魔女界にプロ野球チームを作ろう!!
第25話「ニーナの家庭は子だくさん 匠ついに親になる」

 美空市郊外の外国人町。その地区のアパートにホエールズモロ・ニーナ内野手が引っ越して来た。
藍蓮「うわあ、凄い数の子供ですね。びっくりした」
ニーナ「全部妹。私は親がいないから。中学を卒業してすぐ働いて。その時に友達が『野球しよう』って声をかけてきてね。気づいたらニッポンにいたの」
藍蓮は母親に教わったという折り紙を折った。中国の折り紙は種類も豊富で遊べる物もかなりある。
纏「…。ニーナごめん…。あたし、こういうの弱いから…つい泣いちゃって」
藍蓮「纏さんが泣くの、初めて見た」
ミーナ「普段が普段だから、あまり泣かないのよ。纏さん」
 ミーナは家路についた。タクシーに乗って、自分と匠が暮らすアパートに戻った。匠はフリー記者に転向していた。だから、家にいることが多い。
ミーナ「ニーナの所でご飯食べたから今日はいいわ…」
その場に倒れ込む。 匠「ミーナ?おい大丈夫か!!」
匠は自分の愛車である白色のマツダ・コスモスポーツで美空病院に搬送した。

医者に呼ばれて部屋に入る匠。
医者「おめでとうございます。奥さんに娘さんができましたよ」
匠「えっ!先生、本当ですか?」
医者「嘘は言いません。妊娠5ヶ月ですよ」
ミーナはベッドに寝ている。
匠「ミーナ、おめでと。赤ちゃんがいるって、先生が」
ミーナ「そう。私たちついに親になるのね」
匠「そうだね…ってなんで黙っていたんや!いきなり倒れ込むからビックリしたで」

匠は球団に出産休暇の特別措置を取ってもらった。ハワイのミーナの実家に国際電話をかけた。
匠「お義父さん、ミーナに娘が…。いえ孫ができました」
竜平「本当か。で、男か女か?」
匠「娘ってさっき言いましたよ!」
竜平「すまない。よく聞こえなかった。でも2人とも、おめでとう!後は無事に生まれるのを待つだけか」

***

 翌日、ホエールズの練習場に一軍が集まった。
東尾「諸君!今回ミーナに新しい命が宿った。それで今回君たちから…」
纏「監督、今頃知ったんですか?選手会ではお祝い金を集めています。球団職員で出していないのは監督だけですよ」
瞳「纏、ペナルティとして監督の車を貰わない?中古車屋で現金にして」
東尾「それは止めてくれ!」
纏「これを気にウォーキングで来られたら、健康になりますよ。ははっ、嘘ですよ。からかいがいがありますね」
東尾「ビックリさせるな。寿命が縮んだかと思った」
練習場が笑いに包まれた。

***

 それから4ヵ月が過ぎ、2008年8月22日匠のアパートの部屋にはすっかりお腹の大きくなったミーナがいた。
匠「大丈夫か?顔色悪いぞ?」
ミーナ「大丈夫よ。いくら明日が予定日だとしても…。痛い!痛いってば!匠…来ちゃったかも…」
言葉は悲鳴に変わって行く。匠はコスモスポーツの後部座席にミーナを寝かせ、運良くこの日は平日でしかも深夜だった為、車は少ない。匠は車を美空病院まで飛ばす。
匠「待っとれ、もう少しで病院や」
コスモを救急センター前に停めて匠は係員に…
匠「子供が生まれそうなんや!医者を早く」
係員「わかりました!」
係員は駆け出した。おそらくは産婦人科の当直医を起こしに行くのだろう。
当直医「うわあ!滑り込みセーフ。こりゃあ生まれる直前。分娩室に運んでくれ!急いで」

 それから、何時間と過ぎた。産声が聞こえて来た。
看護士「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。さあ抱いてあげて下さいね」
匠は赤ちゃんを抱いた後、ミーナの元へ寄った。
匠「やったな、ミーナ。これからは父親か。実感湧かない」
ミーナ「疲れた。でも、ママが私を産んだ時もこうだったのかしら」
匠「今年のハワイへの里帰りは、お義母さんへの報告になりそうだ」
ミーナ「名前は美菜でいい?」
匠「美菜…。いい名前だ。ようし!元気な女の子に育てるぞぉ!やる気がみなぎって来た!」
 しかし、二人は美菜の耳に異変がある事に気が付いていないのである

 ペナントレースは途中である、だが、育児による為という事なので誰一人もミーナの退団に反対の声は上がらなかったのである。これが日本球界初の育児による退団になった
匠「普通にこの子が育ってくれるといいがな…」

***

 恒例の3ヶ月検診。魔女界のマジョハート診療所。匠が数年前に取材したおかげで、人間界からMRIやCTスキャンなど普通の診療所には置いていない設備が入っていた。
匠「Dr.マジョハート、どうですか?人間界の最新医療機器類は。使い勝手が良いでしょう。国にかけあってみたんです。そうしたら、厚労省の役人さんが動いてくれてね。厚生大臣が首相に掛け合ってくれたんです」
マジョハート「機械はわからん。マジョピーたちに任せておる。元女王さまもたいそう喜んでおられるわ」
匠「それは良かったです。色々と抗生物質も入って来てますね。魔女に効くかな…。少し心配だが」
マジョハート「美菜のことだが、耳が聞こえていない。すまぬが、これから君たち夫婦は苦労していくだろう。人間界の大病院で診て貰ってもおそらくは同じ結果だ」
ミーナ「そんな…。初めて産んだ子供が障害を抱えているなんて…」
匠「……。ミーナ、耳が聞こえていない以外は普通の子供なんや。まだやっていないのに不安になってどうする。これからなんやで、この子の人生は。この子でこれまでの常識を覆してやろうや」
ミーナ「うん。泣いてばかりいちゃいけないね。何も障害者教育を受けさせるだけが能じゃないものね」
こうして、匠夫婦は普通に育てることを決意した。

***

 美空市。普段は2軍球場だが、今日はパ・リーグ公式戦が行われていた。先発は予告では張藍蓮。ミーナの退団した今は彼女が抑えを担いで、しかも守護神になっていた。
ファン「ちょっと、あれは退団したミーナ選手じゃない?」
ファンの一人がスタンドに観戦に来ていたミーナを見て言った。
ミーナ「みんな、ありがとう!今日から私たちはスタンドに極力現れるよ!よろしくね!!」
大歓声が巻き起こった。


−次回予告−
どれみ「こがねちゃんにミーナさん。今年は引退シーズンだな…」
匠「まったく、お前らしくないね」
おんぷ「まあ良いじゃない。次回魔女野球『後援会設立!?ハナちゃんドタバタ劇』心の直球あなたに届け」
特別編2『銅像なんて辞めた
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