暖かな日差しの降り注ぐ柔らかな空気の森の中に隠れたお城があった。
城の側らには大きな湖があり木漏れ日の光を浴びて水面がキラキラとしていた。
そんなお城の一室の窓際に佇む少女が一人。
窓枠に座りその愛らしい手を延ばすと自然と鳥たちが集まってきた。
その光景はもう一つの絵画の様で城にいる誰もが感嘆の溜息を漏らすのだった。

 「 おはよう、アスラン。僕頑張ってるよ 」

澄んだ空に向かい誰に言うでもなく語りかける。彼女がこの城に来て以来これが日課になっていた。








                      少女…キラがアスランと別れてから三年の月日が経っていた。





     CHOCOLA   ACT.5


 「 姫様ーどちらにおいでですかー? 」
 「 困ったわ、どこにいかれたのかしら 」
 「 今日は姫様のお誕生日でいろいろお支度をしなくてはならないというのに… 」
 「 それに今日ですよね?姫様就きの騎士様がいらっしゃるのって 」
 「 だから余計に姫様を一刻も早く発見しなくてはいけないのよ 」

侍女達が慌しく走り回る城内から少し離れた城の中庭の木陰に皆の探し人である姫君はいた。
この中庭の一角は木々に囲まれていて死角になっており、かなり近くに近寄っても身を潜めていれば中々見つかる事はない。
現にこの場所はキラが見つけてからこれまで一度も見つかった試しがなかった。
それに、この場所は寝転がると木漏れ日が綺麗でまるで幼い頃に幼馴染とよく遊んだあの木の下にいる様だった。
懐かしい思い出を思い返す事の出来る唯一の場所。ここはキラにとって秘密の場所だった。

今日も朝から慌しく自分を着飾る侍女達から逃げる為、ここに非難してきたのだった。

 『 姫様、本日はお誕生日ですね、おめでとうございます 』
 『 ありがとう 』

何気ないいつものやり取り。キラがこの城に来てから三年間、毎年祝いの言葉を言ってくれる優しい侍女たち。
城を守ってくれる衛兵たちも、世話を焼いてくれる侍女たちもキラに取って家族も同然な存在だった。

 『 本日、姫様は十六歳になられますね。王都からのお祝いの品が沢山届いてますよ 』
 『 そう… 』

興味なさげに返事をするキラ。
ここに来て三年、毎年誕生日には沢山のお祝いの品が届いていた。
だが、祝いに来てくれる人は一人もいなかった。
よく考えれば、この城の存在を知る者は少ない。その上、以前キラが住んでいた町の人達は皆キラは王都の神殿で勤めを果たしていると思っている。
王都の血縁者達もこの城を公にさせない為、迂闊に接触をする事を堅く禁じられていたのだ。
だから、年に一度のこの日には品物だけでもと沢山の祝いの品が届いていた。
キラもそんな事情は大方知っていた。だから仕方ない、と諦め我慢してきた。
でも、頭では分かっていても中々気持ちは付いてはこないもので…寂しい感情を持ってしまうのだった。

 『 それに本日はもう一つ特別な事があるんですよ 』
 『 え? 』
 『 本日は姫様就きの騎士がくるんですよ 』
 『 騎士? 』
 『 はい。姫様ももう十六歳になられますし、護衛は必要でしょう 』

にっこりとまだ若い侍女が笑いかける。
こんな平和で何もないところで何から自分を守ってくれるのだろうか?キラは素朴にそう思った。

 『 なんでも姫様と同じ歳で異例の速さで士官学校を卒業した天才騎士とか 』
 『 王国騎士団近衛隊に所属して数々の実績を上げて今回、キラ様就きに志願したと伺っています 』
 『 それってもしかして… 』

キラは驚きと期待で目を見開く。それはもしかしたら自分が三年間待ち続けた人ではないのだろうか…
三年前、夕日の丘の木前で約束を交わした彼。
時間が掛かると言っていた、淡い期待は後で裏切られた時に辛い思いをする。
でも、それでもキラの胸の鼓動は大きく高鳴っていた。

 『 午後にも着任の挨拶にみえると思いますので姫様もそれなりの格好で… 』

侍女が最後まで言葉を発する前にキラは素早くその場を逃亡する。

 『 姫様!! 』


そして今に到る。元々、キラは余り着飾るのが好きではなかった。
小さな頃から普通の家庭で普通に育ってきた為、ドレス等には憧れはするが化粧をしたり髪をセットしたりとかが苦手だった。
それにもしかしたら彼が、アスランに会えるかもしれないという期待が逃げたいと思うキラに拍車をかけていた。
お姫様な自分を見てアスランはどう思うだろう?そう思うと恥ずかしくて逃げ出したくなったのだ。

 「 アスラン… 」

今まで自分を支えてくれたアスランとの約束。アスランは覚えていてくれたのだろうか?
本当に自分の傍に来てくれるのだろうか?いつも付きまとっていた不安。
キラはゆっくりと瞳を閉じた。さらさらと柔らかな風が草花や木々を揺らす。
その心地よさに身を任せていると、どこからか木々を抜ける音がする。

 ( 見つかったかな… )

等と思いながらも一向に瞳を開けようとはせずに狸寝入りを決め込む。
しかし、人の気配はするものの一向に自分を起こそうともせず只、傍にいる気配がするだけ…
不信に思い、薄っすら目を開けてみる。
そこにいた人物にキラは目を瞠る。

 「 アスラン… 」

キラの傍に佇んでいたのは彼女が三年間待ち続けた幼馴染だったのだ。

 「 初めまして、本日付でキラ様の護衛の任に就きましたアスラン・ザラです 」
 「 え? アスラン? 」

久しぶりの再会なのに素っ気無い事務的な態度のアスランにキラは呆然とする。
もっと感動的な再会を予想してたのにな。などと口零してしまう。

 「 あの、キラ様?」
 「 あ、はい!!」
 「 侍女達がキラ様を探しております。それに皆の前で正式に着任の挨拶をしなくてはなりません 」
 「 はい… 」

余りにも他人行儀と言うか主従関係的と言うかそんな感じのアスランの態度にキラは悲しさが込み上げてくる。
この三年でアスランも変わってしまったのだろうか?自分就きの騎士になったのも実は偶然で約束の事ももしかしたら自分の事も覚えてないのかもしれない。
そう思うと涙が出そうで、キラは顔を上げる事ができずアスランに言われるまま侍女達の所へ向かうべく歩き出そうとした。

 「!!」

歩き出そうとしたキラの華奢な腕を掴み抱きしめる大きな腕。それがアスランのものだと分かるのに些かの時間がかかった。

 「 アスラン… 」

突然のアスランの行動に驚きを隠せない様子のキラ。
後ろから抱きしめられる形になっている為アスランの顔は見えないが、
先程までの堅い感じが無くなったのを空気で感じ取ったキラは自分を抱きしめるアスランの腕をぎゅっと握った。

 




                                        



 ◆あとがき◆
はい。久しぶりの更新です。余り待っている人もいないとは思いますが…自己満足の産物です。
今回で過去は終わる予定だったのですが思いの他長くなりそうなので途中で切りました。
とんでもないトコで切ったと軽く後悔しています。
続きはできるだけ早めにUPしますので良かったら待っててくださいませvvv
ちなみに過去と言ってもそこまで遠くない過去です。一話のキラとアスランの時間から余り離れてません。
只、再会は書いておきたいなーと思ったもので。。。