★キミとボクと約束のカケラ★第13回 














「どうして…って……」
他人だし。とは流石に口にはしなかったけど、アスランが遠い存在なのだと再認識したばかりなのに。キラは返答に困って黙り込む。

「キラは俺と同じ歳だよな?キラは他の同世代の人とも俺の時と同じ口調なのか?」
「え?そんな事は…」
あるはずがない。普段からこんな畏まった喋り方なんかしていたら肩が凝ってしまう。
でも、だから同じ歳のアスランにも同じようにしても良い、というのは違うと思う。仮にもアスランは仕事上の先輩なのだ。どの世界でもあることだけど、特にキラたちの職種は上下関係がはっきりとしている。
それは勿論、年齢や売れている、いないに関わらずだ。その中で、キラは一年にも満たない駆け出しの新人。対してあすらんは幼少期から子役としてこの世界にいた言わば大ベテラン。
そんな人に対してキラが気安く話すなど出来ようはずもなかった。
それに、アスランが本人がそうして欲しいと言ったからといって、それを鵜呑みにはできない。
そんな事をすればキラは下手をすると生意気な新人と周囲にみられてしまい仕事がやりにくくなってしまう。そんな事になったら、今まで自分に協力してくれたシンやラクス、それにもしかしたら当のアスランにも迷惑がかかってしまうかもしれない。

(それだけは…)

駄目だ。と、キラは強く思った。今まで親身になって手伝ってくれたラクスたちに恩を仇で返す真似は絶対したくない。そして、アスランにも。
本人がそれでいいと言ったのだからそれで何が起ころうと、アスランの自己責任だ。当人が望んで起こった事なのだから。
でも、理屈ではそうなのかもしれないが人は感情というものを持ってしまっている故にそれだけでは割り切れない想いも発生する。

「キラ?」

俯き、黙り込むキラにアスランは小さく声をかけ、そっとその顔を覗きこむ。すると、キラの身体がびくりと身体が僅かに揺れた。

「……あ」

顔を上げたキラの菫色の瞳がゆらゆらと揺らめく。アスランは小さく溜息を吐く。

「そんな顔させたいわけじゃないんだけどな……」

アスランは自嘲気味にぽつりと呟く。そして、そっとキラの頬に手を伸ばした。
アスランの指先は少し冷たくてキラはびくっと肩を竦ませた。しかし、キラが驚いたのはその事よりも自分の心の在り方だった。
彼の行動には確かに驚いている筈なのに何故かキラの心は穏やかだった。

(何?)

酷く懐かしい感覚だった。自分はこの感じを知っている?そんな気がした。彼の指先が触れた瞬間、キラの脳裏に何かが一瞬だけフラッシュバックした。
でも、それは本当に一瞬の事だったので、キラ自身にも思い出す事ができない。
再び俯いて黙ってしまったキラの態度を困惑ととったアスランはキラから少し距離を取った。

「キラを困らせたいんじゃないんだ、ただ彼…シンだっけ?普通にキラと楽しそうに話す、シンが羨ましかったんだ」

(今までアスランさんと接触する機会なんて沢山あったはずなのに…)

どうして今、こんな現象が起こったのだろう?アスランの話はそっちのけでキラの思考はその事に夢中だった。

「キラ?」

(もう一度アスランさんに……って、そんなの頼める訳ないし)

流石にキラの態度に違和感を感じたアスランはキラに問いかける。しかし、キラは全く答える気配がない。
それどころかアスランの言葉が聞こえていない様子だ。意識が完全に別の次元に飛んでいる。
アスランはむっとして眉を吊り上げる。

「キラ!!」

思わず声を荒げて怒鳴る。

「は、はいっ!!」

飛んでいた意識を強制的に戻されたキラは吃驚して目をぱちくりさせた。目の前には怒った様子のアスラン。
さっきまでは確か申し訳なさそうな顔をしていたような気がしたのだけど、自分は知らない間に彼を怒らせるようなことでもしでかしたのだろうか?
と、キラは首を傾げて考えた。天然というのはある種、故意に何かを成すよりも性質が悪い。
アスランが真面目に今の自分の胸の中を告白したのを完全に無視しておいて、それに気付いていない。
悪気がないだけにやり場のない怒りだけが胸に蓄積させていく。
いっそ、故意にされた方が怒鳴るなりして発散することができて気持ちは若干楽だったのかもしれない。

「アスラン…さん?」

穢れを知らないような無垢な菫色の瞳で見つめられれば、怒りも長く持続しない。はあ、と重々しい溜息を吐いて「もういいよ」と呟く。
キラにはズルイ武器が沢山ある。キラはずっと無自覚にその武器を使い、色々な事を回避してきたのだろう。
本人がその事に気付き、故意に使いこなす様になれば天使の顔をした小悪魔が誕生してしまう。
想像してアスランはぶるりと身震いをした。そして、そんな事にならないようにキラをある意味正しく導いていこうと心に固く誓うのだった。






                                        


   ■あとがき■
はい。少し間が空いてしまいしまたが、『キミとボクと約束のカケラ13話』のお届けです。
今回は少し短めです。始めは強気で責めていたアスランが途中で少しヘタレるけれど、実は途中からキラは聞いていなかった(笑)
という、アスランが可哀想な話でした。結局、キラを相手に怒りが続かなくてその分、独占欲とか使命感でキラを守る事を誓うアスラン。
いつの間にかアスランがキラに骨抜きになっている…。けど、今のところキラは何も分かっていなくて、アスランは仄かに恋心が芽生え始め
ている感じだけど、まだからかって遊んでいる方が強い。だから、時々キラと仲良しのシンが羨ましくなったりして嫉妬心からシンを苛めてみ
たりする。自覚は気付いてはいるけど、まだ気持ちを図りかねている感じ。