最近、日本国憲法第13条が「幸福追求権」と呼ばれているのを知りました。
わたしは長い間、「個人の尊重」の条文と暗記していました。
後段は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」となっています。
「それがどうした、努力規定だろう」と反論される方もいるでしょう。
わたしが言いたいのは、幸福追求権が日本国憲法の人権の中で、
思想及び良心の自由(19条)、
信教の自由(20条)、
表現の自由(21条)、
生存権(25条)、
勤労の権利及び義務(27条)、
財産権(29条)、
納税の義務(30条)、
裁判を受ける権利(32条)
などより先にあることです。
あとの条文より抽象的ですが、総論的で優先度の高い条文に違いありません。
ともあれ、憲法13条は「幸福追求権」だけではありません。「生命追求」と「自由追求」の権利が並立しています。
また、「国政の上で、最大限の尊重を必要とする」だけでそれ以上は触れていません。
幸福追求権は、公共の福祉のほかに、13条の国民の権利の中だけでなく、人権の中でもバランスが必要でしょう。
合理性や経済性でものごとが語られる時代になりました。
目先の高い安いで合理化や経費削減を語り、長期の展望が希薄な論議が横行しています。
何が幸福なのか決めかねますが、自分のことは自分で行い責任を果たすことを忘れてはならないでしょう。
わたしに分かったのはそれだけでした。
【補記】
権利の区分については
民法用語集(1)をごらんください。生活関係に基づく区分には財産権、身分権のほかに「人格権」もあります。
人格権は、人間と切り離せない身体・生命・自由・名誉にかかわる権利ですが民法では不法行為の損害賠償(民710条)に登場する程度です。
憲法の条文をそのまま民法に当てはめることはないことも知っておいたほうが良いでしょう。
また、権利の内容に基づく権利の区分には支配権・請求権・形成権があります。
形成権は、権利者の一方的な行使で新しい権利関係を生じさせる権利です。
権利の濫用は認められませんが幸福追求権はそういうものとして形成されるのでしょう。
有斐閣の『判例六法』には幸福追求権の判例が多数掲載されています。
判例はは「個人の尊重」8件、「幸福追求権」38件、「人権の限界」8件に大別され、
幸福追求権は「一般的自由」5件、「肖像・名誉・プライバシー」24件、「環境権」4件、「公正な手続き」1件、「その他」4件の五つの区分けがされています(脇の数字は判例数です)。
幸福追求権は肖像・名誉・プライバシーに集中しているのが特徴で、ノンフィクション小説が前科歴のある人を実名掲載した「逆転」事件も含まれています。
興味がある方は自分で調べてください。ジュリストには『憲法判例百選』や『メディア判例百選』のほか毎年発行されている『重要判例解説』があります。