2ー1 北アルプス最後の秘境につられて

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 昨年の夏(2006年8月)は上高地から黒部ダムに向かった。最初に出向いたときは幼稚園児だった子どもはいずれも大学生になった。ダムの湖面を回る周遊船から、奥に向かって右側の薬師岳から立山に至る越中沢岳のなだらかにそびえ立つ尾根を眺め、遠い昔の山歩きを思い出す始末である。

 湖面中央に見える黒部源流の鷲羽岳から三俣蓮華岳や笠ヶ岳を経て疲れた足取りで新穂高温泉にやっとたどりついた道中を思い出すと山歩きの辛さだけが出てくる。また、左側の針ノ木峠から赤沢岳を経て爺ケ岳を回り鹿島槍ヶ岳は胃痛で断念した最後の山歩きだから恨みつらみも出てきた。


 高天ヶ原(たかまがはら)は鷲羽岳の右に広がる「雲の平」の近くにある。薬師岳への入口である有峰湖(富山県)あるいは高瀬ダム(長野県)から水晶岳を経て二日を要す植物が群生する湿地帯である。いまはともあれ30年前には「北アルプス最後の秘境」ともてはやされた。秘郷とか秘湯という言葉につられて出向くのは今も変わらない。

 強風雨で山小屋に閉じ込められた後のきつい日差しに耐えて高天ヶ原にようやくたどり着いた。猛毒のあるトリカブトの美しさに見取れ、晴れ上がった山々の姿を眺めていた。目指した露天風呂は山小屋から30分も離れた薮の中にあった。

 生温い温泉につかり、
「日が暮れてから一杯やりながらの入浴も乙だね」と相棒と言い交わしていると、
「◯◯さん、あっちのほうが広いわよ」と脱衣所で女性客が騒ぎ始めた。
逆らっても無駄だから我々は早々と風呂から退散したが、逃げ遅れた男は出るに出られずのぼせて帰ってきた。どこにも気配を察せない間抜けな男がいるものだ。

それはともかく、再度の露天風呂を目指して食事も早々と済ませると
「クマ!! 熊だ〜」と男が大声で叫ぶ。
「冗談はやめておけよ」と間延びした声もする。
「あら、本当よ。大きな熊がドラムカンにしがみついてる」と冷めた女性の声もする。
それからは熊の行動に話題が集中して入浴の話は途切れた。
「ことしはやけに熊が出てきて・・・」と小屋の住人が淡々とつぶやくのに呆れた。
熊のすみかに人間が踏み込んでいるだけという言い分にうなずきながら、立ち去る算段をするのもふがいなかった。


【追記】

 写真は1977年8月に写したものでモノクロームですこの頃にはカラー写真もありましたがフィルムにこだわり、モノクロームの写真が多い。
 なお、記事の中に2つの旅行記をリンクしていますが、山歩きや北アルプスについては、 @山歩き、A北アルプス全体、B上高地、C白馬、D八ヶ岳の写真サイトがあります。ヒマがある方は眺めてください。