2011 青森〜函館〜大沼公園旅行記


その四 八月十一日 大沼公園

 翌日、大沼公園に行った。函館から電車で約四十五分である。日本三景といえば松島、天橋立、安芸の宮島であるが、大沼は三保の松原、耶馬渓に並んで新日本三景にも選ばれている景勝地である。

 函館発八時十七分の列車に乗り、大沼公園に九時五分に着いた。僕たちが大沼公園駅の前で記念撮影をしようとしていると、いっしょに降りた家族連れの亭主が「シャッター、押しましょうか?」と気さくに声をかけてきた。彼はシャッターを押した後、家族と駅前にある大沼の散策路の載った地図のところにいき、「この一番長いコースを歩こうよ」と一人元気で、妻と小学生の娘はげんなりしたような表情をしていた。

 僕たちが地図の前に行くと「この五十分のコースを歩かれますよね?」と仲間を求めるような口調で訊いてきた。先程、シャッターを押してもらった恩義もあるし、もともと僕たちは大沼の自然を楽しむために来たのだから、「ええ、そのつもりです」と応えると、彼は得意気な顔をして妻と娘を見て、「それでは、また、何処かで会うでしょう」といい、大沼公園の方に喜々として歩いて行った。

 その地図によると大沼公園には三つの散策路があるようだ。一つは、ご亭主が張りきって歩くといっていた五十分コース、二十分コースそして線路を越え小沼周辺を歩く二十五分コースである。大沼・小沼には百二十六の島があり、そのうちのいくつかが橋で結ばれている。散策路はその島巡りで、所々に駒ヶ岳を望む絶景ポイントがある。僕たちも地図にしたがって、大沼公園に向かった。

 駐車場を通り抜け、芝生に覆われた大沼公園に出て、その光景に息をのんだ。目前に広がる大沼に、木々の茂ったいくつもの島が点在し、その背景に広大な裾野の駒ケ岳が浮かんでいた。雄大な中に、箱庭のような緻密で繊細さのある景色で、これなら新日本三景に選ばれても不思議はないと思った。「また、何処かで会うでしょう」といっていたご亭主は、その風景を背景にして、家族写真を撮ろうと三脚にカメラを固定していて、妻と娘を立たせて構図を思案中だった。声をかけようかと思ったが、あまりに熱心な姿に、悪い気がして何もいわずに通り過ぎた。

 大沼に向かって右手の方向に橋がかかり、散策路になっているようだったので、そちらに向かった。後から知ったのだけど、ここは二十分コースだった。ポイント、ポイントで見られる景色はどれも素晴らしく、一枚の絵のようだった。

 散策路を一周歩き終え、元の場所に戻った、ふとみると案内板のようなものが目に止まり、大沼に向かって左側から五十分のコースのあることを知った。こちらは橋で繋がれたいくつもの島を巡るもので、やはり何処から見ても素晴らしい景色が広がっていた。水面にいくつもの点在する島のある風景は松島を思わせるが、こちらは歩いて周れるのでより身近にその景観の素晴らしさを堪能することができる。橋のところ以外では、ほとんどアップダウンもなく、足の調子があまり良くなかった妻も楽しむことができた。後半は、森の中を歩くような感じになり、それほど見晴らしはよくなかったが、木々の中を歩くのは気分のいいものである。

 五十分の散策路を歩き終えると、ちょうどお昼時になったので、大沼公園駅前まで戻り、駅前にある食堂に入って昼食を取った。ふたりで海鮮焼きそばを食べ、少し休憩してから、小沼の散策路に向かった。小沼の散策路はJRの線路を越えたところにあり、こちらは景観を楽しむというよりも、身近に自然の豊かさを実感できるものだった。人の多い大沼に対して、ほとんど観光客がおらず、のんびりと緑豊かな自然を感じることができた。

 再び駅前に戻ると、まだ列車の時刻まで余裕があったので、先程の食堂でアイスクリームを買って食べた。名残り惜しいが、大沼公園駅十四時一分発の函館本線で函館に戻った。函館駅で会社関係のお土産を買い、前日に予約してあったホテルに向かった。このホテルは前日に泊ったホテルと同じグループの別店で、駅から離れているため、客も少ないようで静かだった。

 ここでもカレーライスの無料サービスをやっていたが、外食をして美味しいものを食べることにしていたので、少し部屋で休憩した後、函館の街に出た。まず、前日に目をつけておいた母や妻の親戚へのお土産を買い、その後、自分たちの記念品としてブリキでできた風車のオルゴールを買った。

 そして、昨日、僕だけが行った緑の島に妻も行きたがったので、いっしょにいった。静かで人のあまりいない緑の島は、ぼーっとするにはいい場所である。ベンチに座り、遠い目をして海を見ている人と、時折りジョギングする人くらいしかいない。人がいっぱいの東京や神奈川では、街を歩いていても気の抜ける場所がないので疲れる。そうこうしているうちに、いい時間になってきたので市街に戻り、海鮮市場の中の食堂に入った。

 妻は海鮮丼を注文したが、僕は疲れが出てきて、そういうとき、なま物は避けた方がいいと思い、ヒラメの塩焼きにした。なま物中心の店で焼き魚を頼む客はあまりいないせいか、僕の料理が出てくるまでにかなりの時間がかかったが、出てきたヒラメの大きさを見て、焼くのに時間のかかったせいかもしれないと思ったりした。(2011.10.8)

―つづく―


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