2007 ペルー旅行記


6.イキートス その2

 ジャングルの中は目印になるものもなく、始めは道に迷ったという感覚はなくて、なかなかロッジに着かないなという感じだったが、川沿いにある小さな村に出てしまい、初めて方向が違うことに気づいた。Jさんが近くにいた女性に道を尋ねたが、うまく教えられないようで、結局、その人が案内してくれることになった。ロッジからそれほど離れたわけではなく、15分ほどで着くことができた。何故かちょっと得をしたような気になった。

 ロッジに戻り、食堂に入るとすでにふたりの若いカップルは戻って来ていた。アドリアーノは僕たちを探しに行ったという。初めて彼らとゆっくり話す機会ができたので、出身を訊くとギリシャから来たという。男性の方はアレックス、女性の方はイレーネ、彼らはペルーに来たのに、荷物はカナダに行ってしまい、二日間ほとんどリマの空港で過ごしたという。この後はクスコに行って、マチピチュを見に行くという。僕たちと同じだ。そんなことを話している間にアドリアーノが戻って来て、昼食となった。

 昼食は魚のフライだった。これはおいしかった。昼食をとりおえた後、アドリアーノはギリシャ人のカップルに「君たちのわがままのせいで、こういうことになったんだ」というようなことを言った。それに対してアレックスは「迷子になったのは僕たちじゃない。彼女だ」とJさんの方を見て言った。その言い草にアドリアーノは呆れたようだったが、「もうこれからは、自分勝手な行動なしないでほしい」と忠告し、アレックスもそれを了承した。午後のツアーは3時からということで、それまでは部屋で休憩ということになった。

 しばらく食堂に残り、コーヒーを飲んでいると、天井付近の裂け目からサルが数匹入ってきた。他の旅行者も喜んで、さかんにカメラのシャッターを切っている。そのうち、サルたちはディスプレイ用の果物のところにやってきて、それらを食べ始めた。従業員が追い払おうと威嚇すると、バナナなどをくわえて、また外に飛び出して行った。

 部屋の戻り、改めていろいろと見て回った。テレビなど当然なく、電燈もなく、夜はランプの灯りで過ごすようだ。ベッドは部屋の左右に離れて二つ、トイレは水洗だけど、シャワーは水しか出ないようである。天井には蚊よけの緑のネットが張られていて、その上は広い空間になっていて、はるか上に茅葺き屋根の天井が見え、その端の方を人が修理していた。Jさんと僕はそれぞれベッドに横になり、休んだ。

 3時になり、食堂に行ったが、まだ誰も来ていなかった。ぼーっと待っているのもつまらないので、食堂の外に出て近くを散策した。敷地は芝生が植えられていて、きれいに整地されていたが、その端は崖になっていて木々が密集し、その下を細い川が流れている。ハンモックが6〜7本吊るされた蚊よけのネットに覆われた部屋があり、Jさんとしばらく横になった。

 そんなことをしているうちにジョンさん、アレックスとイレーネもやってきた。アレックスとイレーネは僕たちがハンモックで寝ているのを見ると、早速やってきて遊び始めた。しかし、肝心のアドリアーノがいつまで経ってもやって来ない。木の太鼓を叩いたりしたのだけど、姿を見せないのでホテルの従業員が部屋まで呼びにいった。どうも熟睡していたようである。そんなわけで午後のツアーは30分遅れで始まった。

 ボートで少し走った後、近くの村を歩いた。ここにはディスコと書かれたみんながダンスを楽しめる小屋があった。どうも生のピアノ演奏で踊るらしい。斜陽の中、グランドでは子供たちがサッカーを楽しんでいる。Jさんは、さかんにこの辺りは貧しいと連発していた。それは、それで正しいのかもしれない。しかし、果たして先進諸国のような生活を実現することが幸せに通じるのかと考えてみたら、わからなくなった。

 そして、野生の動物が飼育されているエリアに入った。ここにはインコやオウム、ナマケモノ、アナコンダなどが自然の中で飼育されている。いたずらばかりしているサルが一匹いて、Jさんの肩に乗ったと思ったら、軽く手を噛んだりして、追い払ってもまた追いかけて来たりして、最後にはジョンさんが必至の表情で威嚇していた。

