ラブ・シンフォニー 第12話














 「 キラがこれを俺に…?」

手紙を渡した茶髪の少女が無言で頷く。アスランは途端に体を翻して走り出そうとする。

 「 待って!!一つだけ聞かせて下さい 」

少女の言葉にアスランはその動きを止め、振り返る。

 「 あなたはキラの事、本気なんですか?もし、そうでないのなら私達はあなたを行かせる訳にはいきません 」

二人は真剣な…本当に真剣な瞳でアスランを見据える。
その姿を見てアスランもこの二人が本当にキラの事を大事に思っているのだと感じる。
だからアスランも誠意を持って真面目に答えなくてはいけないと思った。

アスランはふっと表情を和らげると優しげな微笑を浮かべる。

 「 彼女は俺が心を許せる唯一の場所を持っている 」

それだけ言うと駆け出し、その場を後にする。
残された二人― …フレイとミリアリアは黙ってその背中を見送った。

 「 なんだ…結構本気っぽいじゃない… 」
 「 あとはキラ次第って事かしらね 」

二人はただ友人の健闘を祈るのだった。
















アスランは我武者羅に走っていた。キラからの手紙そこに書いてあった事、それは―

  『 裏門脇の大木の前まで来て下さい。』

そう簡潔に書かれていた。もしかしたら完全にこの関係を終わりにされるかもしれないという思いもあったが
それよりもキラに会える事の喜びの方が数段勝っていた。

 「 キラっ!!」

名前を呼びながら辺りを見渡す。しかし、それらしい影は見当たらない。
一体どこに…そう思いながら再度呼びかけようとした時…

 「 ザラ君… 」

小さな声がアスランの耳に届く。
アスランは声のした方に視線を向けるがやはりその姿を見つけることができない。

 「 キラ…どこにいるんだ?」

 「 お願い…そのまま聞いて。君の姿を見るとまた酷い事を言っちゃうかもしれないし…逃げちゃうかもしれないから… 」

どうやらキラの声のする方向から考えると大木と校舎の間にある壁の向こうからしているようだった。
キラの顔をちゃんと見て話したい気持ちも確かにあったアスランだったが折角キラが自分と話そうと言う気になったのに
この条件を蹴ったら本当に二度としっかり話せないかもしれない…だったら―

 「 わかった… 」

アスランはその条件を呑む事にした。
そして二人の一週間ぶりの会話は壁越しで、と言う形で始まった。





 「 …この一週間、酷い態度を取ってごめんなさい…君がずっと待ってくれていたなんて僕…知らなくて…… 」

 「 いや、それは俺が勝手にやっていた事だし、それに…キラのあの態度は正当だと思う
  俺はそうされても可笑しくない事をしたんだから 」

 「 ううん…違う…そうじゃない……元はと言えば僕が君に八つ当たりした事が原因だもの 」

そう…学校での事や自分の事で少しずつ溜まっていたストレス。その原因の一つには確かにアスランの事もあった。
でも、それだけではなかったのに彼に苛立ちをぶつけて…全ては彼のせいだと自分自身に思い込ませていた。

 「 そんな自分を正当化したくて…君を避けて……君を傷つけた…ごめんなさい、謝って済む問題じゃないって分かってるけど… 」

 「 キラは悪くない、キラが男が怖いって分かっていた筈なのに軽率な行動を取ってしまった俺が悪いんだ
  それに、君の気持ちを無視して勝手な約束を取り付けて無理強いしたのも俺だ 」

だから、全て自分が悪いのだとアスランは言う。

 「 ……………………ありがとう 」

アスランの自分を気遣う優しい気持ちが嬉しくてキラは目の奥が熱くなるのを感じた。
泣いてはいけない。自分にはまだ言わなくてはいけない事があるから…今泣いてしまったらまた優しい彼に心配をさせてしまう…
キラはぐっと涙を堪えると再び口を開く。

 「 ……何を今更とか思われるかもしれないけど……もう僕になんて嫌気がさしてるかもしれないけど… 」

キラはここで一呼吸置いた。そして意を決して伝えたい言葉を口にした。

 「 ザラ君、僕と…友達になってくれませんか?」

アスランは目を丸くした。この展開はもしかして…なんて淡い期待をしていた自分が少し恥ずかしかった。
でも、キラから男であるアスランに友人になって欲しいと告げることはきっと凄い決意と勇気が必要だったのだろう。
キラの緊張が壁越しからでも伝わってくる。

 「 あの…ザラ君?やっぱり…… 」

 「 アスラン 」

 「 え?」

やはり駄目だったのだろうかと不安げにアスランに声を掛けようとしたキラにアスランが先に声を出す。

 「 友達に『ザラ君』なんて呼ばれたくないな、俺は 」

 「 え?いい…の?」

 「 元々俺がキラに友達を申し出たんじゃなかったっけ?」

 「 それは…そうかもしれないけど…でも、、、 」

 「 キーラ 」

少し苦笑を含めたような間延びした呼び方。うっとキラが言葉を詰める。

 「 じゃあ、改めて宜しくって事でいいのかな?じゃあ、そろそろ出てきてくれると俺的には嬉しいんだけど 」

壁越しでも何となくアスランの悪戯っぽい笑みが分かるような気がした。
アスランのその言葉にキラは少し考えているのか黙り込む。少しの間の沈黙の後、答えを返した。

 「 やっぱり、今日はこのまま会わない 」

 「 えっ!何で?」

思っても見なかったキラの言葉にアスランが抗議の声を漏らす。

 「 今日は何か恥ずかしい…から…じゃあまた明日ね、あ…
アスラン…///// 」

 「 えっ?!きっキラっ??」

キラは早口でそう言うと、パタパタと足音をたてて遠ざかっていった。
一方、アスランは自分で言っておきながら初めてキラに名前を呼ばれた事に思わず動揺して動くことが出来ずにいた。
そしてじわじわとキラと仲直りできた事、そして恋人にはまだ程遠いがキラ公認で友達というポジションになれた事に喜びが込み上げてくる。
気を抜くと自然と口元がだらしなく緩んでしまいそうだった。




アスランとキラ。出会って約一ヶ月余り…漸く新のお友達関係が始まったのだった。







                                        



   ◆あとがき◆
はい。ラブ・シンフォニー12話をお届けします。
アスランとキラ。漸く再会&和解です。そして、祝!!アスラン、お友達昇格!!!(笑)今まではお友達以下だったんですねー
やっとお友達です。キラがやっと『アスラン』って呼んでくれるようになりました。これで少しは書きやすく…
お友達になっただけなのに恋人同士になったかのようなアスランの喜び方とキラの照れ方…(大笑)
アスランはずっと仲直りがしたかったから嬉しかったのです。そしてキラは色恋沙汰には鈍いんです!!擦れてないんです!!!
男友達はアスランが始めてなんですっっっ
そして今回一番書きたかったところは『壁越し』でしたっ結局二人は今回お互いの顔を見ず終い、次回また少しありますvvv