8 はっぴいえんど 
フォークのことあれこれ

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目次
 ●奇想天外な唄
 ●はいからはくち
 ●お国自慢のネタ
 ●夏なんです

        大瀧詠一の曲は「フォークのことあれこれ2006年増補」に掲載しています。



(1)奇想天外な唄

 はっぴいえんどは、《
日本語でロックを唄えるようにした》グループと言われている。外国のロックを日本語訳で唄うならそれ以前にあったものの、《日本語の詩をロックに合致させた》のに特異性がある。トランザム、ARB、ダウンタウンブギブギバンドなどの現在【★25年前=補足】の日本ロックの水準からみると演奏技術にはとりたてるものがない。

 僕がこのグループを知ったのは『空飛ぶくじら』(江戸門弾鉄作詞・大瀧詠一作曲)という奇想天外な曲におもしろさを感じたからだった。もっとも、彼らのヒットはこの曲しかなく、気に入ったころは解散していた。

       町角にぼくは一人 ぽつんとたたずみ
       ビルとビルのすき間の空をみていたら
       空飛ぶくじらが ぼくを見ながら
       灰色の町の空を 横切っていくんです

       そこでぼくはふと 君のこと思い出して
       いそぎ足の通りを 渡るところ
       空飛ぶくじらが ぼくを見ながら
       灰色の町の空を 横切っていくんです
 ♪
  
 この曲のおもしろさは大瀧詠一の歌い方にあるものの、
日本語のイントネーションに新鮮さがあったことである。こんなイントネーションなんてあるものか、舶来かぶれめ! それが当時の僕の印象だった。僕は急に愛国者になってしまったものである。
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はいからはくち

 はっぴいえんどというグループは、
ユーモアのある東京のロックバンドだった。グループの名からして皮肉たっぷりだった。ENDなんて不吉な文字をわざわざ付けるのも東京人だからだ。『はいからはくち』(松本隆作詞・大瀧詠一作曲)などはその最たるものではなかろうか。歌詞にしても文字遊びで奇をてらう面がある。聞き流してると気づかないだろう。

       ぼくははいから 血まみれの空を
       弄ぶ
@きみと こかこおらAを飲んでる
       きみははいから 裳裾
Bをからげ
       賑やかな都市を飾る 女郎花
C

       ぼくははいから 血を吐きながら
       きみののお
Dに ただ夕まぐれ
       きみははいから 唐紅
E
       蜜柑
F色した ひっぴいGみたい
 ♪

【★読み取れない人にアドバイス @もてあそぶ、Aコカコーラ、Bもすそ、Cおみなえし、Dノー、Eからくれない、Fみかん、Gヒッピー】
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(2)お国自慢のネタ

 はっぴいえんどは僕らの世代でも知られていないはずである。つつましやかにマイペースの活動をしていたからだ。僕がこの無名に近いグループを取り上げるのは、東京人に対するこだわりにすぎない。

 悪友は東京育ちではっぴいえんどの大ファンだった。彼がこのバンドのどこに共鳴していたかというと、はっぴいえんどの先鋭さ=つまり、
反発をかいつつも自分たちの主張を押し通すアクの強さや心意気だという。それとともに、東京育ちのお国自慢にあずかっている。「あんな舶来かぶれのどこがいいものか、日本語を乱すばかりだ」と僕がののしると、「このグループのいきがりめいた活動のバイタリティーこそ東京人の生まれながらの律儀さ・誠実さだ」と彼はいつも反論したものだ。僕と悪友は互いにお国自慢をしたがる者どうしなので酒場や旅先で言い争いが絶えないのである。

 だから、はっぴいえんどのLPレコードを買ったのも彼らが解散して数年後のことだ。悪友の推す『風街ろまん』は当時としては優れたリズムであった(
もっとも、10年前【★35年前=補足】のものであるから今では古めかしく、ぎこちない演奏である)。でも、詩の内容に僕は反発するのだ。
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夏なんです

 第1に、やたらと難解な漢字を使い
インテリ臭さが鼻につく。先に取り上げた『はいからはくち』からルビを除いて読むのは困難なのだ。

 第2は、やたらと横文字を使うことである。ひらがなやカタカナにしているものの中身はやはり横文字である。

 第3に、やたらと
濁音まじりの発音を強いる。以上は詩の形式の問題点である。内容からの僕の批難は、田舎蔑視と異国礼讃とが混同しているばかりか、社会性の希薄な抒情詩の点にある。妙にいじけたセンチメンタルな情念と、妙につっぱった意気がりが混在していて、これが同世代の作品かと驚かされるのである。

 もっとも、はっぴいえんどは
東京の下町と呼ばれる世界を扱っているだけである。今では社会性などどうでもいいことだから僕も反発しない。でも、次に引用する『夏なんです』(松本隆作曲・細野晴臣作曲)に描かれる田舎のイメージに僕は今でもなじめないのである。ビー玉は広くて固い場所でやったもので、狭い畦道でやるようなものではなかった。町角の外れに群がって僕もよく遊んだから「田舎の白い畦道」を持ち出すのに腹が立つ。

      田舎の白い畦道で 埃っぽい風が立ち止まる
      地べたに ペタンとしゃがみこみ
      奴らがビー玉はじいてる 
      ギンギンギラの 太陽なんです
      ギンギンギラの 夏なんです
 


 はっぴいえんどは、個性の強いメンバーが最先端のまま突っ走っていったグループである。大瀧詠一、細野晴臣、松本隆、鈴木茂=おのおのが独自の活動をしている。

【追記】このバンドはフォークではありません。でも、ひとつの音楽活動としてみてユニークだったことと、その後の活動がニュー・ミュージックと呼ばれた時代に演奏スタイルや歌詞の面で大きな影響を与えたのであえて加えます。また、ファンであった私の思い出でも多いバンドです。けなすために取り上げたのではないことをご承知おきください。


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