東北ローカル線旅行記 −2008年8月4日〜8日−


その3 盛岡〜大館〜秋田

 8月6日、9時46分発の花輪線直通IGRいわて銀河鉄道に乗って、大館に向かった。昨晩、明日は何処に行こうかと考えた。そして、妻の「日本海をまだ見たことがない」という一言で秋田方面に向かうことにした。

 花輪線は今回の旅で乗ったローカル線の中で一番印象に残った。特に安比高原から先は緑の中を進んでいくようで、単線のための停車時間も列車の旅の愉しさを増やしてくれた。そういったときはカメラを持って列車の外に出て、反対側から単線の線路を進んでくる列車に向けてシャッターを切る人が数人いた。

 お昼過ぎに大館に着き、秋田行きの奥羽本線が出るまでには1時間あるため、駅の外に出て昼食を取ることにした。大館駅前にある食堂で名物の鶏めしを食べた。醤油で甘辛く煮られた比内鶏は上品な味で美味しく、しあわせな気分になった。

 食事を終えた後、まだ少し時間があったので、大館の街を散歩した。懐かしい雰囲気の街並みで、小さな商店が並び、あまり商売っ気のなさそうなおじさんが店番をしていたりして、安らぎを覚えた。2時ちょっと前、奥羽本線に乗り、秋田に4時ちょっと前に着いた。

 着いて初めて知ったのだけど、秋田は竿燈祭りの最終日だった。この時は「しまった」という気持ちが強かった。ホテルの部屋を取るのが難しいと思ったからだ。

 実際にホテルの空室を探すのに苦戦した。料金の安そうなホテル3つに満室と断られ、部屋の空いているホテルでも料金は12000円と言われた。もうそこでもいいかと思ったが、妻に言われてもう少し探すことにした。藁にでもすがる気持ちで駅前にある大きなホテルに飛び込んだ。

 「部屋は空いてますか?」と訊くと、「空いています」という。問題は料金だ。「ダブルでいいですか?」「ええ、かまいませんが、料金は?」「6800円です」。一瞬耳を疑った。6800円とは今まで泊まったホテルの中で最安値だ。そう言われてみると、大きなホテルではあるが、‘高級’という感じは確かにしない。

 部屋に荷物を置いて、まず、千秋公園に行った、秋田藩主だった佐竹氏が居城した久保田城跡で、園内にはフランス料理のレストランなどもあった。丘の頂上には御隅櫓が復元されている。ゆっくりと散策するには、いい場所だ。堀にはハスがたくさん浮かんでいた。

 竿灯祭りは午後7時からなので、それまでに食事を済ませてしまおうということになっていたが、千秋公園を散策してずいぶんと時間を使ってしまった。しかし、7時からといっても、すぐにはじまるわけでもないだろうし、駅ビルの中にあるレストラン街の中華料理屋に入って食事をとり、会場に向かった。

 会場に着いたのは7時半を少し回っていた。もう辺りは人、人、人で歩道橋を渡るのも渋滞をしていた。歩道橋の上からは竹の骨組にいくつもの提灯をつけた竿燈が多数舞っているのが見えた。もっと間近から見ようと、歩道橋を下り、会場へ行った。

 会場は3重、4重の人垣だったが、前の方の人は腰を道路に下ろしていたため、よく見ることができた。遠くで見ていると、多数の提灯をつけたいくつもの竿燈の舞っている幻想的な姿に目を奪われたが、近くで見ると全く祭りの表情は変わる。人の技の凄さに驚いてしまった。

 この竿燈、大きいものは長さ12m、重さ50kg、そして提灯の数は46個になる。その一番下の柄の部分をひとりの人が掌や額、肩、腰などに乗せてバランスをとっていた。昔、箒やモップなどの柄の一番下のところを掌に乗せてバランスを取ったあの要領である。各グループでひとつの竿燈をリレー形式で演技者を変えながらパフォーマンスを行う。子供たちも体に合った小さな竿燈で参加していた。

 バランスを崩して倒れる竿燈もあり、ホテルの屋根にぶつかったり、電線に引っ掛かったり、観客の方に倒れてきたこともあった。しかし、それも、また楽しい。最終日ということもあって、よりみんな演技に力が入っていたようで、「リスキーな演技が増えてきました」というアナウンスが入り、会場がどっと沸いたりした。

 この「リスキーな演技」のひとつに額に竿燈を乗せ、骨組と提灯の重さを利用して、竹を限界までしならせるというのがあるようだ。あまりの竹のしなりの衆目が集まり、歓声が上がった。しかし、それは限界を超え、竿燈は途中から折れてしまった。「あー!」という声の後、観客席からは拍手が起こった。熱のこもった演技を見ていると、自然と掛声がでてくる。

 上を見ると、夜空に竿燈が幻想的に揺れていて、下を見るとそれを額や掌や腰や肩などに乗せた優雅で熱の入った人間の演技が見られる。ありきたりの言葉だけど、とても感動してしまった。妻も「秋田に来てほんとうによかった」と言った。

 竿燈の演技は3回行われた。1回だいたい15分くらいで、時間が来ると演技を終え、竿燈を移動して、また次の回が行われる。つまりずっと同じ場所にいても、違うグループの演技が楽しめるようになっている。特に最後の回は‘今年の最後’にもなるわけで、演技には熱が入り、「リスキーな演技」が続出したようで、折れた竿燈が僕の見ている範囲でも数本あった。

 最後の演技が終わった後、竿燈とのふれあいの時間が設けられていた。妻はしきりに僕に「竿燈を持たせてもらって」と言ったが、恥ずかしくてただ近くで見るだけに留めた。ホテルへの帰り道、妻は路上で秋田名物「ばばへらアイス」を買った。その名の通り、ばあさんが売っているのである。ピンクとイエローのアイスだが、食べてみるとシャーベットのようで意外と美味しかった。(2008.9.20)

―つづく―


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