尾道・倉敷旅行記


8月31日 尾道〜米原

 ホテルの部屋で前日に買ったおにぎりやサンドイッチの朝食をとり、八時半にホテルを出た。妻が土曜日から仕事のため、最終日の移動は極力短くしなくてはならないので、この日はできるだけ、横浜に近づく予定だった。午前中、尾道を引き続き周って、あとは行ける所まで行こうということになった。

 昨日、周ることのできなかった古寺めぐりのコースに沿って歩くことにした。起点となる林芙美子像のところを左に曲がり、線路を超えて坂道を上っていく。ボヤでもあったのだろうか、柱の焦げた家の横の階段を上がる。人一人がやっと通れるような狭さだ。すると始めの古寺、持光寺を示す標識があり、その通りに進むと裏山の日輪山から切り出したという花崗岩の山門が特徴的な持光寺に出る。持光寺は、にぎり仏でも有名である。にぎり仏とは、その名の通り、粘土をぎゅっと一回にぎって作る仏のことで、十分ほどでできるらしい。寺に入る前に、通りすがりのおばさんから、「にぎり仏を作って行きなさい」と声を掛けられていたので、社務所のようなところをのぞいたのだが、時間が早かったせいか、誰もいなかった。

 古寺めぐりの順路に従い、光明寺に向かう。狭い路地には、瓦屋根にトタンの外壁といったような昭和の中頃に建てられたような家々が並び、懐かしい気分になる。それにしても、もし火事でも起こったら、消防車などはまず入って来られないだろうし、どうなるのだろうと心配になる。途中、休憩所で一休みをする。見晴らしのいいところで、尾道湾の先の向島に乱立するタワークレーンまで見ることが出来た。

 傾いた庇、捲れ上がったトタン、割れた瓦など、かつて東京でも見かけた風景が目の前にあった。路地は迷路のように走り、寺院の渡り廊下の下を潜ったりする。ただ、石を基調とした道は、比較的最近整備されたものが多いようで、きれいだった。

 光明寺には、横方向に伸びた天然記念物の蟠龍の松というのがあった。蟠龍というのは、とぐろを巻いた龍のことである。その名の通り、横方向に伸びた松は大蛇を想起させる。この後、信行寺に向かった。古い家の連なる尾道だが、その中に、ぽつぽつと若い人の営む店や作家さんの工房があったりする。数々の映画や小説の舞台となった地だけに、創作意欲を刺激するものがあるのだろう。信行寺からは、尾道の海側の町並みがよく見えた。最後に、文学記念館になっている志賀直哉の旧居を見学した。

 あとはできるだけ、横浜に近づくことだが、尾道を離れる前に妻がガイドブックに乗っていたアイスクリーム屋さんによっていきたいという。海沿いにあるその店は、昔ながらの手作りアイスのかわいいお店で、さっぱりとして口当たりのいいアイスだった。店の前に駐車してアイスを買い、そのままアイスを食べながらドライブなどいう人いた。

 昼も近くなってきたので、尾道で昼食をとってからとも考えたが、それだとあまり戻れなくなるような気がしたので、先を急ぐことにした。山陽本線を乗り継ぎ、姫路駅で駅弁を買い、ホームで遅い昼食をとった。姫路から米原までは、電車一本で行ける。時刻表を調べると米原に着くのは、五時半くらいだった。以前、米原を通り過ぎたとき、駅前の東横インのあったことを思い出し、妻のスマホから宿泊の予約を入れてもらうことにした。

 駅に着いてから、ホテルを探すのは面倒だし、東横インのサイトから予約すると、料金が安くなるからである。初日に、東横インに泊ったときに、ホテルの従業員に教えてもらったのだった。幸いにして、部屋は空いており、神戸と米原という地域の違いもあるだろうが、料金も二千円以上安かった。

 ホテルに着いて、一休みしてから、夕食をとりに米原の町に出た。新幹線が止まるから、もうすこし栄えているかと思ったが、駅前でも閑散としており、果たして、いい食事処はあるのだろうかと心配になった。ホテルでもらった駅周辺の地図には十六軒の食事処が載っていた。歩いて行ける範囲に、観光するようなところはなく、その地図をたよりに食事する店を目指すことにした。延び延びになっている妻の誕生日のお祝いもしたいし、できればそれなりの店を選びたかった。

 そうすると、ラーメン屋、フェミレス、喫茶店、お弁当屋などは対象外となり、残った店は三、四軒になった。まずはホテルに近い和食屋に行った。大衆食堂という感じで、入りやすそうだったが、誕生日のお祝いの食事ということになると、やや物足りない気がした。次に創作料理の店に向かったが、すでに潰れてしまったらしく、辺りは駐車場になっていた。次に、その近くの寿司・和食の店に行った。

 店の雰囲気はよかったが、今まで入ったことのないような本格的な感じでやや臆したが、これも経験と思い、暖簾をくぐった。檜造りの店内はさらに敷居の高い感じだったが、奥に進むとこれも檜板のカウンターがあり、本格的な寿司屋だった。とりあえず、カウンターに席を取ろうとすると、上下白の割烹着を着た店員さんがお座敷もありますよと奥に案内してくれた。

 座敷は個室で、落ち着けそうだった。まずは飲み物の注文を訊いてきたので、僕はハイボール、妻は琵琶湖ハイボールを頼んだ。妻は琵琶湖をビワと勘違いしたらしい。美しいアクアブルーの飲み物が出て来て、勘違いに気づいたが、飲んでみると僕のハイボールより甘みが強く、アルコールが低いようで、飲みやすかった。

 食事は、僕は天ぷらを、妻はお寿司を中心とした御膳を頼んだ。値は張ったが、お誕生日の食事としては、いい店を選べてよかったと思った。味も美味しく、ゆっくりと味わいながら食べた。(2018.1.21)

―つづく―


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