逢いにおいでよA



廊下は走ってはいけません。と小さな頃から学校で言われてきたけれど、緊急を要する時は寧ろ走るべきだと思う。
急いでいる相手に道を明けるのが人としてのモラルであり常識ではないだろうか。

そんな自己中心的な事を考えながらアスランは昼休みの為、込み合う廊下を縫うように走り抜けて行く。
一刻も早くキラの待つ保健室に辿り着く為に。アスランは遮二無二に走っていた。
しかし目的地である保健室は別館にあり以外に遠く、こんな時はこの無駄に広い校舎を恨めしく思ってしまう。



それでも進んでいれば何時か目的地には着く訳で。キラを捜し始めてから十五分。昼休みが始まって三十分。
アスランは漸くキラの要るであろう保健室の前に辿り着いた。



「キラっ!!」



アスランは勢い良く保健室のドアをばんっと開けた。そして目に映ったのはずっと捜し続けた最愛の幼馴染と……もう一人。
怪我の手当てをしているのか椅子に座っているキラの素足に手をかけていた。
その光景を見た途端、アスランの中で何かのスイッチが入った。

「あ、アスラン?」

突然、勢い良くドアが開かれその菫色の大きな瞳を更に大きくして少し驚いた様子でアスランを見つめる。
しかし、アスランはドアを開けた状態のまま固まってしまったかの様に微動だにしない。
キラはアスランの様子が可笑しいと思いながら再び声をかける。

「もしかして僕を捜してくれてたの?ごめんね、昼休み潰しちゃって…」

キラの声はアスランに届いていたのだが、アスランが今、意識を集中させているのはキラ本人ではなく、
そのキラの白くて細い足に触っている(実際は手当てしている)もう一人の存在だった。
アスランの視線がそちらに向いていると気が付いたキラが慌ててこの状況の経緯を話そうとした。

「アスラン、これはね…えっと、階段から落ちた僕を…… 」

「キラ、余り動くな手当てしにくい。それに足を捻っているのだから大人しくしていろ」

話始めたキラを窘める様に言葉を挟んだのは今まで黙ってキラの手当てをしていたもう一人の人物だった。

「あっ!ごめん、イザーク……じゃない…えっと、ジュール先輩」

「別に謝らなくてもいい。それにイザークで良いと言っただろ」

「でも、学校じゃイザークは先輩だし…そう言うのはちゃんとした方がいいと思うし…」

「まったく…お前は昔からそういう所は馬鹿真面目で頑固だな」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

にっこりと微笑んだキラにつられてイザークも顔に笑みを浮かべる。




一方、完全に置いていかれた状態のアスランは呆然とその場に立ち尽くしていた。
手当てをしている上級生と自分と同じように…いや、それ以上に親しそうに話すキラ。
今まで幼馴染としてキラと過してきて、彼のような存在がいるなど気付きもしなかった。
キラに自分と同等かそれ以上に親しくしている友人がいるなんて…アスランは言葉に出来ないほどの衝撃を受けた。
キラの世界の中に自分が存在しない時間があるだなんて考えた事もなかった。
でも、きっとそれは自分の驕りでキラにはキラだけの世界だって存在しているのだ。
そう考えてしまうと、何だか今までの自分の世界が否定されたようで無性に悔しかった…
アスランはゆっくりとその場から去った。





「あれ?アスラン?」

漸くアスランの姿がなくなった事に気が付いたキラが辺りをきょろきょろと見渡す。

「さっきの奴ならお前が俺と話している間にふらっと出て行ったぞ」

「えっ!?嘘っ」

「こんな事で嘘を吐いて何の得がある。よし、これで終わりだ」

そう言ってイザークはキラの足から手を離す。

「多分、骨には異常はないと思うが余り痛みが退かない様なら医者にでも診て貰え。後は二、三日は無理に動かさなければー…って、キラっっ」

「僕、アスラン捜してくるっ」

すくっと立ち上がると片足に少し痛みが走ったがイザークの手当てが良かったのか歩けない程ではなかった。
少し足を引きづりながらも歩き出すキラをイザークは止めにかかる。

「馬鹿者かお前はっ!!捻挫だからと言って甘く見ると後で悪化して…」

「だって…アスラン、僕を昼休み潰してまで捜してくれてた…それに……きっとアスランの事だから何か勘違いしてそうだし…だから……」

「まったく…お前は昔からホントにそういうトコ変わらないな。どうせ止めても無駄なんだろ? 」

「…イザーク…」


イザークは深くわざとらしく溜息を吐くと皮肉めいた笑みをキラに向ける。

「あまり無理はするなよ」

「うん。ありがとう」

そう言い残すとキラは保健室から出て行った。
一人残されたイザークは娘を嫁に出すような複雑な想いでその背中を見送っていた。





                                        



    ◆あとがき◆
はい。アスキラ←?の?はイザークさんでした。大方予想どうりだったと思います(笑)はるかにそんな凝った展開は
思い付ける訳ないじゃないですかー(開き直り)そして、アスランさん女々しいです。うじうじですっっ(大笑)
キラとイザークが仲良く話しているのを見てショックを受けて勝手に一人で勘違いしてグルグルしています。
イザークとキラの関係は次の話でキラの口からアスランに語られると思います。
次かその次くらいでこの話は終わらせたいなー(突発短編なので)と思いつつどうなるかは本人にも分かっていません(爆)