逢いにおいでよE



「…う…ん……」

次に目を覚ましたキラが目にしたのは見慣れた自室の天井だった。




キラはこの学園に入学する時に家から通学する不便さを考えて学園の敷地内にある寮に入っていた。
世間一般の学校の寮と言うとルームメイトと二人部屋、もしくはそれ以上の人数との相部屋が相場なのだが、
今時、寮生活という堅苦しそうなモノを自ら望んでする人が余りいないらしく、キラの様な事情の人間か余程の物好きだけらしい。
それ故、寮で生活している生徒はそれ程居ない為生徒には各自一部屋ずつ与えられていた。

(僕の部屋…?)

確か、アスランとイザークが言い合っていて……その風景の途中からぱったりと記憶がない。
と、言う事はどうやら自分は知らない間に気を失っていたらしい。
キラはぼんやりとする頭で今の状況に至るまでの過程をゆっくりと考えた。
イザークもアスランも心配性だからきっと二人で喧嘩しながら自分を運んでくれたんだろう。
そう思うと、その様子が安易に想像できて思わず笑みが零れた。

(なんだか昔に戻ったみたい)

口が悪くて、誤解されやすいけどホントはとても優しくていつも何だかんだとキラの世話を焼いてくれたイザーク。
一人っ子のキラにとってイザークは兄のような存在だった。だから、突然イザークが引っ越すと聞いた時は凄くショックで悲しかった。
そして、悲しむキラを優しく慰め一緒にいてくれたのがその時、引っ越してきたばかりのアスランだった。
イザークとは違い同じ歳のアスランは兄と言うのとは少し違ったが、イザークと同じくらいもしかしたらそれ以上だったのかもしれない世話焼きだった。
大好きだったイザークと離れた事は悲しかったけど、その分アスランがいつも傍にいてくれてキラはいつの間にかアスランの事も大好きになっていた。
そして、高校生になった今もアスランはキラの傍にいてくれる。
それだけでも十分過ぎるくらい幸せな事なのに、入学した高校でイザークと再会できるなんて。

(僕は贅沢者だね)

もしかしたら一生の中の運を半分くらい使っちゃったのかも。
そんな事を考えながらキラは身体の向きを変えようと動かそうした。その時、足も少しだけベットの中で動いてしまいジンと鈍い痛みが走った。

「っっ!いたっっ」

そう言えば、捻挫していたんだと自分の状態を思い出したキラは痛む足を恨めしげに見つめた。
忘れていた事が嘘のようにジンジンと足は脈打っていた。自覚とは凄いモノである。
しかし、それだけが原因ではなく痛み止めの薬が切れたせいもあるのだろう。
キラが薬を貰ったのはキラがアスランを捜しに向かう前。それからもうかなりの時間が経過していた。
しかし、薬を探そうにも動く事も儘ならない状態のキラにはどうすることも出来ず只、痺れるような痛みに堪えるしかなかった。

(なんだか、頭もぼうっとする……)

頭に霞が掛かったようにはっきりしない。少し気を抜くだけで意識が飛んでしまいそうな己の状態に熱がまた上がってきたのかもと
どこか他人事のように上手く働かない頭の隅で思う。

「アスラン…イザーク…」

無意識に紡いだ二人の名前。
呼んだところで二人がいる筈ないのに。きっとキラを送り届けた二人は自分の自室に戻っている筈だから。
自分と同じく寮で生活しているアスランとイザーク。
二人の部屋も同じ部屋にあるけれど、それだからと言って頻繁に出入りするなんて事はない。
と、少なくともキラは思っていた。でも、実際はアスランは事ある事にキラの部屋を訪れていて、世間一般的には
十分、頻繁に出入りしている。アスランの行動に慣れすぎたキラはそれが当たり前の事だとそう思っているのだ。

いつの間にか日も沈み、照明を点けていない室内は真っ暗だった。その暗さに漸く目が慣れてきたキラはふいに机の上にある時計に目を遣る。
もう、夕食の時刻だ。アスランもイザークも夕食を摂っている頃だろう。
今、キラには熱の為か食欲がないので何かが食べたいとかそういった欲求はない。
しかし、思うように動かない体と真っ暗で静かな部屋は否応なしにキラの心に寂しさという感情を生み出させる。
それが子供じみた我侭だとは頭では分かっていても誰かに傍に居て欲しいと思ってしまう。
そんな自分が情けなくて居た堪れなくなったキラはベットに潜り込む。その時にまた足がずきりと痛んだ。
でも、それは情けない自分の戒めのような気がしてキラは潜り込んだベットの中で苦笑した。









 *****************








 ― トントン ―

少し遠慮気味に部屋のドアをノックする音。そして、部屋の主からの返事を待たずに静かにドアが開かれた。

(誰だろう…)

未だはっきりとしない頭でぼんやりと考える。でも、キラが答えを導き出す前にその答えは当の本人によって知らされる。

「キラ?気が付いてたのか」
「…アス…ラン?」

体を動かさずに首だけをドアの方に向けて声のした方に目を遣る。
すると、暗がりの中に佇むアスランの姿が見えた。
キラが起きている事に気付いたアスランはベットに近づき、首だけを此方に向けているキラを体ごと此方に静かに向けた。

「気分はどう?どこか痛い所とかは?」

優しく微笑んでキラの額に汗で張り付く髪を掻き分ける。

「まったくお前は………ホントに心配したんだぞ、急に何の反応もしなくなったと思ったらお前凄い熱で…
イザーク、、、彼と二人でお前をここまで運んだり医者を手配したり。医師の話だと捻挫からくる熱との事と言われたが
お前が中々目を覚まさないから……俺は…」

そう辛そうに言ったアスランはふと自分の手に温かい感触を感じる。アスランが目を向けると
俯いたキラがぎゅっとアスランの手を掴んでいた。

「キラ?」

突然のキラの行動に驚いていると、俯き加減だったキラがゆっくり顔を上げた。
向けられた顔にアスランは思わず目を瞠った。そして、僅かに顔を紅潮させてしまう。
それはアスランを見上げるキラの顔が犯罪的に可愛らしかったからだった。頬を赤らめ、菫色の瞳を揺らめかしているキラは
普段とは違う何とも言えない色気を纏っていた。
それが熱の為、だけと思えないのは己の自惚れだろうか?
アスランは自分の手を掴むキラの手を優しく両手で握り返した。







                                       




    ◆あとがき◆
はい、お久しぶりです。『逢いにおいでよE』をお届けします。
かなり久しぶりに文章を書いたので思っていた以上に書き方と言うものを忘れてしまって只今、激スランプ中です。
この話もいい加減終わらせたいのですが…。目指せ!!一桁話数完結!!!(笑)
あ、このお話のキラは一人っ子設定です。カガリは…この話では出てきませんが一応設定上は従姉弟な設定です。
そして、アスラン、キラ、イザークの三人は寮暮らしです。同じ寮で暮らしているのにイザークもアスランもお互いの顔すら知らなかったのです。
周りを気にしない人達だと思うので……(汗)キラも寮では気付かずに学校で偶然に再会したのです。
次くらいには完結にいけるといいなーと思いつつ、どうなるかは本人にも分かりません(爆)
取り合えず年内完結を目指して続きは早めにUPします★