若狭・丹後・山陰旅行


6月23日 鳥取砂丘

 この旅は山陰地方を中心にしようと思っていたのだけど、そこまでなかなか辿りつけない。しかも昨晩、財布の中身を見て僕は愕然としてしまった。お金がない…

 全くないわけではないけど、帰りの高速代やガソリン代を考えるとあと一泊くらいしかできそうになかった。やっと山陰の入口に辿りついたのに、もう旅を終えないといけなくなってしまうとは、何とも情けなかった。しかし、それでは寂し過ぎる。考えられる方法としてはガソリン代はどうしようもないから、まず帰りはできるだけ下道を使い、高速代を節約する、食事もできるだけ安く済まし、宿をとらず野宿する。だが、北海道なら野宿する場所には苦労しないが、他のところではなかなか難しい。それに車の中で寝ると疲れもとれない。だから、野宿は最終の手段をすることにした。とりあえず、今日はまだ大丈夫なのだ。明日以降のことは明日考えようと思った。

 豊岡から国道178号、国道9号と走り、砂丘道路に入って鳥取砂丘に向かった。そして9時半くらいに鳥取砂丘についた。おみやげ物屋の無料駐車場に車を止め、早速砂丘を見に行った。今日は平日でさらにまだ朝早いため、観光客は少なくゆっくりと楽しめそうだ。

 僕は山陰地方に関してはあまり知識がなくて、唯一思いついた景勝地がこの鳥取砂丘だった。そんなに広さは感じなかったが、砂の多さに圧倒されてしまった。ラクダや馬車もあったから、ひょっとしたら、僕が見た部分は全体ではなく一部分だったのかもしれない。

 パラパラといる観光客に混じって、砂の小山に登った。下は砂のためふんばることができず、なかなか疲れる。小山を登り切ると目の前に日本海が広がった。下の方を見るとどうやって下ったのかわからないが、数人が波打ち際にいる。この小山から駆け下りることはできそうだけど、下りてしまったら登るのはかなり難儀だ。だけど、僕は降りてみたくなった。

 いくらなんでもこの砂の小山から一直線に駆け下りるのは無謀だから、ちょっと低くなっているところまで移動してそこから、波打ち際に向かって駆け下りた。砂の小山を下るのは面白いというか、かなりの快感だった。これほど気持ちいいものとは思っていなかった。楽にまたこの小山に登れるのなら何回でもやってみたくなる。登りの時はふんばりの効かない足場が下りになると砂にズボッズボッを足が刺さるようになる。ブレーキがかかるのだ。だからいくらスピードを出そうとしてもそれが適度に減速されてちょうどいい速さになり、いくら足の回転を速くしても転ぶ心配がない。それがやけに楽しい。さらに斜面が急だからスリルもある。

 波打ち際まで下りた僕は日本海の海に手をつけたり、砂浜にぼーっと座ったりしていた。上の方では‘どうやって下りたのだろう’という声が微かに聞えてきてちょっと得意になってしまった。中には無謀にも一番高い地点から駆け下りてくる人もいる。まだ、若い男性のようだ。下りは何処でも度胸さえあればできるだろうけど、登りはルートを慎重に選ばないと登れない。僕もできるだけ疲労が少なくなるように大きく波打ち際を回り込み、かなりの遠回りをした。

 それでも、梅雨時とは思えない天気で太陽が容赦なく照り付けるため、Tシャツは汗ビッショリになってしまった。できるだけお金を節約しないといけない状態だったが、どうしても冷たいジュースが飲みたくなり、自動販売機で買ってしまった。車の時計を見ると11時を過ぎていた。2時間近く砂の中を彷徨していたことになる。足には疲労がどっときていた。

 車の中でジュースを飲みながら地図を見ていると白兎海岸というのがあった。場所も近い。コンビニでおにぎりでも買ってこの海岸でのんびりと食べようと思った。幸にしてコンビニも道沿いにありおにぎり2つとツナサラダを買って白兎海岸に行った。この海岸は因幡の白兎伝説の場所だった。海岸には誰もいなかった。僕は砂浜にあったコンクリートに腰を下ろし、海を見ながらの贅沢な食事をした。それにしても暑い…。

