ラブ・シンフォニー  第19話












 「 …ただいま…… 」

あれからキラは当てもなく彼方此方を歩き回って漸く帰宅した時には数時間経っていた。
家を出たままいつまでも帰ってこないキラを心配した母親が捜しに行こうかと思っていたトコロに彼女は帰ってきた。
全身ズブ濡れで顔色も優れない娘の様子に母は慌てて持ってきたタオルをキラに渡すとキラをバスルームに行くように促した。
キラは言われるがままにバスルームに行ったが、濡れた服をそのままに立ち尽くしてぼんやりするばかりだった。

あれから…アスランとラクスに出会ってからずっとその事ばかりを考えていた。
何でそんなに二人の事が気になるんだろう?何で二人が一緒にいる姿を思い出すと胸がもやもやするんだろう?
そして、何でこんなにも泣きたい気持ちになるんだろう?友達だから?本当にそれだけ?
さっきからずっとこんな自問自答を繰り返していた。でも、答えは出ないまま気付けば自宅の玄関前に立っていた。

 ( 僕、どうしちゃったんだろう… )

キラがバスルームでぼんやりとしているとキラの着替えを持って母カリダがパタパタと入ってきた。

 「 キラっまだそんな恰好でー早く着替えちゃいなさい。風邪ひくわよ 」
 「 母さん… 」

キラが振り返りカリダを見る。そのキラの表情に一瞬驚いた顔をしたがすぐに優しい笑みを溢した。
そして、キラに歩み寄ると徐に手にしていたタオルをキラの頭に被せた。

 「 わっ!!何?」
 「 何があったかは知らないけど、そんな顔してたら幸せが逃げていっちゃうわよ?」

そう言ってキラの濡れた髪を優しく拭きはじめる。

 「 悩む事は悪い事ではないと思うけど、行き詰まった時には人に頼る事も必要よ 」

はい。いいわよと髪を拭っていたタオルを取り去る。カリダはにっこりとキラに微笑むと、

 「 母さんはどんな時でもキラの味方だから 」

それだけは忘れないでねと言ってくれる母の優しい心遣いが胸に沁み込む。
目の奥から熱いものが込み上げてきそうでキラはそれをぐっと我慢した。
そして、俯いていた顔を上げて目の前で微笑んでいる母にゆっくり自分の悩みを打ち明けた。








 「 そう、キラにもそんな風に想う人ができたのね 」

キラの話を聞き終わったカリダが始めに言ったのはそれだった。

 「 僕、ラクスの事もきっと嫌いじゃないと思うのに…でもアスランと一緒にいるのを見るのが嫌だなんて…僕すごい嫌な子だよね?」

悲しそうに言うキラにカリダはゆっくり首を振った。

 「 違うわ、キラ。キラはそのラクスさんの事嫌いではないのでしょう?」
 「 うん。 」
 「 でも、アスラン君と一緒にいるのを見るのは嫌なのよね?」
 「 …う…ん… 」
 「 だったら答えは簡単。キラはアスラン君の事が大好きなのよ 」
 「 え?」

カリダの言葉にキラの頭が一瞬フリーズする。

 ( 僕が…アスランを………好き?)

そんな事考えた事もなかった。勿論、友達としては好きだったけど。今、母が言っているのは明らかにその意味のものではない事は
流石のキラでも分かった。友情とは別の意味の好きと言えば導き出せる答えは自ずと知れていた。

― 恋愛感情 ―

そう思った瞬間、体中の熱が顔に集中したかのように顔が熱くなった。
ドキドキと胸の鼓動は早くなって呼吸すら上手くできなくなってしまいそうだった。
意識した途端、こんな風になったという事はカリダの言った事が正しかったという事でキラはその気持ちを認めるしかなかった。

 「 でもアスランにはラクスが… 」
 「 人を想う気持ちは抑えようとしても抑えられるものではないわ。でも、そうね。ここからはキラ次第、キラの問題ね 」
 「 僕の?」
 「 結果がどうであれ、キラが後悔しない選択をしないとね 」
 「 母さん… 」

帰宅した時に比べてキラの表情が和らいだ事に安堵したカリダはにっこりと微笑むと突然思い出したかのように慌しく動き始めた。

 「 さて、母さんはそろそろ退散するわ。キラもいい加減着替えないといけないしね 」

そう言われて自分の姿を見れば、帰ってきた時の濡れた服を着たままの状態だった。

 「 あ、母さんっ 」
 「 ん?」

パタパタとバスルームから出て行こうとする母を呼び止めたキラは少し顔を赤らめて恥ずかしそうに呟く。

 「 ありがと 」

その言葉にカリダは何も言わずただ優しい笑顔をキラに向けてくれた。



カリダが去ったバスルームで濡れた服を着替えながらキラははたとある事に気が付く。それは……

 「 明日…どうしよう…… 」

そう、アスランとの明日の約束だった。さっきまではアスランとラクスに感じた自分の訳の分からない感情に戸惑い
明日アスランと普通に接する事が出来るか不安だった。アスランとラクスの関係に対する不安は今でもある。でも今はそれよりも…
アスランに対する感情を自覚してしまったキラは別の意味で困ってしまっていた。
今、アスランがいない状態でも彼の事を考えるだけでドキドキしてしまうのに本人を目の前にしたら自分はどうにかなってしまうではないだろうか?

 ( アスランを直視できなかったらどうしよう… )

それから暫く、キラはバスルームから出てこなかった。







                                         



   ◆あとがき◆
はい。長らく間が開いてしまいました。『ラブ・シンフォニー』19話をお届けします。
今回は、キラの自覚編です。漸く、人の手を借りて自覚する事が出来ましたキラさん。普通の女子高生なら母親に
相談なんてしないと思うのですが、キラはカリダさんが大好きで誰よりも信頼していると思うので相談相手になって貰いました。
次回からはお互いがお互いを好きだとは気付かずに話が進んで行きます。どこまでも鈍いんですうちの二人は(笑)
もう後数話で第一部が完結できると思います。もう少しお付き合いくださいませ☆☆