逢いにおいでよB



「はぁ…」

自己嫌悪。今のアスランは正しくそれだった。キラの事を全て分かっていたと思っていた自分。
それが絶対で当たり前だと思っていた。
でもそれは間違いだったのだ。自分の知らない上級生と親しげに話すキラ。
たったそれだけの事。しかし、アスランには衝撃的な事だった。
キラの友人関係は全て知っていると思っていた。でも、アスランの記憶ではキラの友人リストに彼はいなかった。
人好きな性格のキラには友人と呼べる人間は沢山いたが、あれ程親しく出来る人物ならばアスランの目に留まらない訳がない。
それなのにアスランが知らないという事はアスランがいない時にキラは彼と出会っていた事になる。

(はは…何でも分かっているなんて…)

思い上がりもいいトコだ。
キラの事を全て分かっていると、勝手に勘違いしてそう思い込んでいた自分が滑稽に思えてアスランは苦笑を浮かべる。

アスランはふと、足を止める。キラのいた保健室からふらりと当てもなく歩いていたが気が付けば屋上の入り口に立っていた。
いつの間にか上っていた階段のしたからは生徒達の楽しそうな声が聞こえてきていた。
ホントなら自分も今頃キラと昼食を摂っていた筈だったのに…そこまで思って再び苦笑する。

(ホントにどうしようもないな…)

ギィと音をたてる扉を開けてアスランは屋上に出た。
そこには抜ける様な青空が広がっていて、アスランの沈んでいる気持ちをほんの少し和らげてくれた。



『うわーっ凄く気持ちいいね、アスラン』
『ああ、そうだな』
『そうだっ!!これから天気のいい日はここでお昼しようよ、ね!!』
『あのなーキラ。一応、屋上は立ち入り禁止なんだぞ?』
『でも、もう僕達入っちゃってるし。一回はいったら何回入っても一緒だよ』
『またお前はそんな屁理屈言って…』
『ねえ、どうしても駄目?』
『……………わっかったよ、全く…言い出したら聞かないんだよなキラは。』
『やったー!!アスラン、僕達二人だけの秘密。だね。』



数ヶ月前、偶然開いていた屋上の扉を見つけた。
その時交わした些細な約束の思い出。それはアスランだけが知りうるアスランだけのモノ。

(そうだ…そうなんだ。結局のところ俺には…)

キラだけ。自分の心を占めるのはキラ。キラにどんな存在がいようとも、それは変わる事のない確かな事。
そう思ったら心が軽くなった気がした。
本当のところやっぱりキラに自分より親しい人物がいる事には嫉妬心が湧いてくる。
でも想う事は自由だから。過去、現在がどうであれ未来はどうなるかなんて誰にも分からない。
だったら、もしかしたら未来のキラの一番は自分かもしれない。かなり前向きな考えだがそう思う事で前に進める気がした。
キラが何より誰よりも大切。その想いは誰にも負けない。この先何があってもこの想いだけは揺るがない。
空を見上げたアスランの顔には先程までの迷いは微塵もなく、憑き物が落ちたように晴れやかな顔をしていた。









「はぁ…っいっ」

アスランの後を追い、保健室を出てから数分。キラは痛む足引きずりながらも懸命にアスランを捜していた。
アスランが保健室からいなくなってからそんなに時間は経っていない筈だから普通なら追いつくか見つけるかできてもいいものなのだが
今のキラではそれは到底無理だった。もし、アスランが歩き続けているのならば今の状態のキラでは見つけても追いつく事も儘ならないだろう。
でも、キラにはアスランのいるであろう場所に心当たりがあった。アスランはその場所にいる。何故だかキラにはそう確信できた。
そして今もその場所に向かってゆっくり、ゆっくり進んでいた。
先程から足の痛みは増していく一方で一歩進む度にジンジンと足が痛んだ。
でも、今はそんな痛みを構っている場合ではなかった。只早く、アスランに会いたい。それだけだった。
自分を心配して保健室まで駆けつけてくれたアスラン。そんな彼にありがとうも言ってない。それどころか彼はきっと自分とイザークの事
何か誤解していそうだったから。誰に何を誤解されても構わないけど、アスランにだけは誤解されたくない。
それは、彼がキラにとって幼馴染、友達以上に大切な存在だから。こんな気持ち恥ずかしくてアスランには言えないけれど。

(僕には君だけなのに…)

ストレートに感情をぶつけてくるアスランと違いキラは恥ずかしがって余り表に出さない。
だからきっとアスランはキラが自分の事をただの幼馴染としか見ていないと思ってる。キラはそう思っていた。
実際、それはその通りで、だからキラとイザークの仲良さ気な現場に遭遇して勝手に何かを勘違いして姿を消したのだから。

(兎に角、アスランを見つけない事には話もできない)

暫くして漸く目的地のすぐ近くまで辿り着く事が出来た。でもその前には最後の難関。キラの目の前にある階段を見上げるとふう、と溜息を吐く。
そう、キラの目指しているのは屋上。そしてキラが今いるのはその屋上に繋がる階段の最下層、即ち一階にいた。
ここまでくるのに随分時間を使ってしまっていて昼休みも残り僅かしか残っていない。
ここでもたついている場合ではなかった。
キラはよしっと自分に気合をいれると屋上に向かい階段を上り始めた。足の痛みは既に麻痺してきていて痛みは余り感じなくなっていた。
その代わりに何だか頭がぼーっとする感じがしていたがキラは構う事無くその歩みを進めていった。

一歩、一歩とゆっくりだが確実に前に進んで行き、やっとの事で屋上へ続く最後の踊り場まで辿り着く事ができた。
しかし、キラの体はもう限界だった。キラはその場に崩れるように座り込むと直ぐ上にある屋上の扉を見つめる。

(あと、少しなのに…)

もう少しでアスランのところへ行けるのに。どうしてこの体は言う事を聞いてくれないんだろう?
ぼんやりとしてくる頭と動かない体。気を抜いたら意識も飛んでしまいそうだった。
キラは必死に意識を保とうとするが既に限界を超えてしまっている体は休息を求めていてそれに逆らう術はなかった。
薄れゆく意識の中、キラは昼休みの終わりを告げる電子音と一緒に大好きな幼馴染が自分を呼んだ声を聞いた気がした。




                                         





    ◆あとがき◆
お久しぶりに更新です。『逢いにおいでよB』をお届けします。
今回は、キラとアスラン会えずに終わってしまいた…(汗)このアスランとキラは両想いです。
でも、お互いが相手はそう想っていないと勝手に思い込んでいるのです。ビバ!すれ違い!!書いてて楽しいです(笑)
そしてアスランさんは一人で凹んで勝手に立ち直ってます。このアスランはかなり前向きなのです。
それだけキラが好きなんですよvvvそして、キラは恥ずかしがり屋です。アスランの事が大好きなのに
素直にそれを言えない…今はアスラン捜して三千里(?)見たいな事になってますが…(笑)
このお話は次で終わらせる予定です。イザークとキラの関係も次明らかに!!(在り来たりな設定ですが)