 食事を終えたあと国道9号で日本海に沿って西に向かった。しばらく走ると日本のハワイという看板が盛んにでるようになり、‘ハワイにようこそ!’というものまである。ハワイ??と思ったが、ここは羽合町という街だった。あのハワイとは比べものにはならないが、砂浜もきれいで人もほとんどいなくて静かだったので浜辺で休みことにした。子供2人の4人家族が岩場で磯遊びをしていた。砂浜をぶらぶら歩いていると岩場から遊歩道が延びているのが見えたので歩いてみると、隣の海水浴場まで繋がっていた。岩場では釣り人が数人いて糸を垂れていた。それにしてものんびりしている。以前、北陸に8月上旬に遊びに行ったことがあるが、その時は海水浴シーズン真っ只中だったにもかかわらず、ほとんど人のいない砂浜があった。何が本当の豊さなんだろう?考えさせられる光景だ。

 さて、これからどうしようと考えた。ここからだと倉吉が一番近いけど、まだ陽は高いし…。かといってあまり走り過ぎるとガソリン代が増え、この先どうなるかわからない。こんなことならもっと出発する前に財布の中身を調べておけばよかった。10万円下ろして、それで生活用品を買ったり、競馬ですったりしたからなぁ…。それに旅に出てからの車のオイルとワイパーの交換もひびいている。

 だけど、もしお金がやばくなったら島根から下道で東京までの高速料金の払えるところまで走ってそこから高速道路に乗れば済むことだ。ここを旅の折り返し点にしてしまうのは何とも納得がいかなかった。日本海に沿って延びる国道9号をさらに僕は西に向かった。 名和町付近で中国地方の最高峰の大山も見え、僕の旅心を刺激した。こうして鳥取の一番西側にある米子に着いた。時間はちょっと早かったが、米子の街もよく見たいし、ここに宿を取ろうかと思ったのだけど、あまりの都会ぶりに僕はびびってしまい、中海の南岸をさらに西に向かい、島根県に入った。

 安来節が有名な安来市に入ったが、あまり宿泊施設もないようだし、さらに西に向かい島根県最大の都市の松江まで来てしまった。松江もかなりの都会だが、もうびびっているわけにはいかない。ここで泊まる覚悟を決め、車を裏通りの適当な場所に止めた。松江は城下町であり、また寺院の多い歴史が残っているような街でただ単なる都会ではなかった。僕が車を止めたのもある寺院の塀の横だった。

 駅まで行って宿泊施設の情報を探したが、駅前のホテルでいきなりシングル4500円という看板が見えた。外観もまあまあの感じだったのでここでもいいかなと思ったけど、一応市内を案内する地図で他のホテルを確認するともう1つ4500円というのがあった。だけど場所が駅からちょっと遠い。時間的には余裕があるので確認にいってもいいかなとは思ったけど、なんか面倒臭くなり駅前のホテルにしてしまった。外観はまあまあだったけど、中は狭く圧迫感を感じ、確かに4500円だなという感じだった。

 ホテルで少し休憩した後、市内見物に出掛けた。松江は川の多い街だった。寺院と蕎麦屋も多い。ちょっと距離はあったけど、松江城まで歩いて行った。掘りと石垣の囲まれ鬱蒼とした木々の合間から天守閣が見えた。松江城周辺は東京の霞ヶ関にちょっと似た雰囲気で官庁街といった感じだ。何故かカツ丼が食べたくなったので丼物の店を探したがなかなか見つからない。結局、駅の反対側まで行ってやっとアーケードの下に小さな店を見つけた。

 ドアを開けて入るとカウンターしかない店で客は誰もおらず、店主がぼーっと新聞を読んでいた。カツ丼の値段を見ると950円と高い。どうしようかと迷ったが、よく考えてみると今日はロクな物を食べていない。まあいいかと思いカツ丼を注文した。

 出てきたカツ丼はそんなにはまずくなかったけど、あまりおいしくもなかった。店主の方も僕にカツ丼をだしてしまうとスポーツ新聞を読み入ってしまっているのでちょっと話づらい。黙々とカツ丼を食べて料金を払おうとすると店主が
「…だから…円でいいです」と言った。
何かカツ丼に足りない物があったので値引きしてくれるようだったけど、言葉がよく聞き取れないので訊き返すと、
「生姜がなかったので、650円でいいよ」とちょっとはずかしそうに言った。

 生姜がつかなかっただけで300円も値引きになっていいものか…と思ったけど、「それじゃー悪いです」とも言えなかったので、650円を払い店を出た。ホテルに帰るまでにいろいろと考えてみた。どう見ても流行っている店ではなく、むしろ閑古鳥が鳴いているような店だった。僕が東京から来ている一見の客だと知っていたら値引きなどするだろうか?僕の服装といえばヨレヨレのTシャツにこれまた色褪せたジーンズ、手ぶらだった。もしかしたらあの店の店主は僕を地元のあまり裕福ではない人間と間違えたのかもしれない。値引きをして誠意をみせることによって、常連にしたかったのかもしれないなと思った。(つづく)


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