「 で、その相手ってのはどんな子なんだ?」
興味津々と言った感じで聞いてくる友人にはーっと深く溜息を吐く。
昨日、ホワイトデイについて(正確にはカガリについてだが)悩んでいたアスランが友人のラスティに絆されて相談したところ
彼が必要以上に乗り気になってしまい、現在この駅前のカフェに男二人でいる。という現在の状況に到っている。
(結局、昨日は代表委員の仕事に時間が掛かってしまった為日を改めてと言う事になった。)
( なんでこんな事に… )
何が悲しくて最近、この駅前にオープンしたばかりの人気のカフェにラスティと二人でいなくてはいけないのだろう…
出来ればキラと来たかったな…などと思いつつアスランはもう一度大きく溜息を吐いた。
世界中の好きよりもたったひとつのありがとう 2 Vol. 3
「 …キラは俺の幼馴染だ 」
アスランは重たい口を開き話し始める。こうなってはもう協力してもらうしか方法がない。
出来ればキラをラスティに見せたくはなかったのだが下手に誤魔化した所で彼の事だから余計に興味を持って結局発見されてしまう。
それはそれで厄介だ。それなら会わせる前にキラは自分のモノだと刷り込んでおいた方がいい。
「 親同士が仲が良くて小さな頃から兄弟みたいに育ったんだ。キラは小さな頃から甘ったれの泣き虫で俺が良く世話を焼いてたっけ 」
「 へぇ、幼馴染ねー 」
「 凄く純粋で優しくて、自分の事より他人を優先させるし、素直だから人から言われた事をすぐ信じて騙されやすいし
流されやすいから断りきれなくて大変な仕事とかを沢山任されたりするし 」
「 へー…」
「 そんな性格だから人に好かれやすくて不貞の輩に付け狙われるのなんて日常茶飯事で俺かどれだけ苦労して撃退してきたか 」
「 そう…なんだ… 」
「 それなのにキラ自身がそれに無自覚でまるで無防備だから… 」
「 …アスラン… 」
それまで簡単な相槌を打ちつつ大人しく聞いていたラスティがアスランにストップをかける。
酷く疲れた様子でテーブルに突っ伏す。
「 なんだ?まだキラについて語りきれていないぞ 」
「 もう…十分…分かったから… 」
だから勘弁して下さい。と切実に懇願する。
「 そうか?まあ時間も余り無い事だしな 」
助かったーっとラスティは心の中で歓喜の涙を流す。
もう既に途中からキラの人となりと言うよりもアスランの『キラ奮闘気』になっていた。
限りなく惚気に近いそれをもうかれこれ一時間以上も聞かされていたのだ。と言うかここまで聞いていた自分を褒めて欲しいとさえラスティは思った。
「 で、話を本題に戻すがそのキラちゃんの双子の姉さんがキラちゃんを溺愛してて世間の色恋沙汰に疎いキラちゃんに
間違った知識を教え込んでいるっと確かそうだったよな?」
「 ああ、それでバレンタインの時はしてやられたからな… 」
無表情にしながらも額には血管マークが見える。ひーっと心で叫びながらもラスティは話を進める。
「 え、えーっとそれでその姉さんとキラちゃんは同じ高校に通っていて… 」
「 どうすれば、キラに余計な事を吹き込まれずに当日を迎えるか、だ 」
そう言い放ったアスランはバレンタインの時の事を思い出したのか眉間に皺が寄っている。
ふっとそこでラスティに疑問が浮かぶ。
「 てかさーアスラン。もう既にその要らぬ事ってヤツを吹き込まれてんじゃないの?」
そう、当然の疑問。3月に入ればバレンタインに奮闘した女の子達はお返しと返事の貰えるホワイトディを意識する筈、
ならばキラの学校でもホワイトデイで湧き上がっているのではないのか?
そう考えてもおかしくはない。
しかし、ラスティの疑問にも慌てる事もなくさらっと言ってのける。
「 その点なら大丈夫だと思う。今のところそんな素振りはキラにはないからな 」
「 分からないじゃないかそんなの。隠しているかもしれないだろ?それに学校が別々ならそんなに頻繁に一緒って訳にもいかないだろ?」
ん?と疑問符を浮かべて何をいってるんだと言う顔をするアスラン。
「 キラとは毎日一緒にいるぞ、何しろ一緒に住んでるからな 」
−がたっ-
アスランの爆弾発言に椅子から落ちそうになる。
( 今、こいつ何て言った?)
「 おい、大丈夫か?」
落ちそうになった椅子の背を抱き込んだまま動かなくなったラスティにアスランは声をかける。
そこで、はっと我に返ったラスティはアスランに詰め寄った。
「 お、おい…今、何て言った?なーんか一緒に住んでるって聞こえたんだが… 」
「 ああ、言った 」
即答。ラスティは驚きの余り絶句、そして脱力…
ラスティは疲れたようにはーっと深く溜息を吐く。
「 何だよお前…同棲してるなら両思いって事じゃないか… 」
心配して損したよ。と椅子の背で身体を反らすラスティにアスランが再び口を開く。
「 なんで、一緒に暮らしているって事が両思いって事になるんだ?」
ぬけぬけとそんな事を言ってくるアスランにラスティに半ば呆れ気味に答える。
「 お前なー年頃の男女が一つ屋根の下に暮らしていますって言ったら両思い以外の何物でもないだろ?」
「 お前こそ何を言ってるんだ?誰がいつキラが女だなんていった?キラは男だ 」
−がたたっ−
アスラン、本日二回目の爆弾発言は流石のラスティも叫ばずにはいられなかった。
「 男ーーーーーー?!」
ラスティの叫びは店内に響き渡っていき、店中の注目を浴びる羽目になる。
( やっぱりこいつに相談したのは間違いだったか… )
アスラン、運命のホワイトデイまであと1日。