★キミとボクと約束のカケラ★ 第3回
最初に目に入ったのは綺麗な翡翠の瞳。
ふと気づいた時には撮影所の中にその人はいた。遠目に見ても綺麗な容姿だというのはすぐに分かった。
カメラマンと親しげに話しているからやっぱりモデルなんだな。と納得して見ていると彼とばちっと目が合ってしまった。
思わず見てしまっていたが、見ず知らずの人をジロジロ見るなんて失礼な事をしてしまった。
キラは気まずくて目を逸らす。目を逸らしたままでいると自分のすぐ傍に人の気配がした。
何だろうと思って、そうっと視線を戻すと目の前には彼が立っていた。
「え?」
「初めまして、キラ・ヤマトさん。ザラ・コーポレーションから来ました、アスラン・ザラです」
「…ザラ……?」
「何度かうちから仕事の依頼を申し込んでいたと思うのですが、聞いてませんか?」
「……あ、はい。聞いてます。でも……そのお話ははっきりとお断りしたと思うのですが…」
そう、きちんと断ってもらった筈だ。自分にはこの仕事は無理だからと。
「はい。お断りの返事は頂いたと聞いています。ですが今回のイメージには貴女しかないと社長たっての希望なので
失礼とは思いましたが、仕事場までお邪魔させて頂きました」
「折角来ていただいて申し訳ないのですが、何度聞かれても答えは同じです」
キラは申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。
「理由を聞かせていただく訳にはいきませんか?私は今回の件で貴女と共演予定です。
納得のいく理由を聞かせて貰わなければこちらも引き下がれません」
「…そ、それは……」
「それとも特に理由がないとかですか?ただ何となく嫌だから?」
「!!」
明らかな嫌味だった。きっと彼にはちょっと売れたからって天狗になっている新人にしか見えていないのだろう。
しかし、彼の言っていることに反論できない。そう取られても仕方がない行動を自分は取っている。
キラはきゅっと口を噤んで俯いた。
普段、キラは仕事を選り好みをしたりはしない。しかし、一つだけキラが決して受けない仕事があった。
それは『涙』が絡むものだった。キラは涙を流す事が出来ない。
キラ本人にもどうしてなのかその理由は分からなかった。ただ、両親の話によると五歳の時位から突然泣かなくなったらしい。
だから、キラには『泣き』の演技が必要な仕事は例えやりたいと思っても出来ないのだ。
そして、今回のザラ・コーポレーションの仕事も『涙』が絡んでいた。
どうすれば分かって貰えるだろう……この話はラクスにしか話していない事でシンやレイも知らない。
別に隠すことでもないとは思うのだが何となくあまり話したくなかった。
でも、目の前のこの人を納得させられる上手い理由も思いつかない。どうしたものかと考えあぐねて、ちらりと彼の様子を伺う。
(…綺麗……)
改めて見た彼の翡翠の瞳。真剣なその眼差しにどうしてかは上手く説明できないがこの人には本当のことを言ってもいいと思えた。
彼に悟られないように小さく深呼吸するとキラはゆっくりその理由を話し出した。
「…嫌、とかじゃないんで…す……ただ……け………ん…です…」
「え?」
「僕…泣けないんです……だから……」
「泣け…ない?」
こくりと頷くその表情は酷く辛そうだった。しかし、彼女の言っている事にはまるで説得力がなかった。
泣けないと言っているその瞳は今にも零れ落ちそうなくらい揺らめいている。
これで泣けないなどと言われてもはい、そうですか。と納得できるものでもない。
でも、目の前の少女が嘘を吐いているようにも見えなくて。
「やっぱり、信じては貰えません…よね…?」
「…いや…その……」
「いいんです。それが普通だと思います。」
どう反応していいのか困った様子のアスランにキラはにこっと笑みを浮かべる。
とても可愛らしい笑顔な筈なのにその顔がどこか無理しているようで明るく笑いかける彼女が逆に痛々しく見えた。
「信じて貰えなくてもそれが今回の仕事をお断りした理由です」
「………」
「こんな僕の事を採用しようとしてくださってありがとうございました。」
何も答えないアスランにキラはにっこりと微笑みを浮かべる。そして深々と頭を下げると踵を返してその場を去っていった。
残されたアスランは暫くその場に立ち尽くしていた。
■あとがき■
はい。少し間が空いてしまいましたが『キミとボクと約束のカケラ』第三回をお届けします。
今回、キラがザラの仕事を請けなかった理由が明らかになりました。この設定が使いたくて書きはじめたシリーズなので
やっと書けて嬉しいです。これからどうしてキラがそうなったのかはちゃんと明らかになります(あたり前)
今回、アスランとキラの出会いだったのですが二人とも敬語で喋りあっているのでうっかり誰か分からなくなりそうです(笑)
勿論、このままなんて事はありません!アスキラですからね!!