ラブ・シンフォニー  第20話















翌日の朝。キラの気持ちの変化を知るはずもないアスランはキラの家の前に神妙な面持ちで立っていた。
昨日、ラクスと共にいた事情とラクスとの関係。キラには話さなくてはいけない事たらけだ。
折角キラと一週間ぶりに会える(昨日会ったが)のにその内容はアスランにとって重いものばかりだった。
それでもキラには会いたかったし、言わなければいけない事だと思った。それに……
昨日の去り際のキラの表情がずっとアスランは脳裏から離れなかった。
今にも泣き出しそうな、作った笑顔。

 ( キラの事だからきっと… )

誤解されたんだろうな。とアスランは思う。もしかしたら裏切られたとさえ思われたかもしれない。
ゆっくり、ゆっくり築き上げてきたキラとの関係。最初は戸惑い、怯えていたキラ。
それはもしかしたら今でも少しはあるのかもしれない。でも、キラは少しずつだけどアスランに気を許し始めていた。
それなのに…昨日の失態。後悔ばかりが頭を過ぎる。しかし、過ぎた過去はもう戻りはしない。
今、キラに何を言っても言い訳にしかならないかもしれないけれど、それでも聞いてもらいたかった。
アスランはゆっくり大きく息を吐いた。そして玄関先の門に備え付けられているボタンを押した。



― ピンポーン ―






 「 はーい 」

アスランを出迎えたのはキラの母、カリダだった。
カリダは玄関先に立つ青年を見て一瞬驚いた表情をしたがすぐにそれを消してふんわりと微笑んだ。

 「 あら、アスラン君 」
 「 おはようございます。朝からすいません…あの…キラ……さんは… 」
 「 おはよう。あの子なら部屋で寝てるの。昨日の夜少し熱を出しちゃってね 」
 「 熱?」
 「 大したことはないのよ?昨日雨に濡れたせいで風邪引いちゃったのね、きっと 」
 「 そうですか… 」

キラが雨に濡れたせいで風邪を引いたのならきっとそれは自分のせいだ。
自惚れかもしれないがあの時、キラを追いかけていればあの後振り出した雨にキラが濡れる事はなかったはずだ。
俯くアスランにカリダは優しく声をかける。

 「 アスラン君、風邪とかは引きやすいほう?」
 「 いえ、風邪とかは余り… 」

唐突なカリダの問いかけに咄嗟にアスランは素直に答えてしまう。

 ( なんなんだろう… )

カリダはアスランの答えを聞くとパンっと己の両の手を合わせて満面の笑顔を見せた。

 「 ちょっと頼まれて欲しい事があるんだけど…この後何か予定があったりする?」
 「 いえ、今日はその……彼女と出掛ける予定でいたので… 」

少し、表情を曇らせてアスランは答えた。
キラを心配して曇らせたであろう表情を見たカリダはその微笑を深くした。

 「 じゃあ、お願いしてもいいかしら?」
 「 はい、いいですよ。僕で出来る事でしたら 」

キラと今日は過す予定だったのだからそれが出来なくなった今、断る理由もなかった。
それにキラの母からの頼み事なら聞かない訳にもいかない。

 「 それで何をすればいいんですか?」
 「 あのね、実は急に出掛けなくちゃいけなくなったのだけど今の状態のキラを一人で残しておくのも心配だし
   どうしようかと思ってたのよ 」
 「 はー… 」
 「 そこでアスラン君にお願いなんだけど私が帰ってくるまでの間、家にいてくれないかしら 」
 「 はー………って、えーーーーーっっ!!」
 「 ね、お願い 」

両手を合わせて拝まれるようにされればもうアスランに断る事は出来る筈がなかった。
しかし、普通年頃の男に病気で寝ている娘を任せるか?と、アスランはひとり悶々と考える。
アスランがそうしている間にカリダはあっという間に身支度を整えていき、呆然とするアスランを余所に最後に止めの一言を放つ。

 「 あ、そうそう。キラ、今眠ってるから私が出掛ける事知らないのよ 」
 「 えっ?! 」

言っておいてね、と笑顔で玄関を潜るカリダをアスランは慌てて追いかける。
それは今の現状に至る経緯をキラが全く知らない事という事で。只でさえ言いにくい事を沢山話さなくてはならないのに…
それに、下手に誤解されたら質の悪いストーカーだ。
せめて、キラに自分が出掛ける事だけでも伝えて欲しかったというアスランの願いは叶う事無く、カリダは笑顔で出掛けていったのだった。

 「 どうしろっていうだよ… 」

初めて上がったキラの家でまさかこんな風に途方に暮れる日が来るなんて夢にも思わなかったとアスランは閉じられた玄関の扉を
少し遠い目で暫くの間見続けていた。






                                  




   ◆あとがき◆
はい。『ラブ・シンフォニー』第20話をお届けです。ラブシンは少し間が開いてしまいました…。
今回は、カリダさんとアスランです(笑)カリダさんがすっかりアスランとキラの恋の仲介人みたいになってしまっています。
フレイとミリィの立場が…(大笑)キラは今回登場なしでした。前回雨に濡れたのと衝撃(キラ的)事実を自覚したので
風邪プラス知恵熱ですね。どうしてか中々花火大会に行く事ができません(汗)そして、話数だけが無駄に増えて……