三年前の別れの日から今日という日が来るのをずっと待ち望んでいた。
ずっと一緒だった幼馴染のキラ。彼女が実はこの国の王女であり王家の仕来りで13歳の誕生日の日、
自分の傍から離れなければならないと知った時、彼女がどれだけ大切な存在だったのかに気づかされた。
自分と離れたくないと泣くキラに必ず傍に行くからと約束して別れた。



それから母親に頼み単身、王都に行き士官学校に入った。
父親は自分の後を継ぐ気になってくれたと喜んでいたようだが、アスランにはどうでもいいことだった。
全ては、キラの傍に行く為に。
その為に厳しい訓練にも耐え、異例の速さで士官学校を卒業した。
そして王国騎士団近衛隊に配属され、着実に任務をこなし続けた。
アスランに失敗は許されなかった。何故なら『守りの城の姫君付きの騎士』の任を与えられるのはたった一人。
その任に就く為だけにこの三年間、どんなに辛い時も必死にやってきた。


 『 キラに会いたい 』


アスランの心を占めるのはたった一人の愛しい少女。

姫君が16歳をむかえる日それがアスランにとっても運命の日だった。








― そして、今日この日アスランは守りの城の前に立つ。 ―







         CHOCOLA   ACT.6



  ― 気が付いたら抱きしめていた… ―










アスランが城内に入ると、侍女達が慌しく走る姿が見えた。きょろきょろと辺りを見渡している様子からすぐ誰かを探しているのだと分かった。

 「 あの、どうかしたのですか?」
 「 …貴方は…?」

自分の近くを通りかかった一人の若い侍女に声をかけ、事情を聞こうとするが呼び止められた侍女は見慣れない少年を訝しげに見る。

 「 あ、失礼。私は本日付でキラ様付きの護衛の任に就きます、アスラン・ザラです 」

ぴしっと姿勢を正し自己紹介をするアスランに若い侍女も驚く。

 「 貴方が今日から来る騎士様ですか!!失礼しました!! 」

ぺこりと頭を下げられアスランは苦笑を漏らす。

 「 そんなに畏まらなくてもいいですよ、それでこの騒ぎは一体どうしたんですか?」
 「 …はい…実は姫様が… 」
 「 え?」






 『 姫様がまたいらっしゃらなくなってしまって… 』
 『 いなくなった?』

一体、どういう事だろう?キラがいなくなったって…それどころかまたって何だ?またって!!

 「 お願いします、アスラン様も捜して下さい。姫様は一目見れば分かりますから 」

いくら三年たったと言ってもキラの顔を忘れる筈もないアスランにキラの特徴の説明など不要なのだが彼女は自分とキラが幼馴染と言う事は
知らない筈、なのに何故一目見れば分かると言ったのだろうか?
疑問は膨らむばかりだが取りあえずキラを捜す為、当ても無く歩き出す。





それは本当に偶然だった。
いなくなった姫君を探すとは言ったものの今しがたこの城に着いたばかりのアスランにはどこをどう捜していいのかも分からない。
当ても無く彼方此方歩いていると、少し開けた所に出た。
どうやらそこは中庭のようで綺麗に整えられている木々や花々とそれに囲まれるように小さな噴水がその中心にあった。
ここでお茶などを楽しんだらきっと気持ちいいだろうな。とアスランが中庭に見とれていると噴水の裏の茂みが僅かに動いたのに気付く。
もしやと思いゆっくり噴水の裏手に回り、そっと茂みを覘いて見た。


 「 !! 」





一瞬、息が出来なかった。
そこにいたのは皆が捜していた姫君。そしてアスランが三年間、想い続けてきた少女。
三年前は肩までだった髪は腰の辺りまで伸び、閉じられている為瞳は見えないが閉じられていても分かる整った顔立ち。
昔より些か大人っぽくはなったがまだ幼さが残っていた。
シンプルなオフホワイトのドレスを身に纏い、緑の草の絨毯の上で眠る姿は正しく眠れる姫君そのものだった。

 「 …ん…」

アスランが動けず見惚れていると、眠り姫はゆっくり目を開く。
自らの側らに佇むアスランをゆっくりとした動作で見上げる。

一瞬の間そして…

 「 …アスラン…」

驚きに目を瞠る。
次第に事態を飲み込めて来たキラの大きな瞳が更に大きくなり揺れている。

 ( やっと会えた… )

