２２　民法用語（１）総論

民法用語　（１）総論

用　　語	大まかな内容　　　★かっこの数字は民法の条文です。必ず確かめてください
私権	法律が適用される範囲は公権と私権に区分されます。　●私権：　私人間の生活を円滑にさせ紛争の防止や解決の基準となる法律関係　●公権：　国家を円滑に運営するため国民を規制し、権力的な制裁を伴う法律関係　　　　（※）私権と公権をあわせ持つ法律関係が行政法です
権利・義務・責任	法律関係で基本となるのが権利と義務です。そして、義務は責任と使い分けされています。債権編の契約・事務管理・不当利得・不法行為では特に注意してください。　●権利：　法律によって保護され、また、保護されるべき利益　●義務：　権利を実現するために守り、また、守られるべきこと　●責任：　義務に制裁や不利益が加わったもの　　例：担保責任、賠償責任
権利の区分（１）	生活関係に基づく権利の区分は、人格権・身分権・財産権に区分されます。　　●人格権：　人間と切り離せない身体・生命・自由・名誉等など権利　　　　　　（※）一身専属権：その人だけが持つ才能や特技(896) 　●身分権：　親子・夫婦・親族などの身分から生じる権利　●財産権：　経済的な価値があり。取引の対象となる権利
権利の区分（２）	権利の内容に基づく区分には、支配権・請求権・形成権があります。　●支配権：　他人の行為を介せずに直接支配し、享受する権利　●請求権：　特定の人に一定の行為を請求する権利　●形成権：　権利者の一方的な行使で、新しい権利関係を生じさせる権利
作為と不作為	相手と関わるものには、積極的に行いを求める「作為」と消極的に行わせない「不作為」の二つの面があります。　●作為：　　相手に行為を求める権利や義務。なす行為、与える行為　●不作為：　相手に行為をさせない権利や義務。なすべきことを行わないこと
私的自治	民法の三原則ともいわれ、私人間の法律関係の基礎となる考え方です。　自由権が優先された近代民法の三大原則（所有権絶対・契約自由・過失責任）の修正となっています（１条）。　　①公共の福祉：　多数の人間が持つ自由を調整する機能　②信義誠実の原則：　約束に従って権利を行使し、義務を果たすこと　③権利濫用の禁止：　名目的な権利を振り回して自治を乱させないこと
解釈の基準	憲法の改正に伴い加わった私的自治の解釈。（２条）（憲24条）　①個人の尊厳：　すべて国民は個人として尊重される（憲13・14）　②両性の本質的平等：　夫婦は同等の権利を有し、相互の協力によって維持（憲24）
公序良俗	民法は私人間の行為を調整する法律です。法律である以上、社会的な規範や判断を伴います。公共の福祉とかかわり、自由な中にも社会的な面からやってはいけない法律行為のしばりが「公序良俗」で、公の秩序または善良な風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とされます（９０条）。　契約自体がが無効とされるだけでなく、それに支払われた金銭の返還を求めることもできません。違法ドラッグ売買や賭博などは不法原因給付とされます（708）
人の種類	民法の主体（主人公）は人ですが、自然人と法人があります。　①自然人：　人間のこと。外国人を含む（3）　②法人：　　人または財産が結合し、権利を持ち、義務を負うもの(34）　　　　　　（※）組合は契約であり、法人ではない（667)
権利能力の始期と終期	自然人は出生により権利能力を取得し、死亡によって権利能力を失います。　例外は「胎児（たいじ）」です。次の場合は生まれたものとみなされます。　①相続（886）、②遺贈（96４）、③不法行為に基づく損害賠償請求権（721）
責任無能力者	個人の尊厳や両性の本質的平等により人は性別で区別されませんが、例外として次の二つがあります。責任能力がないとされる「責任無能力者」（７１４条）があります。　①未成年者：　本人の才能や能力を問わず、年齢で一律に法的能力を制限(712)。　②制限行為能力者：　本人の精神的な障害の程度で法的な能力を制限(713)。
未成年者の保護	未成年者は、財産管理・結婚や営業に親の同意が必要です（5・8・23・737)。　　未成年者を保護するのは法定代理人です。親権者がいないときは後見人が法定代理人になります(714･818･820･838)。　●未成年：　成年に達しない人です。国民は20才（４）、皇族は18才（皇室典範22）　●親権者：　親のことです。両親が結婚中は父母、両親が離婚すれば父母の片方(818･819) 　●後見人：　親が死亡したとき、または親に能力が欠ける場合(838) 　なお、親から結婚の同意を得た未成年者は「成人擬制（ぎせい）」と呼ばれ、成人と同様の権利と義務を負います(735)。　また、精神的な障害を伴う未成年者は「未成年被後見人」と呼ばれます(839)。
