逢いにおいでよC
ふわふわと身体が浮いている感覚と、すごく安心する温もり。
とても心地良くてずっとそのままでいたいと思った。
「…ん…」
薄っすらと目をあけるとそこには見覚えのある天井があった。
「…あ…れ?ここは…」
「保健室だ。この馬鹿者が」
問いに答える声がすぐ傍から聞こえてきた。キラはゆっくりと視線をそちらに向ける。
「イザー…ク?」
キラの眠るベッドの脇に座っているのは見覚えのある人物。
彼の眉間にはいつも皺が寄っているが今はいつもの二割り増しになっていた。それは彼がそれだけ怒っていると言う事。
「まったくあれだけ無理はするなと言っておいただろうがっ」
「…ごめん…」
しゅんと顔を半分布団に隠してイザークに詫びる。彼が怒鳴るのは癖みたいなものでいつものこと。
でもそれは彼が不器用なだけで本当は優しくて、今回も凄く心配してくれたのだろうと思ったからキラは素直に謝った。
イザークもそれが分かっているからそれ以上は何も言わなかった。
「イザークが僕を運んできてくれたの?」
キラはイザークに問いかけた。自分を運んでくれたのがイザークだったのなら気を失う前に聞こえたあの声は気のせい?
あの心地良かった温かさはイザークのモノだったのだろうか?
「…いや、俺ではない」
「え?じゃあ、誰が?」
イザークではない。ならば、もしかしたら…
「お前を運んできたのは…あ、っち、そんなところで何をコソコソしているんだ」
そう言ってイザークが視線を向けた先にいたのはキラが望んでいた人物、アスランだった。
「別にコソコソしていたつもりは…ただ、話の最中に入るのも失礼だと……」
アスランは口篭りながキラ達から目を逸らした。
そこでキラはアスランがまだ自分とイザークの関係について何か誤解したままだということに気付く。
「イザーク。アスランには…」
「俺からは何も言ってない。キラが自分で言いたかったのだろう?」
「うん。ありがとう」
イザークはフンっと再び明後日の方を向いた。その背けられた顔に些か赤みを帯びているのが見えてキラは微笑する。
そして、イザークからアスランへ視線を戻す。
「アスラン…君が僕を連れてきてくれたんだね?ありがとう」
「いや、礼を言われるほどの事じゃ…」
キラはゆっくりと首を振って、ふんわりと微笑む。
あの優しい温もりはやはりアスランだった。心地良く安心できた温かさ。ずっとそのままでいたいと思った。
やはり自分の心はアスランを求めているのだと再認識する。
だから、アスランの誤解をはやく解かなければと逸る気持ちを抑えるようにキラはひとつ大きく息を吐いた。
そして、ゆっくりと語り出した。
「アスランもしかして僕とイザ…と、ジュール先輩の事何か誤解してない?」
「え?!」
突然切り出された問いかけにアスランは直ぐに反応出来なかった。
「違ってたらごめんっっでも、聞いて欲しい…君に……アスランにだけは誤解されたくないから…」
「キラ…」
不安げにアスランを見上げると、そこにはいつもの優しいアスランの顔があった。
アスランはキラの前髪をくしゃりとするとシーツの上にあるキラの手を握った。
「うん…聞くよ。キラの話」
「ありがと…あのね、ジュール先輩はアスランと会う前に家の近所に住んでいて一緒に遊んだりしていた幼馴染なんだ。
アスランとは殆んど入れ違いみたいに引越しちゃったんだけど…でも、アスランも会った事あるんだよ?」
「は?」
そんな覚えは全くないアスランは思わず間の抜けた声を上げてしまう。
自慢ではないが記憶力はいい方だと思ってる。だが、こんな銀コケシみたいなのは覚えがない。
一生懸命記憶の糸を手繰り寄せようとしているアスランにキラは苦笑する。
「本当に少しの間だけだったけどね…アスランとイザークはすぐ喧嘩しちゃって…」
その時の事を思い出してキラはクスクス笑う。
アスランとしては身に覚えがない事で笑われている気分だ。キラと出会った頃と言えば十歳の頃だ。
記憶が曖昧になるほど幼いくもない時期だ。ここまでくると意地でも思い出したくなる。すると…
「思い出した!!お前あのクソ生意気なチビかっっ!!!」