アスランとキラがラスティと別れてから数分後。
「 あの人、大丈夫かな?」
キラは未だに置いてきてしまったラスティの事を心配していた。
若干ラスティに嫉妬心は感じてしまうがアスランとて人の子である、あの状態のまま放置してきた事に僅かにだが罪悪感を感じていた。
それにキラの性格上、気にするなと言うほうが無理な話で…
アスランは背中に影を背負いながらはーっと溜息を吐く。
( だから、キラを会わせなくなかったのに )
キラはその容姿と性格からすぐに人に好かれる。アスランとしてはそれがおもしろくないのだ。
只でさえ、学校が別々で自分の知らない時間があるというのにこれ以上要らぬ輩にキラを露出したくない。
まあ、学校ではカガリが他の生徒を牽制してくれている為(アスラン的に不本意なのだが)、あからさまにアプローチをして来る人間などいない。
密かに想いを寄せている人はかなり存在するらしいが(ミリアリア調べ)。
そんな現状も今回アスランがキラとの関係を一歩前進に踏み切った原因の一つだったりする。
大事に大切にキラとの良い関係を築いてきた。出来ればこれからもゆっくり育んでいきたい。
それに、キラに拒絶されてしまう恐れだって無い訳ではない。
しかし今、この状況で今まで通りに幼馴染を続けていたらもしかしたら他の誰かに横から奪われてしまうかもしれない。
それこそ冗談ではない。
( キラを想う気持ちは誰にも負けない!! )
その気持ちだけは確かなことで、同時にその気持ちさえあればどんな事でも出来そうな気持ちになった。
アスランは再び決心を固めると、キラには気付かれないようにぎゅっと拳を強く握り締めた。
世界中の好きよりもたったひとつのありがとう 2 Vol. 5
「 あのさ、キラ 」
意を決してアスランは話し出した。普段通りにキラと話すだけなのに妙に緊張してしまう。
「 何?」
「 今日ってなんの日か知って…る?」
思い切ってぶつけてみた質問。自分が上手く話せているのかも良く分からない位緊張している。
きょとんとして自分を見ているキラにアスランの不安は募っていく。
( もしかして呆れているのか?それともホワイトデイについて何も知らないのか?)
ぐるぐる、ぐるぐる…
アスランの頭はハツカネズミ状態になっていた。
なんの反応も無いのはある意味一番辛い。何かしら反応があればそれなりにいろいろ対応も考えているのに。
そんな風に考えながらもそれを声にすることが出来る筈もなく、今のアスランにはキラの言葉を待つしか道は無い。
暫く何か考えるような素振りをしていたキラがぽんと自らの手を叩く。そして僅かにだが頬を紅く染めた。
アスランはそんなキラの様子には気付く余裕もなく、ただ緊張の面持ちでキラを静かに見つめていた。
「 うん、知ってるよ 」
ゆっくりとそう答えたキラに先ずはほっとする。
「 今日、カガリが… 」
( またか!!)
彼の口がその名前を紡いだ途端、アスランの顔が引きつる。
バレンタインの時の事が思い出され、アスランは顔を附せ溜息を漏らす。
(今日って事はやっぱり昨日の内に手を打っておくべきだった)とか(また訳の分からない事でも吹き込まれてきたのか)とか
アスランの中で後悔が募る。
「 …アスラン?聞いてる?」
「 ああ… 」
再び、トリップ状態になっていたアスランをキラの声が引き戻す。
当然の如く、途中からキラの話は聞こえてはいなかった。
キラは僅かに眉を寄せて、「ほんとに?」と疑いの眼差しで見つめる。
アスランが苦笑を浮かべると、キラはわざとはーっと長い溜息を一つ吐いた。
「 それでアスラン、何で今日は何の日かなんて僕に聞いたの?」
「 いや、それは… 」
突然のキラの切り返しについて行けずアスランはあたふたしてしまう。
「 もしかして、僕にお返し用意してくれた?とか 」
まさかキラから本題を振ってくれるとは思いもよらず驚きで目を瞠る。
でもせっかくのこのチャンス無駄にする訳にはいかないと、アスラン歩いていた足を止める。
「 キ…」
「 −なんてね、ごめん、冗談だよ。そんな難しい顔しなくてもいいのに 」
アスランが声を出そうとしたほぼ同時にキラの声が遮るように発せられた。
「 だって今日は… 」
俯きがちに目を伏せたキラの表情は少し寂しげで、アスランは慌ててキラに駆け寄る。
「 いや、用意はしてあるんだ 」
「 え?」
「 ホントだよ、ほらコレ… 」
自分の鞄の中から綺麗にラッピングされている小さな箱を取り出すとキラに差し出す。
「 照れくさくって、中々渡せなかったんだ… 」
「 これ…僕に?ホント??」
箱を受け取り、本気で驚いた様子のキラにアスランは小さく苦笑する。
アスランから受け取った箱をマジマジと見つめて、キラはぱあっと笑顔になる。
「 アスラン、ありがとう!!僕、すっごく嬉しいvvv」
にっこりと、しかし少しはにかむ様な微笑みを向けてくるキラにアスランは心底幸せな気持ちになる。
二人の関係をどうとか、その為の作戦がどうとか、そんなことが全てどうでも良くなってくる。
そして、笑顔全開のキラは終始にこにこしながら再び口を開く。
「 僕、実は不安だったんだ。アスランがお返しをくれないじゃないかって 」
「 そんな訳ないだろ、バレンタインにキラから貰ったんだから 」
「 そうかもしれないけどだって今日はお返しの日なんでしょ?だから僕、普段迷惑ばっかりかけてるから… 」
そう言いながらキラの顔が少しくもった。
「 こら、そうやってすぐに自分を悪く思うのはキラの悪い癖だぞ 」
アスランはキラの頭を軽くこずく。そうされてアスランを見上げればそこには優しく微笑むアスランの顔があった。
「 俺は一度もキラのこと迷惑なんて思った事ないよ、キラはもっと自分に自信をもたないと 」
「 うん… 」
顔を僅かに紅潮させて微笑むキラにアスランの脈拍は上昇する。
「 あのね、アスラン 」
すいませんっっまた続きます!!次で必ず終わらせます…