる奇特な方がいるかどうかかなり不安ですが…『ラブ・シンフォニー』第21話をお届けです。
またしてもかなりの間が開いてしまってその間文章という物からかけ離れていたもので書き方をすっぱりと忘れてしまって
かなり支離滅裂ですみませんっっ中々展開が進みませんがまだまだ二人のすれ違いは続いてゆきます(苦笑)
次回はもう少し話が進むようにがんばっていきたいと思います。
今回のキラは本気で夢だと思い込んでいます。分かっていて認めたくないからではありません。
しかし、いくら夢だと思っていたとはいえあんな態度取られたらアスランでなくても凹みますよね…(汗)