★キミとボクと約束のかけら★ 第4回
「……っふぇ……ひっく……」
「そんなに泣かないで……」
優しく微笑みを浮かべてどうにか菫色の瞳から溢れる涙を止めようとするが言葉をかければかける程その涙はぽろぽろと
大きな瞳から溢れてくる。目の前で泣き続ける少女に困り果てた様子の少年。
その様子を少し離れたところで見ている人物がいた。
(……これって……)
ふと気がつくと見覚えのない場所に立っていた。そしてその自分の目の前には幼い少女と少年。
しかも二人はこんな至近距離にいるキラの存在に全く気づいていない様子なのだ。それに目の前で泣いている少女には見覚えがあった。
自宅にあるアルバム、その中の写真。その子は幼い頃のキラにそっくりなのだ。
(……夢……だよね…?昼、あの話を人に話したせいかな?)
昼間、仕事の依頼に来たアスラン・ザラと名乗る人物にキラはどうしてなのか自分の秘密を話してしまった。
相手が下手な誤魔化しが効かなさそうというのは勿論あったけど何故か話しても大丈夫だと思ってしまった。
どうしてなのかは当のキラ自身も分からない事なのだけど。とにかく、普段話したりしない事を会ったばかりの他人に話してしまった事の
影響が夢として現れてしまったのだろう。
(それにしても…僕の傍にいるあの子は誰だろう?)
「…キラは泣き虫だね……そんなんじゃ僕心配だよ?」
「……っく、だっ……て、今日でさよならっ、…なんて……知らな……かった…もん……っひっく……」
「……ごめんね……中々言い出せなかったんだ……」
「っひ、…折角……友達になれっ…たのに………これからもっ…ずっと………一緒だと思ってたのにっ!」
感情のままに叫んだ幼いキラはより一層激しく泣き始める。
(これって本当にただの夢…なのかな…?)
これがただの夢ではなくてキラ自身の忘れている記憶なのであればキラは少なくともこの頃までは普通に涙を流して泣いていた事になる。
それにこの場所は確かに見覚えがないのだけど何故か懐かしさを感じるのだ。これは一体なんなのだろう……
(それにしても…よく泣くな……僕。相手の子凄く困ってるよ……)
二人の会話を聞く限りはキラとあの子はどこかで知り合って仲良くなったのだろう。そして、あの子は何かの都合でここにいられなくなった。
そして、今この時がお別れの日なのだろう。
(あの子だってきっと好きでここから居なくなる訳ではないんだろうに…)
ここは笑ってさようならしてあげるのが友達としての最後の優しさではないだろうか?と、そこまで考えてふと気づく。
それは今の自分の、16歳のキラの理屈だ。しかし、そこにいるのはどう見ても4、5歳の小さな子供でそんな大人の事情なんて
知りもしなければ分かりもしない。それにここまで泣くって事はそれだけ大事な友達だったからで…
(そんなに大切に思っていた相手の事をなんで全然覚えてないんだろう…僕……)
やっぱり、ただの夢なのかな?そう思ったその時、小さな少年は小さなキラ体をぎゅっと抱きしめた。
「ふぇ?」
「キラ、聞いて。僕は絶対キラのところに戻ってくるから」
「ホントに?」
「うん。ホントだよ。でも、キラがそんなに泣き虫だと心配だよ?…だから…」
「?」
「キラに魔法をかけてあげる。僕が傍にいなくても泣かないように」
「ま、ほう?」
「そう」
にっこりと微笑んだ少年は幼いキラの耳に何かを囁くと一端、少し体を離した。
(そうだ、僕はこの後くらいから涙がでなくなったんだ)
この後何があるのかを見ればもしかしたら涙が出るようになるかもしれない。キラがそう考えて二人の様子を伺っていると
突然当たりに霧の様な靄が掛かり始め辺りが段々見えなくなっていく。
(そんな、折角のチャンスなのに…あと、後もう少しなのに……)
キラが必死に目を凝らして見続けようとしたが無常にもキラの視界から二人の姿はどんどん見えなくなっていった。
完全に辺りが真っ白になる直前、頭の中であの少年の声をキラは聞いた気がした。
ぱちっ。と目を覚まして辺りを見渡すとそこは見慣れた自室のベットの上だった。
「あれは……ただの夢じゃ…ない、よね?」
誰に問いかける訳でもなくキラは呟く。
キラが涙をなくしてから十年余り。漸くそれを取り戻す事ができるかもしれない糸口を掴みかけていた。
■あとがき■
はい。お疲れ様でした。『キミとボクと約束のカケラ』第4話をお届けします。
今回はキラの過去篇です。キラは何故、涙を失ったのか?その理由の片鱗を少しチラつかせてみました。
肝心な部分はぼかして置いたのですがきっと皆様にはバレバレですよね…(汗)
今回の過去話は本当は完全に過去の話として書くつもりだったのですが、キラにも少しは思い出してもらわないと話が
サクサク進まないので夢という形を取らせてもらいました。