嬉しさで思わず抱きしめたくなる。
しかし、その衝動をぐっと堪え平静を装う。

 「 初めまして、本日付でキラ様の護衛の任に就きましたアスラン・ザラです 」

アスランの口から出たのはいたって事務的な言葉。キラの瞳が戸惑いの色に変わる。

 ( ごめん、キラ… )

 「 侍女達がキラ様を探しております。それに皆の前で正式に着任の挨拶をしなくてはなりません 」
 「 はい… 」

そして戸惑いが悲しみに変わる。

アスランもキラとの再会は嬉しくない訳がない。
昔みたいに名前を呼んで、今まで会えなかった間の事を語り合えたらとも思う。しかし…
今のキラは姫君で自分は正式な着任はまだだが姫付きの騎士。
この三年、身分の違いに付いては嫌と言うほど教え込まれた。そして、この方法しかキラの傍にいられない事も…



俯いて、アスランに促されるまま侍女達が待つ方へ歩き始める。
自分の前をゆっくりと歩く少女のその長い髪の間から見えた瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。


 「 !! 」


完全に無意識だった。
体が考えるよりも先に動いていた。
気付いた時には自分の腕の中にはキラがいた。

 「 アスラン… 」

キラの体が驚きで強張るのが分かる。それでも離す事はできなかった。

あれ程身分の違いについて叩き込まれたのに、こんな所見つかったら不敬罪で自分は捕まってしまうのに
何よりキラから再び離されてしまうのに…それでも、泣いているキラをそのままにしておく事なんてできなかった。

 「 …離して… 」

聞こえてきたのは小さな声。
後ろから抱きしめている形になるているため顔を伺い見ることはできないが俯いたままの状態で肩が僅かに震えていた。

しかし、その言葉に反してキラの手は抱きしめるアスランの腕をきゅっと掴んで離さない。

 「 出来ません… 」
 「 ど…うして… 」

ぽろぽろと流れる涙は堰を切ったように溢れ出し、アスランの腕を濡らす。

 「 貴女が泣いているから 」
 「 そん…なの……ほってお…いて…こん…なところ…見られ…たら… 」
 「 そうですね、こんな事が知れたら私は不敬罪で王都に強制送還ですね 」
 「 !! 」

その言葉に驚いて自分が泣いている事も忘れて振り返る。

そこにあったのは先程までの硬い騎士の顔ではなく幼馴染の優しい微笑みがあった。

 「 相変わらず泣き虫ですね、貴女は 」

くすっと笑って抱きしめていた身体を離し、片方の手でキラの涙を拭ってくれる。

 「 …アスラン… 」

再びキラの瞳からは新しい涙が溢れ出す。しかし、先程の悲しい涙ではなく今度は嬉しい涙。
感極まったキラは今度は自らアスランに抱きつく。

 「 ずっと…ずっと待ってたんだよ?」
 「 はい… 」
 「 もう一人は嫌だよ… 」
 「 ずっと私が一緒にいます 」

抱き付き泣きじゃくるキラの背中にそっと手を回し、優しく抱きしめた。






 「 アスラン、お帰りなさい 」





 「 ただいま 」





                                         


 ◆あとがき◆

はい。久々の更新です。最近、季節なイベント事が続いたのでそっちを優先してやっていたら前回の更新から早一ヶ月。
月日の経つのは早いものですね…(しみじみ)
ずっと男の子キラの現代パロを書いていたので久々のCHOCOLAは新鮮でした(笑)
取りあえずこれで再会完了です☆この過去編はキラに『おかえり』とアスランに『ただいま』を言わしたかったが為に入れたと言っても過言ではありません(笑)
この後、アスランはキラに二人だけの時は敬語はやめると約束させられます。
ホントは本編に入れたかったんですがこれ以上過去をだらだらやる訳にもいかないので泣く泣く断念です。
気が向いたら番外編とかにして書くかもvvv

さて、次回からは時間が元に戻ります。これからが本番です!!良かったらこれからもお付き合いくださいませ☆★