ラブ・シンフォニー 第10話










 「 じゃあ、私はこっちだから 」

 「 うん 」

 「 また、明日ね 」


『アスラン・ザラが鍵を握っている』と意味深な宣言をフレイがした後、キラがいくら聞いても彼女はそれ以上何も教えてはくれなかった。
気がつけば結構な時間が過ぎていた事もあって何だか有耶無耶にされたまま今日のところは解散する事になった。


 「 ねえ、ミリィ?」

 「 ん?何?」

辺りは暗くなっていた為、キラと帰る方向が同じなミリアリアが彼女を送る事になり二人は少し薄暗くなり始めた道を歩いていた。
最初、キラは一人で大丈夫だと言って断ったのだかそれを二人に許してもらえず結局押し切られる形でミリアリアに送ってもらう事になってしまった。

 「 ここまでこればもう家まで直ぐだし、こっちに来るとミリィの家に帰るには遠回りでしょ?
  僕を心配してくれるのは嬉しいけどミリィだって女の子なんだよ?」

『危ないよ』と心配気にミリアリアを見つめる。

 ( まったく…もう )

ふーっと溜息を漏らしミリアリアは苦笑する。
キラは優しい。いつでも純粋に人の事を想い、自分よりも人の為に動く。
でも、その優しさは自分以外の誰かの為であって自分に対しては殆んどと言っていい程ない。自分には厳しいのだ。
そんなキラだからほっとけなかった。女の自分でも守ってあげなくてはと保護欲を駆り立てられた。

 ( 無自覚だから余計に質が悪いわよね… )

くすっと小さく笑って視線を自分を見ているキラに戻す。

 「 大丈夫よ、心配しなくても。さっきのお店を出る前に彼氏に迎えに来てってメールしておいたから
  それに今ここでキラを一人で帰したりしたら私がフレイに何を言われるか… 」

 「 でも、、、 」

それでもまだ納得のいかない様子のキラだったがそれ以上は何も言う事が出来なかったらしく大人しくミリアリアの横を歩いていた。
少しの間何も話すことなく歩いていた二人だったがミリアリアがふいにキラに話しかける。


 「 キラ、あのね…ザラ君だっけ?彼とちゃんと話したら?」

 「 え?」

唐突に振られた話にキラは直ぐに反応出来なかった。
少し間を置いてからキラは戸惑った瞳でミリアリアを見る。

 「 突然ごめんね、でもね…これだけは言っておきたかったの
  彼、キラが避けるように帰るようになってからも毎日校門で待ってるのよ 」

 「 っ!! 」

ミリアリアから告げられた言葉に驚きで目を瞠る。

 「 やっぱり知らなかったのね?キラ最近ずっと裏門から帰ってたから… 」

確かにあの日以降、キラは裏門から逃げるように帰宅していた。
彼に会うのが…会ってまたあの感覚が甦るのが怖かったから……
でも、あれからもう一週間近く過ぎている。だから彼も、もう来ていないとキラは思っていた。
その彼が自分をずっと待っていた?どうして…??


 「 毎日、毎日…遅くまでずっと。キラは裏門から帰ってるって分かってる筈なのに
  いつも同じ場所でキラが来るのを待ってるの 」

キラにはアスランが何を考えているのか分からなかった。
彼程の容姿と財力を持った人間なら寄ってくる者など掃いて捨てる程いるだろうに。
それなのに何故彼は自分にここまで執着するのだろう……

 「 彼、凄く辛そうな顔してたよ。フレイが何を考えてしようとしてるかは私には分からないけど
  それとは別に彼とこのままの状態でキラはいいの?」

 「 …ミリィ…… 」

 「 彼に謝るチャンスくらい与えてあげなよ 」


キラを諭すように優しく言葉を紡ぐミリアリア。
たしかにあの日別れたままアスランとは言葉を交わしていない。
それが良くない事だとはキラだって分かっていたでも、彼に会うのが怖くてどうしても身体が逃げてしまっていたのだ。

 「 ごめんね、キラを困らせるつもりはないの。ただ、伝えておいた方が良いと思ったから…
  どうするか決めるのはキラだよ 」

 「 うん…分かってる…教えてくれてありがとう、ミリィ 」

そう、誰も答えなんて分からない。決めるのは自分自身。
アスランの事、自分自身の事、考えなければいけない事は沢山あるけどもう逃げるのはお終い。
自分の事なのだから自分で切り開いて進んでいかないといけない…大丈夫、自分にはこんなにも思ってくれている友達いる。
そう思うだけで少しだけ頑張ってみようという勇気が湧いてくる。

 「 あっ、この辺じゃない?キラの住所 」

 「 え、あ、うん。あの角の家 」


気が付けばキラの家の直ぐ側まで着いていた。
そして、家の前に着くとキラは自宅の門を潜る。そしてくるっと振り返るとぺこりと頭を下げた。

 「 き、キラ?」

 「 今日は本当にありがとう。二人といろいろ話せて嬉しかった 」

顔を上げたキラはふわりとミリィに微笑む。

 「 私も、キラと今まで以上に仲良くなれた気がする 」

キラの微笑みに、はにかむような笑顔を浮かべる。

 「 それじゃ、また明日 」

 「 うん。また明日ね 」

手を振り、キラの家から少し離れ辺りをきょろきょろと見回していたミリアリアがある一点で目を止める。


  「 ミリィー 」


すこし離れたその場所から彼女を呼ぶ声が微かにする。
彼を確認したミリアリアの表情が先程キラと接したものとはまた違う甘く優しいものに変わった。

 「 トールっ 」

嬉しそうに駆けて行く彼女が彼の元に着くのを門の中から目で確認するとキラはほっと安心して自宅に入っていった。




自室に戻ったキラは今日一日の事を思い返していた。
今日朝家を出た時の気持ちと今帰って着た時の気持ち。一日でこれほど変わってしまうなんて。
全ては彼女達のお陰だと改めてキラは二人に感謝する。
そこでふと、さっきのミリィの事を思い出した。
恋をすると綺麗になるとよく言われるけど本当だとキラは思った。彼を見つけたミリアリアは眩しいくらいにキラキラしていた。

 「 僕にもそんな風になれる…かな?」

本当に男性恐怖症が治るなら…いつかは……
大好きなの人の事を想って変わっていく自分なんて今は想像できないけど。



 『 キラ 』



そんな事を考えていて、ふいに浮かんだのは翡翠の瞳を持つ彼。

 「 な、何でザラ君の事なんか… 」

パタパタと手を振って自分の思考を散らす。何だか顔に熱が集まって頭がふわふわする。



 「 どうしたんだろう…僕…… 」



自分自身に起こっている事態を理解する事が出来ず、キラは胸の鼓動が治まってくれるのをただひたすら待つ事しかできなかった。







                                        


  ◆あとがき◆
はい。『ラブ・シンフォニー』10話をお届けします。漸く、話数が二桁に行きました!!
ラブ・シンもまだまだこれからです。これからもまったりまったりがんばりますっ!!
アスラン、今回登場させる事ができませんでした…あううう、、、、次回は確実に登場します。今回の話が想像以上に長くなってしまって…
名前は沢山出てきたのですけどねぇ…自分で書いていて思ったのがアスラン、ハチ公みたい(笑)
だって、毎日同じ場所で待ってるんですよっっ裏門で待ち伏せくらいすればいいのにっ(いや、それをされたら話しにならないのですが)
今回、キラの心に少し変化ありです。自覚まではまだまだ先ですが(笑)