 次はサトウキビを絞ってのジュース作りだった。テコの原理を利用して棒と台の間にサトウキビを挟み込んで絞っていく。始めにアドリアーノが実践して、次にアレックス、Jさん、僕、イレーネの順番で絞った。ジョンさんは疲れたのか見ているだけであった。一通り終えるとそれをそれぞれグラスに分けてレモンを絞って飲んだ。どんな味なのかと心配だったが、臭みもなくおいしかった。アレックスは「Very Good!」を連発していた。

 この後、再びボートでアマゾン川に出た。ピンクイルカを見るためである。ヒロミは4回このツアーに参加して、ピンクイルカを見られたのは一回だけだったと言っていたし、アドリアーノも「運がよければ」と弱気だったから、それほど期待していなかった。

 ポイントに着くとアドリアーノがピンクイルカを呼び寄せる鳴き真似をしたりした。始めはウンでもスンでもなかったが、遠くに尾びれが見えたのを皮切りに、何回もピンクイルカを見ることができた。ボートにすぐ近くの水面まで上がって来て、みんな興奮気味であった。そしてアマゾン川に落ちる夕日を見て、ボートはロッジに戻った。

 ロッジに着いた頃はもう辺りは暗くなっていた。途中にある橋のところでアドリアーノがみんなを止め、夜のアマゾンの音を聞いてほしいと言った。いろいろな虫や鳥の鳴き声がする中、いくつものホタルが光っていた。

 食堂に入ると7時から夕食だから、その時刻になったらここに来るように言われた。すっかり暗くなった風景の中、所々に置かれたランプの光が優しく見えた。部屋の前にも2つのランプが置いてあった。ひとつはトイレの前にかけ、もうひとつは壁に取り付けられた棚の上に置いた。シャワーを浴びたかったけど、そうすると時間に間に合いそうもないので、部屋で一休みしてまた食堂に行った。

 夕食はバイキング形式だった。主食は鶏肉の丸焼でモモと胸の部分をそれぞれ取り、サラダを多めにもらった。果物も大好きなメロンが出ていた。一通り皿に載せて席に座ると、ジョンさんとアドリアーノが何か話し、それをJさんが聞いていたが、アレックスとイレーネの姿はまだ見えない。アドリアーノがみんなそろっていることを知らせるために、合図として木製の太鼓を叩いたが、現れる気配はない。僕たちは食事を始め、ジョンさんはサラダのおかわりを何回もしていたが、彼らは姿を見せなかった。

 あまりに遅いので、アドリアーノが部屋まで呼びに行った。戻ってきたアドリアーノはほんとに困ったよという風に首を振った。どうもシャワーを使っていて、呼び出しの太鼓の音にも気付かず、部屋でのんびりしていたらしい。片付けに入ったロッジの人が彼らの分を盛り付けて持ってきた。

 やっと食堂にやってきた彼らにアドリアーノは時間をきっちり守るようにとややきつく言った。明日の朝食は7時だから、6時半に太鼓を叩くとみんなに言い、明日のツアーの説明になった。

 説明が終わり、部屋に戻った。時間はまだ8時をわずかに過ぎたばかり。テレビもなく、このランプの明るさだけでは本も満足に読めない。どうやって時間を過ごそうかとこれからの暗い長い時間のうっちゃり方を考えたが、何も思いつかなかった。

 とりあえずシャワーを浴びようと思った。水しか出ないのだ、遅くなればそれだけ水の冷たさが身に沁みるように思われた。いくら夏とはいっても水のシャワーはあまり気が進まなかった。

 裸になり、シャワーのコックを捻った。水が体に降り注いだ。冷たさに思わず、声が出てしまう。しかし、我慢して浴びているとその冷たさが、だんだんと気持ち良くなって来た。シャワーを浴び終え、ベッドに横になると、一日結構運動したせいか、自然と目が閉じて来て眠りに落ちた。(2007.10.31)

―つづく―


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