制限行為能力者	精神的障害により法律的な能力が欠けるとされる人を「制限行為能力者」といい、保護する人（後見人、保佐人、補助人など）にはそれぞれ権限があります。　　●成年被後見人：事理弁識能力が欠けるのが普通の状態として家裁で宣告された人(7) 　●被保佐人：　事理弁識能力が通常人に比べて著しく不十分な人(11) 　●被補助人：　事理弁識能力が通常人に比べて不十分な人(15) 　　　　　　（※）事理弁識能力：　法律行為を行う判断力のこと
法的能力	民法は意思と行為で成り立ちますが、そのための資格や能力は次のとおりです。　①権利能力：　権利や義務を持つことができる資格(3) 　②意思能力：　ものごとを判断し、自ら意思決定できる能力(91･93-98) 　③行為能力：　権利や義務を伴う行為を、自ら行える能力(4) 　④責任能力：　自ら決定したことの責任を判断できる能力(712･713) 　⑤受領能力：　相手の意思表示を受け取る資格(98の2)未成年者、成人被後見人　⑥不法行為能力：　損害賠償の原因となる行為を行う能力（709)。法人にもある
生活と住所	生活の場所を定めるものと取引の場所を定めています。　●住所：　　　生活の本拠(22) 　●居所：生活の本拠だが、住所ほど密度のない場所(23) 　●仮住所：　　取引のために定める場所(24)
もの	法律用語で触れましたが「もの」は者・物・ものの三つが使い分けられています。　●者：　人間を表す場合　●物：　有体物を表す場合。民法の物は有体物で排他的に支配できる物(85) 　●もの：　人間や有体物以外、または、人間や有体物の混ざったことを表現する
不動産と動産	物の区分により、法の保護や制限、第三者に対する権利主張などに違いが出ます。　●不動産：　　土地および定着物(86) 　●動産：　不動産以外の物。無記名債権(86)　★無記名債権は本来は物ではない
主物と従物	一体になって利用されるものの主従関係(87)。　主となるものが主物、付随するものが従物です。　　　例：　　家屋と建具
元物と果実	あるものから派生する関係。天然果実と法定果実がある(88･89)。　　例：　　天然果実：田畑と作物、　法定果実：元金と利息
代理	忙しい時や専門知識が欠ける時に他人に任すのが代理です(99)。　代理人は本人が委任した人、委任されたと相手に錯覚させた人、まったく委任されていない人まで様々です。　●顕名（けんめい）：　本人の代わりに行うことを表示する(99)　　●法定代理：　法律で定めた代理人　●任意代理：　本人と合意の上で任される代理人　●復代理：　　代理人が選任した代理人(107) 　●表見代理：　無理からぬ事情により相手に代理人と錯誤させた人(109･110)　　●無権代理：　権限がないのに代理行為をした人(113) 　●使者：　本人の意思をそのまま伝える人で代理人ではありません（規定なし）
法律上の登場人物	法律関係の主人公は当事者、脇役が第三者、そこに介在するのが利害関係者です。当事者の延長が代理人ですが、第三者や利害関係者は外にいるところが違います。民法の第三者は当事者以外の者にすぎません　●当事者：　権利や義務が直接関わる者。意思を交わし合う者　●背信的悪意者：　物権の変動を知っていながらと登記がされていないことを主張する者。信義誠実の原則に反するので第三者とはされません。　●利害関係者：　当事者の権利や義務に関わったり、影響を受ける者
意思の不存在　瑕疵ある意思表示	人の心は気まぐれですが、意思決定には次のような「意思の不存在」と「瑕疵ある意思表示」を伴います。　①心裡留保：　内心と別な意思表示をすること(93)・・・有効　②虚偽表示：　示し合わせて相手の判断を誤らせること(94)・・・無効　③錯誤：　　勘違いすること(95)・・・重過失を除いて無効　④詐欺：　　だまされて判断を誤ること(96)・・・取消し　⑤強迫：　　脅かされて自由な判断が妨げられたこと(96)・・取消し　　（※）無効は追認でも変わらず、取消しは追認で有効に変わります（124･125)
