逢いにおいでよ@
休み時間、それも昼休みともなると教室は勿論の事廊下も授業中の時とは打って変わって一際賑やかになる。
教室の机を集めて昼食を食べる者、別のクラスに向かう者、購買部に向かう者、中には既に昼食を済ませ校庭に走っていく者。
と、昼休みの過し方は各自様々だ。
しかし、昼休みどころではない人物がここに一人。彼は今、ある場所に向かって全力疾走中であった。
事の起こりは昼休みが始まって間もなくの事、何時ものように最愛の幼馴染と昼食を摂るべく彼のクラスに向かったところ
彼の姿がなく、近場にいた生徒を捕まえて聞くと午前最後の授業の教科担任に授業で使った資料の片付けを頼まれていたと言った。
それを聞いた彼、アスランは思わず苦笑する。
幼馴染のキラは本当に頼まれ気質なのだ。そしてそれを断ったりする事をしない。
お人好しで流されやすくて、そして何より優しいのだ、キラは。それ故に要らぬ苦労を背負い込んでくるのだけれど。
それを知っている教師や生徒は何かあると直ぐにキラに頼みごとをする…という悪循環だ。
その際に、頼む方はアスランがキラの手助けをする事を見越しての場合もあるのだが………
そして、今日もその例に習って頼みやすいキラに雑用を頼んだ―ってところだろう。
(あいつも、たまには断ればいいのに。理由なんて適当に言って…)
そこまで思ってアスランは小さく笑みを漏らす。
適当な理由を付けて断るなんて芸当、キラに出来る訳が無い。
キラにそんな事が出来ていたならアスランもこんなに苦労はしていない……かもしれない。
(ま、それがキラらしいと言えばそうなんだけど)
と、物思いに耽りそうになってはたと当初の目的を思い出す。腕の時計に目を遣ると昼休みが始まって既に十五分経過していた。
(取り合えず早くキラを発見しないと昼休みが終わってしまう)
昼休みの時間は四十五分間。よって残りは三十分ぐらいしか残されていなかった。
クラスが別なキラと一緒に過せる限られた時間をこれ以上減らされては堪らない。
そう思ったが早いがキラが向かったであろう資料室に足を向けたのだった。
アスランが資料室に向かい始めて暫く、もう直ぐ目的地だと思った時思わぬ人物がアスランに声をかけてきた。
それはキラのクラスメイトのトールとサイと言う生徒だった。
思わぬと言うのはキラのクラスメイトでクラスの中ではキラと比較的仲の良い友達なのだと言う認識はあったのだが
アスラン自身、彼等と言葉を交わした事は殆んど無く、見て知っていたと言うほどくらい存在だったからだ。
そんな彼等が自分に何を話しかけてくるというのだろう?
アスラン的には十分思わぬ人物の予期せぬ行動だった。
「ザラ、キラを捜しているのか?」
「ああ、そうだけど」
サイの口から出たキラの名にぴくりとアスランの眉が動く。只でさえ時間が余り無いのにその上キラの事でなんでお前らに呼び止められなければいけない?
と内心はかなり苛々していたアスランだが表向きの表情には一切出さず至って冷静な様子で二人をみる。
「キラ、もう資料室にはいないぜ」
トールの言葉にアスランの眉が再びピクリと動く。
「じゃあ、行き違いになったんだな」
そう簡潔に答えたアスランは元着た道を戻るべく身体をくるりと反転させて二人に背を向ける。
キラ以外の人間にはトコトン興味を示さず、逆にキラに対しては過剰な程の反応を見せる。
一部の女子の間では氷の貴公子と呼ばれる彼。
そしてその表情を綻ばせる事が出来る唯一の存在…、キラ・ヤマトの名も当の本人の知らないところでは有名になっていた。
その氷の貴公子の絶対零度的対応を実際目の当たりにした二人は噂は本当だったのだと確信する。
普段、友人であるキラから彼の事を聞く分には普通の世話焼きな幼馴染にしか思えないのだが ―
「いや、そういう訳でもないんだけど…」
素早くその場を去っていこうとするアスラン。しかし、トールの言葉で再び足を止める。
そして、ゆっくりと振り返った。
「君達は一体何が言いたいんだ?」
彼の顔は一見、にっこりと笑みが浮かんでいる様に見えるが目が完全に笑ってない。
このままでは自分の身に危険が起こるような錯覚すら覚えた二人だったがそれでも少し困ったような様子で顔を見合わせる。
(一体何なんだ…)
どうにもはっきりしない二人にアスランの苛々は更に募っていく。
二人もこれ以上有耶無耶にしても仕方ないと思ったのか言い難そうにぽつぽつと話始める。
「キラ、ここにくる途中の階段で足を滑らせて…」
その言葉を耳にした瞬間、アスランの目の色が変わった。
「!!落ちたのかっ?!階段からっ」
「あっ、でも下に偶然いた上級生が受け止めてくれたら…」
慌ててサイが補足を入るれるも、アスランの耳には届いていない。
アスランはトールに詰め寄ると食い入るような目で凄んでくる。何も知らない人が見ると因縁でも付けているようだ。
「それでっ!今キラは?」
「その上級生が保健室に……っておい、ザラっ話は最後まで―ってもういないし」
今の今までそこにいた筈のアスランの姿は既にそこにはなく、完全に置いていかれた感じになったトールとサイは
唖然としてもう小さくなったアスランの背中を見送るしかなかった。
「キラ…大変だな…」
「ああ…」
超過保護な幼馴染がいる友人に思わず同情して漏れた二人の呟きを聞く者は誰もいなかった。
◆あとがき◆
はい。アスキラ+?の学園物でした。設定は基本現代パロとは少し違うモノでアスキラは同じ高校ですが
クラス別で幼馴染は幼馴染でも十歳以降からのと言う設定です。何故、十歳なのかは後々分かるかと思います。
その時、+?の意味も分かるかと。本当は一話完結のつもりだったのですが長くなりそうなのでここできります。
久々のキラ男の子だっと意気込んで書いたのにキラが一切出ずに終わってしまいました…(悲)
突然書きたくなったネタだったので今回はお題完全無視でお送りしてます。
成るべく短めに終わらせるように尽力します(短編のつもりなので…)