★キミとボクと約束のカケラ★ 第12回















結局の所、やはりルナマリアはシンの言い方に腹を立てていただけだったらしく、キラがメールを入れると笑いながら電話をくれた。
シンの事だけでなく、キラの事も理解してくれている彼女はシンの一言で大体の事情は察していたらしい。だけど、あまりにも思いやりに欠けるシンの物言いに思わず手が出てしまった。と言う事らしい。
しかし、それでも、やっぱり申し訳ない気持ちは拭えなくて、キラは『ごめんぬ』と一言謝った。
一瞬、間を開けたルナマリアが受話器の向こうで笑った気配がしたような気がした。その後、『信じてるもの』と答えてくれた。





(そう言えば、アスランさんはどうしたんだろう……?)


キラはふと、もう一人の当事者の事を思い出す。
昨日はシンたちの事が心配でそれどころではなかったから忘れていたが一昨日、シンと揉めて以来見かけていない。

(仕事が忙しい…のかな?)

よくよく思い出してみたら、一昨日も何か仕事の事でも揉めていたみたいだったし。

(最近、同じ仕事が多いから一緒にいることが当たり前みたいになっててついつい忘れちゃうけど―)

アスランさんって、トップモデルなんだよね…。
アスランがあまりにも普通にキラに構ってくるから忘れがちになってしまうが、本当なら雲の上の存在の人だ。
しかも、こんな大きな会社の御曹司でもある。よく考えたら普段キラに構っている事の方が不思議なのだ。

(忙しいに決まってるよね)

そう結論付けたキラだったが、今まで普通に仲良くしていたアスランが急に遠くに行ってしまったように感じて淋しい気持ちになる。
シンは信用できない。なんて言っているが、アスランはキラの秘密をしっても否定しないで信じてくれた。
今となってはあの話は秘密という事になっているが、子供の頃はキラは別段隠してはいなかった。そんな中でキラの話を信じてくれた人は
両親とラクスだけだった。他の人たちは冗談だと思って笑ったり、酷い場合だと嘘つき呼ばわりされた。
本当のことなのに信じてもらえない事にその度傷付くキラは自然と自分からその話をする事はなくなり、両親や唯一の理解者であるラクスも
その話は極力避けるようになっていった。
シンたちには話しても信じてくれるとは思うけれど、過去の苦い経験がキラを臆病にさせていた。
そんな中で偶然とはいえ、打ち明けてしまったキラの話を信じてくれたアスランはキラの中で既に特別な存在になっていた。

(シンとルナの痴話喧嘩にあてられちゃったのかな……)

こんな風に考えてしまうのはあの二人の仲の良さを目の当たりにしたからだ。とキラは思った。
いくら喧嘩をしていても根本的なところは信頼という絆で繋がっている二人が羨ましかった。そんな相手が自分にもいれば、と。
その相手を最近偶然一番近くにいたアスランにこじつけているのだ。


「キラ?」


(どうして…?)

あまりにも出来すぎたタイミングで現れた彼。キラは驚いて瞠目する。
「どうしたんだ?1人で。いつも一緒の彼氏はどうした?」
「え?」

(あ、そう言えばアスランさんにはシンが彼氏って事になってたんだっけ)

「シンは、ちょっと用事があって僕だけ先に事務所に来たんです」
「そうか…キラ1人か…」

独白のようにアスランが呟く。
しん。と二人の間に沈黙が流れる。その気まずい空気に耐え切れなくなったキラは何とか口を開く。
「あ、あの。アスランさんは、その…これからお仕事ですか?」
「あ、ああ。モデルとしての仕事は午後からのキラとの撮影だけなんだけど、会社の業務の方でちょっとな……」
「そうなんですか……」

やっぱりアスランさんは凄い人だ。とまた改めて突きつけられる。やはり、自分とは住む世界が違う人なんだ。と。
この一過性の人気が落着いてしまったらキラとアスランは話すことだってできなくなるに違いない。
考え出すとどうしても暗い方向にいってしまうのを止められない。それなら考えなければいいのに近くにその人がいると考えずにはいられない。

(僕ってどうしようもないのかも……)

自嘲気味に笑みが零れる。アスランはそんなキラの様子を不可解に思ったのか眉を顰めた。

「あっ、ごめんなさい。何でもないんです」

自分の態度は失礼だったと謝罪するキラだが、その顔に笑みを浮かべたままだから説得力がない。
申し訳ない気持ちはあるのだが、今の自分があまりにも滑稽に思えて笑うしかない。
だから、アスランからどんな叱責の言葉を受ける覚悟は出来ていたのにアスランから紡がれたのは意外な言葉だった。

「キラはどうしてそんなに俺に他人行儀なんだ?」
「は?」
(何を言ってるんだろうこの人)

訳が分からなくてぽかん。としているキラとは対照的にアスランは至って真剣な様子だった。





                                         



  ■あとがき■
はい。今回は少し早めに更新できました。『キミと僕と約束のカケラ第12話』をお届けします。
前回はシンとルナマリアの痴話喧嘩にキラが巻き込まれた状態でしたが、今回はアスランさんを出すことができました。
アスランさんはキラの自分に対する態度が不に落ちないようすです。
次も余り間を開けずに更新できるように頑張ります。よかったら拍手などで感想とか貰えると嬉しいです。