無効と取消し	法律は二者択一に見えて三者択一です。有効があるのが忘れやすい。　　●有効：　　適正な意思表示とされること　●無効：　　意思表示が元からなかったとされること　●取消し：　手続きを踏むことにより意思表示がなかったとされること
善意と悪意	当事者の意思を知らなかった場合が「善意」、知っていれば「悪意」。
追認	取消しできる法律行為を有効に確定させる意思表示を「追認」といいます。　無効な行為は追認はありえませんが、当事者が無効であるのを知りながら追認した場合は新しい行為をしたものとみなされます（119）。　次のような場合は「法定追認」と呼ばれ、取り消しうる場合であっても追認したものとみなされます(125）。　①全部または一部の履行、②履行の請求、③更改、④担保の供与など
到達主義と発信主義	意思をどうやって相手に伝えるかの時点をどこにするかの問題です。　●到達主義：　相手方に文書が届いたときに意思表示の効力が発生(97) 　●発信主義：　文書を発送したときに意思表示の効力が発生（526）
条件	達成する（成就」といいます）か否かは別として、約束には条件がつきものです。　民法には次のような条件の規定があります。１効力の発生　●停止条件：　条件が成就したことで効力が発生する(127①）。　　　　【例】合格したらクルマを買ってやる　●解約条件：　条件が成就したことで効力が消滅する（127②）。　　　　【例】卒業したら仕送りをやめる２無条件や無効とされる条件　●既成条件：　法律行為を行うときに条件が成就したり、成就できないことがわかっている場合の取り扱いに無条件と無効の扱いがでてきます（131）。　●不法条件：　不法な条件を付けた法律行為は無効(132）　●不能条件：　不能な停止条件を付けた法律行為は無効（133）解除条件は無条件　●随意条件：　停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみの場合は、相手と合意していないので無効（134）。　★無条件というのは元に戻ることで、無効か有効かに戻ります。条文を確かめて！
期限と期間	権利や義務がどこで始まり、どこで終わるかで損害賠償額も異なります。　●期限：　将来、到達することが確実な事実の発生時(135) 　●期間：　ある時点からある時点までの隔たり（１３８－１４３）　●期限の効果：　法律行為に始期を定めた場合は、期限が到来するまで、その行為の履行を請求できません。また、終期を定めた場合は、期限が到来すると、その行為は消滅します（133）。　●期限の利益：　期限は債務者の利益のために定めたものと推定されていますので、債権者は債務者が破産したときなどを除いて、期限前に全額を返済するように求めることはできません（136）。
取得時効・消滅時効	権利を放置しておくと失うのが時効制度ですが、失うものと得るものがあります。　●取得時効：　権利の取得を認める時効(162･163) 　●消滅時効：　権利を消滅させる時効(167ｰ174の2）
時効の中断・停止	時効の進行をどうやって止めるかの問題です。　●時効の中断：　一定の事由で時効の進行が消え、新たな時効開始(147-157) 　●時効の停止：　一定の事由でその期間だけ時効期間が延長(158-161) 　★除斥期間：　　一定期間は時効が進行しないことですが民法にはありません
時効の援用	時効は、利益を受ける者の意思表示が必要です。この意思表示を「時効の援用」といいます（145）。これが行われないと裁判所は裁判ができません（145）。　時効の利益は、あらかじめ放棄ができません（146）。
時効の中断事由	時効は次の場合に中断します（147）。また、中断とならない場合もあります。　①請求　②差押え、仮差押え、承認　③承認　　●裁判上の請求（149）　　●支払督促(150）　　●和解及び調停の申立（151）　　●破産手続参加(152）　　●催告(153）　　●差押え、仮差押え、及び仮処分(154・155）　　●承認（156）
時効の停止期間	１未成年者又は成年被後見人（158）　①時効の停止の満了前６ヶ月以内に法定代理人がいない場合は、本人が行為能力者になるか、法定代理人が選定されて６ヶ月以内(158①）　②利益背反行為の法定代理人がいない場合は、次の法定代理人が決まるまでの期間（158②）２夫婦が離婚した場合の互いの権利は離婚後６ヶ月間(159) ３相続財産は相続人確定又は管理人が選任されてから６ヶ月(160) ４天災等による時効の停止は障害が消滅した時から２週間経過後まで(161)