ラブ・シンフォニー  第18話















 ( …アスラン?)

振り向いたキラの視線の先にあったのは見知った藍色の髪と翡翠の瞳の彼。
明日久しぶりに会う事が出来ると、楽しみにしていた― …しかし、今のキラは別の事で頭が一杯だった。

今日までアスランは家の用事で忙しいと言っていた。そして、明日久々にゆっくりできるのだと。
その彼が何故こんな所に現れるのか、そしてキラが出会ったばかりの少女の名前を呼んでいるのか、そして……

 「 アスラン 」

何故、彼女もアスランを親しげに呼んでいるのか…
キラの心には何か言葉に出来ない感情が込み上げていた。


 「 …ラクス、あれほど勝手な行動はしないでくださいと… 」

 「 あら?私、ちゃんと言いましたわ。ですのにアスラン、気付かずに先に行ってしまうのですもの 」

少し離れた所でラクスを発見したアスランは小走りでラクスに近づく。

 「 ですから、ちゃんと聞こえるように言って貰わないと言った事に………キラ?」

ラクスの傍まで近づいて漸くアスランはキラの存在に気付いた。
何故キラとラクスが一緒にいるのか分からず、困惑した表情で見つめる。

 「 あら?アスランとキラはお知り合いですの?」

 「 ええ 」

 「 キラは私がこのお店で困ってましたら声をかけてくださいましたの 」

 「 キラが?」

 「 それでたった今私達、お友達になったところですの。ね、キラ 」

そう言ってラクスはふんわりと微笑みキラを見る。
一体何時そんな話になったのだろうか、と頭でぼんやりと思ったが今のキラにはそれに対して何か突っ込みを入れれる精神状態ではなかった。
キラは少し困ったような笑みを浮かべて見せた。
そしてアスランもラクスの言葉に彼女に向けていた視線をキラに移す。

 「 キ… 」

 「 ごめん。僕、もう帰らないと。ラクスも、じゃあね 」

アスランがキラに話しかけようとするのを遮る形で一気にそう喋るとラクスにぺこりとお辞儀してキラは走り去って行ってしまった。


 「 ちょっ、キラっっ 」

アスランが走り去る後姿に慌てて声をかけるもキラは足を止める事無く、その姿は直ぐに見えなくなった。

 「 …キラ… 」

本当は今すぐにでも走って追いかけて行きたかったのだが、今のアスランはそれが出来ない状況だった。
アスランはキラの走っていった方を見つめながら、走り去る前のキラが浮かべた表情を思い出し遣る瀬無い気持ちになった。
俯いていて殆んど顔が見えなかったが、走り出す前に見せた無理をして作ったような笑顔、、、アスランは拳をぎゅっと力一杯握り締める事で
その場の気持ちをやり過ごす事しか出来なかった。
そして、そんな二人のやり取りをどこか落ち着いた様子でラクスは見つめていた。















一方、アスラン達から逃げる様にその場から走り出したキラは何処に向かう事なく走り続けていた。
ただ、あの場所にいたくなかった。あの二人の傍に。
二人がどんな関係だなんて分からない。今日会ったばかりだったけどラクスの事も嫌いじゃない、寧ろ好感のもてる子だった。
でも、アスランと親しげに話すラクスを見ているのが嫌だった。

 ( …そんなの… )

そんな風に思うのは変だ。自分とアスランの関係は友人である。それ以上でもそれ以下でもない。
確かに最初アスランはキラに付き合って欲しいと言ってきた事があったがその時それを拒否したのも今の友人関係を提示したのも自分。
今の関係を望んだのは自分なのだ。そして、アスランはそれを受け入れてくれた。
それなのに自分以外の誰かとアスランが親しげにしている姿が嫌なんて…
いつしか走っていた足はゆっくりと歩き始めていた。

 「 …僕は…… 」

自分で自分の気持ちが分からなかった。ただ、胸の辺りがもやもやして苦しかった。
アスランとラクス、二人の姿を思い出すだけで切なさが込み上げて泣きたい気持ちになった。
歩みを止めて、空を見上げて見るとキラの心情を映したかの様に空はどんよりと曇っていた。

 「 …朝はあんなにいい天気だったのに 」

本当に自分の心みたいだ。
明日アスランに会えると心を躍らせていた自分が何だか馬鹿みたいでキラは苦笑を浮かべた。

 「 明日…僕は普通の顔して君に会えるのかな…?」

誰に言うでもなくそう呟いたキラの頬に一滴の雨が降ってきた。しかしキラはそれに構う事無く再びゆっくり歩き始めた。


その後直ぐに雨は本格的に降り出し始めた。










                                         



   ◆あとがき◆
はい。ラブ・シンフォニー18話をお届けしました。今回はアスキラすれ違い編です。
と、言うかキラ、誤解編です(笑)ここまできてもキラはまだ恋愛感情に気付きません。恋愛をしたことがなくて
キラのように鈍かったりすると親愛や友情と恋愛の境界線みたいなモノが分からないと思うのです。
今の自分の気持ちが友情からくるモノなのかそれとも恋愛感情からくるものなのか。傍からみていると明らかに後者だと思われても
本人からすれば自分の良く分からない感情で悩むと思うのです。キラの場合アスランは始めての男友達ですから
余計に分からなくなってしまうと…もう少しキラの心情を切なく書きたかったのですが…これが今の私の限界です…精進、、、します(苦)