★キミとボクと約束のかけら★ 第5回
キラ。キラ。キラ・ヤマト。最近、人気急上昇中の新人モデル。現在、自身も出演予定の仕事の出演交渉中の同業者。
アスランは昨日会ったキラ・ヤマトと言う少女のデータを頭の中で並べて考え込む。
初めて見た彼女に正直アスランは目を奪われた。彼女の笑顔は人を惹きつける天性の素質がある。
業界の中で俄かに噂されている事ではあったけれどアスランはなるほど、と納得した。
一同業者として一緒に仕事をしたいと素直に思えた。
普通、これだけ人気が出てくると自意識過剰になって自分が一番偉い等と勘違いしてしまうのが常だ。
それが幼い頃からの下積みがあるのではなく、ぱっと出の素人なら尚更そうなる。
しかし実際彼女と話してみると全くそんな印象はなく寧ろ間逆の印象を受けた。
控えめで大人しそうで自分自身にも自信がないようなそんな感じで、話し方も穏やかで丁寧だった。
ある意味で自己主張をするのが仕事ともいえるこの職業をしている事の方が不思議に思えるくらいに。
しかし、これは昨日少し会ってアスランが感じた印象であって実際のところはどうかは知れないが、
もしもあれが演技だというのであればそれはそれで大したものだと思うが何故だかあれは演技だとは思えなかった。
(キラ・ヤマト…か…)
アスランはふっと苦笑を浮かべる。こんな風に誰かの事を気にするなんて自分らしくない。
らしくないと思うのに何故か気になってしまう。これは一体どういう事なのだろう?と思う。
初めて会ったばかりの少女なのに。今まで美人と言われている人間に会った事は数え切れないほどある筈なのに。
なぜ、彼女に限ってこんな風に気になってしまうのだろうか…もしかしてこれが彼女の魅力のひとつなのだろうか?
でもそれだけじゃない気がする。アスラン自身も何故かは分からないが彼女には何ともいえない懐かしさみたいなモノを感じるのだ。
(一体なんなんだ…これは…)
「失礼しまーす!」
アスランが考えに耽っていると不意に扉を叩く音が部屋に響く。それと同時に扉が開き入ってきた人物見て溜息を吐く。
「ミーア…それじゃノックする意味がないじゃないか…」
「ノックしてる事には変わらないんだからいいじゃない。それに声だってかけたわ」
「ノックは中にいる人に自分が今そこにいるという事と入ってもいいかの確認だ。その返事を待たずに入ってきてもし都合の悪い
場合だったらどうするんだ」
「あら?アスランは入ってこられると都合が悪かったの?」
「だから、そういう事ではなくて…」
「だったら問題なんてないじゃない」
アスランは深く溜息を吐いた。ああ言えばこう言う。彼女はそれの典型だ。なんでも自分の考え中心でそれが正しいと思っている。
それに厄介な事に悪気とか悪意とかが一切ないものだから始末が悪い。
彼女に一般的な常識を説いて説明したところで空しく疲れるだけだという事は長い付き合いの中で学んでいる。
さっさと自分が折れて話を進める方が得策だという事も。
「それで?何か様があってここに着たんじゃないのか?」
「ああ、そうそう。アスラン昨日、キラ・ヤマトに会ったんですって?」
何故そんな事を彼女が聞いてくるのか。アスランは訝しげな顔を浮かべる。
アスランのその態度にミーアは頬をぷっくりと膨らませる。
「アスランってホント女の子の気持ちが分かってないわよね!」
「は?」
何だかとても失礼な事を言われている。どうも昨日から女性絡みのことで振り回されている気がする。
自分には女難の相でも出ているのだろうか?厄払いでもして貰おうか等と馬鹿なことまでぼんやり考えてしまう。
「アスランは見た目も素敵だし頭もいいし運動神経も抜群だし非の打ち所がない王子様だけどその鈍いところは頂けないわ」
アスランに構わず勝手に話を進めているミーアの言葉にどう反応していいのかアスランも困り果てる。
褒めてもらっているのか貶されているのか…とにかく彼女の言いたい事が分からない。
「だから結局何が言いたいんだ?」
いい加減に痺れを切らしたアスランが困った顔で尋ねる。
「だーかーらーキラ・ヤマトってあのキラ・ヤマトでしょ?」
「あのもなにもキラ・ヤマトは一人しかいないだろ」
「そうじゃなくて。キラってアスランが昔よく話してた―あーーーっ!!!」
そこまで話してミーアが突然大声を上げて口を塞ぐ。
「俺がよく話してた?」
「え?いや、その…」
拙いことをしてしまったと苦虫を潰したような顔をするミーアはアスランから視線を逸らす。
「ミーア?」
「あっ!そうだっ私、この後仕事があったんだっけ。じゃあ、アスラン私帰るわっ」
「ちょっ…!」
「さっきの話はホントなんでもないから。私の勘違い。気にしないでっ」
矢継ぎ早にそれだけ告げるとミーアはそそくさとその場を後にした。
その場に残されたアスランは呆然と立ち尽くす。
『アスランが昔よく話していたキラ』
ミーアの先程の言葉が頭の中で繰り返しリピートされる。
「気にするな。なんて…」
到底無理な話だった。今の自分はキラの事を知らない。昨日が初対面だ。それは間違いない。
でも、さっきのミーアの話が本当ならば昔の自分はキラを知っていた事になる。それならば何故今の自分はそれを覚えていない?
本当にもう訳が分からない事だらけで何がなんだか分からない。
「…キラ・ヤマト……君は何者なんだ………」
■あとがき■
はい。『キミとボクと約束のカケラ』第5話をお届けです。随分長い時間が空いて申し訳ないです。
今回はアスランの回でした。ミーアが問題発言だけを残して去っていきました。彼女にはもう少し活躍して貰う予定です。
嫌な子にならないように頑張ります。個人的にミーアは悪い子ではないと思っているのですが文章力が足りなくてその辺が
上手く表現できるか心配です。アスランとキラはお互いに覚えていません。二人ともちゃんと理由があります。
ただ、時が経ち過ぎて忘れている訳ではありません。これからちゃんとその辺を織り込んで話を進めていければなと思います。