★キミとボクと約束のカケラ★ 第9回 















「すっげー…」

あぐりと口を開けて目の前の建物を見上げる少年。そしてその隣で同じ心境で佇む少女。
シンとキラは都内のビジネス街の中でも一際存在感を放つビルの前に立っていた。昨日、幼馴染であり、頼れる仕事上の仲間でもあるラクスから
事後承諾的に告げられたのは『ザラ・コーポレーションとの一時的な事業協力の申し出を受けた』というものだった。
初めは驚きはしたが彼女の話を聞いてみると彼女の言い分も尤もな為、キラとシンはそれをそれぞれ複雑に受け止めながらも了承した。
そして明けて翌日の朝、二人はそのザラ・コーポレーションの本社ビルの前に来ている。
ザラ・コーポレーションの噂はその手の話に疎いキラでも少しは知っている。様々な業種を展開させていてそのどれもが成功を収めている大会社だ。
今更ながらにキラは今の自分の状況がとても物凄いことなのではと気付く。そして、あのアスランはそんな大会社の御曹司なのだ。

暫くビルを眺めていた二人だったがいい加減そうもしてられないので恐る恐るビルの中に入る。
シンが受付の人と話している間もキラはキョロキョロと落着きなく周りを見渡す。
ビルの内装も一見シンプルに見えるが機能性や芸術性に溢れていてとても品が良い。
きっと有名なデザイナーや名のある建築家が手がけたのだろうと感嘆する。
極々普通の一般家庭で育ったキラにとっては何もかもが別世界だ。この仕事をするようになってからTV局や撮影スタジオなど、色々な現場には
訪れていたがここはまた違った空気を持っていた。そこでふと自分が場違いなのではと唐突に思ってしまう。
そう思い始めるとその気持ちはどんどん膨れ上がってしまって実際はそんなことない筈なのに回りの人に見られている気にさえなってくる。
居た堪れない気持ちに俯いていると話終えたシンが戻ってきた。

「キラ、担当者がくるからロビーで…どうかしたのか?」
「なんか…さ、僕浮いてる気がして…」

不安そうに瞳を揺らしているキラを見てシンはその不安を吹き飛ばしてくれるかのようにニカッと笑う。

「なんだよ、そんな事か」
「そんな事って…」
「キラが浮いてるって言うなら俺なんかどうなるんだよ?浮きまくりだぜ?絶対!!」
「シン…」
「大体、俺達はここにいてもおかしくない正当な理由を持ってるんだぜ?」

それはそうかもしれないけど…とは思うもののどこかまだ素直に納得できない。シンもキラの気持ちが分かるのか苦笑を浮かべて
キラの頭をくしゃくしゃと撫でる。頭を撫でられるのは嫌いではないけれどそんな事をされて喜ぶ程小さな子供でもないし、
これがシンなりの優しさだという事は長い付き合いだから分かってはいてもつい照れ臭くて『やめてよ』とぶっきらぼうに手を払ってしまう。
そして、そんな様子のキラがどんな心情なのか手に取るように分かってしまう伊達に長い腐れ縁の幼馴染は浮かべていた笑みを更に深くしていた。









キラたちがいるロビーから少し離れたエレベーターホール。先程まで優雅で上品な空気を醸し出していたその場所はどこかその質を変えた。

「何か騒がしいな」
「何かあったのかな?」

キラとシンもその異変に気付き、騒ぎの元となっている方に目を向けた。

「あ、あれって…」

「お待ち下さい!アスラン様!!」
「外でその呼び方は止めろといつも言ってるだろう」
「それは申し訳ありませんでした。ですが取り合えずお止まり下さい!」
「俺は急いでいるんだ」
「お急ぎでしたらあとで車でお送りしますから」
「いい、一人で行きたいんだ」

見覚えのある人物がビジネススーツをきっちりと着こなしている紳士風の人と言い争いながらエレベータホールを抜けてこちらへと向かってくる。

「アスランさん?」

思わず声に出して名前を呼んでしまった。思わぬ場所にこれまた思わぬ人がいて向けられた翡翠の瞳は驚きに瞠る。

「キ、キラ?」

二人の視線が絡む。が、それは一瞬の事でキラはすぐに視線を逸らしてしまう。

「どうしてキラがうちのビルにいるんだ?」
「えっと…いろいろ事情があって…」

俯いて視線を合わせないままキラは答える。理由はただ一つ、例のポスターのせいだった。
実は、あの写真がポスターに起用されてからアスランと面と向かって会うのはこれが初めてだった。
あのポスターの己の表情を思い出すだけで顔から火が出そうだった。穴があったら入りたい勢いだ。
写真だけでそのテンションだったキラにとってまだ当人と対面するだけの心の準備など出来ているはずもなかった。
恥ずかしさの余りアスランと目を合わせる事もままならない。今日、この会社に来る事になってもしかしたらとは少なからず想定していたが
まさか本当に会ってしまうなんて……
キラの頭の中はアスランを呼び止めてしまった後悔で一杯だった。何故あのままやり過ごさなかったのだろうか、と。
ひとりで一杯一杯になっているキラに呆れ顔のシンが助け舟を出す。

「今日から暫くキラはザラ・コーポレーションに世話になることになったんだよ」

アスランの目が再び驚きの色に染まった。







                                        




 ■あとがき■
はい。お待たせしましたー!!『キミとボクと約束のカケラ』第9回をお届けします。
今回は予告どおりアスランさん登場しましたー!!キラとシンがザラの会社へ!!と言うところですが話が全く前に進んでいません…
『例のポスター』でしょっと遊び過ぎました(笑)キラが自分とアスランの写真を見て恥ずかしがるって可愛くないですか?
次はアスランとシンの対立です。この二人って絶対仲良しにはならないと思うんです。嫌いって訳でもないんでしょうけど。
なんとなく気に入らない。みたいな。そんな感じが私の中の二人の関係性のイメージです。