ラブ・シンフォニー 第17話














 ( 妖精かと思った… )

流石にそれは言葉の彩だがそう言われても何の違和感のないような少女が今、キラの目の前に居た。
あの後、彼女に気付いてから少しの間様子を伺っていたキラだったが、やはり不釣合いな場所にいる感がしてならない彼女は
その場でも浮いた存在でキラが場所を移動してもどうしても目に付いて仕方がなかった。
それにどこか困った様子でもあったのでキラは思い切って声を掛けてみた。





―そして、現在に至るのである。



 「 では貴女はキラ様とおっしゃるのですね?」

 「 はあ…まあ…… 」

 「 わたくしはラクスと申します 」

 「 ラクスさん…ですか 」

ふんわりと微笑んだ少女…ラクスは緩くウエーブのかかったピンクの髪を揺らしながらゆっくりと首を振った。

 「 いいえ、私の事はラクスとお呼びくださいな。キラ様 」

ラクスの申し出にキラは驚き、慌てた様子で手をブンブンと振って否定の意を表す。
いくら何でも今日初対面の相手をいきなり呼び捨てにするなんて出来る訳がない。
キラの様子を見てクスリと微笑んだラクスは人差し指をピッとキラの目の前に立てた。

 「 貴女は困っているわたくしを助けてくださいましたわ。わたくしはその恩義に敬意を示さなくては気が済みませんの 」

そこまで言っても考えあぐねている様子のキラにラクスは優しげな微笑みを浮かべるとキラの手をきゅっと握った。

 「 え?」

突然のラクスの行動に驚いてキラはすぐ反応する事ができなかった。

 「 でしたら、わたくしも貴女の事をキラとお呼びしても宜しいですか?そうすれば貴女も気兼ねなくラクスとお呼びくださるでしょう?」

 「 いや、まあ…そうですけど… 」

どうも話が可笑しな方に進んでいる気がする。凄く場違いなところで困っていた彼女を見かねて声をかけた。
聞けば、彼女は一緒に居た人と逸れてしまっているらしい。きっとその相手の人も心配して捜しているだろう。
…なのに、こんなところでこんな事をしていていいのだろか?
そもそも、偶然ラクスを見つけて声をかけただけの自分との呼び方など不必要な事ではないか?
ここで別れてしまえば次会える可能性は限りなく皆無に近いのだ。まあ、絶対会う事はない…とは言い切れないかもしれないがー
こんないかにもお金持ちのお嬢様な風貌のラクスとの接点なんてこんな偶然でもない限りキラの生きていく上でない事だろう…
と、思ったところで最近姿を見ていない藍色の髪の友人の姿が過ぎる。

 ( そう言えば、彼もお金持ちなんだよね…?)

お金持ち学校のZ高に通っているのだから。そこまで考えて自分は何も彼…アスランの事を知らない事に気付いてしまう。

 「 キラ様?」

突然黙ってしまったキラにどうかしたのかと首を傾げる。
キラはしまったと思い、飛び掛けていた思考をこっちに再び切り替えてラクスに視線を合わせる。

 「 わかりました…だからキラ様ってのは止めて下さい、えっと…ラクス 」

 「 わかりましたわ、キラ。あ、敬語も止めて下さいましね 」

 「 えっ…じゃあラクスも…だよ?」

 「 わたくしのは口癖みたいなモノですので 」

だから仕方ないのだと、さらっと言ってしまう彼女にキラは何となくだがこの出会ったばかりの少女がどんな子なのか分かった気がした。
出会ったばかりでこんな言い方は可笑しいが凄く彼女らしいと感じたからだ。それが可笑しくてキラはくすくすと笑いを零す。


 「 …っごめん、君…じゃないラクスって面白いね 」

 「 そうですか?キラは凄く可愛らしいですわよ 」

些か笑い過ぎた為に少し瞳に溜まっていた涙がラクスの一言で思わず引っ込む。
その変わりに見る見る内に顔が真っ赤に染まっていった。
お金持ちという人種は何でこんなにさらっと恥ずかしい事をいってのけるのだろう…
もしかしたらそんな事を言われ続けて育っているのかなんだろうか。

 「 か、からかわないでよ…ラクス 」

 「 あら、わたくしは本当の事を言ってるだけですわ 」

 「 ………いいよ、もう…… 」

キラは諦めたように溜息を漏らす。これ以上言い合ってもラクスはきっと自分の言っている事を否定しないだろう。
それどころかこのままだと褒め殺しに合う気がする。キラは直感的にそう思った。
そしてこの少女の事を既に把握し始めてしまっている自分が何だか可笑しくてキラは小さく苦笑した。


 「 ラクスっ!!」


キラとラクスの柔らかな空気の中に突如飛び込んできた声。それはキラが今一番会いたかった人の声。




 「 …………アス…ラン……?」









                                         




    ◆あとがき◆
はい。ラブ・シンフォニー第17話をお届けです。やっと…やっとですっっ新キャラ、ラクス様登場です。
今回はラクスとキラの出会いです。そして、アスランお約束な場面で登場です。色々悩んだのですが…アスランとラクスが
会っているところを偶然見かけるとかでキラが偶然見てしまうパターンとキラとラクスが一緒にいるところにアスラン登場の
パターンでどっちにしようかと。結局後者の方になりましたが。さて、次回から少し修羅場があります。
アスランとキラ、花火大会までの道のりは何気に険しいです(笑)