奥会津旅行記−2001年9月22日〜24日−


9月23日

 朝まで一睡もできず、太陽が出てからも山の稜線に遮られなかなかテントに当らない。昨日考えた予定をどうしようか考えた。このまま湯の花温泉辺りで1日ゆっくりしようかとも思ったが、予定通りにすることにした。しかし少しでも体を休めたかったのでゆっくり出発することにした。陽が山の稜線を越え、キャンプ場に落ちてきたので陽だまりになっているベンチで昨日買ってきたパンと缶コーヒーの朝食をとった。キャンプで一番好きな時間はこの時だ。自然の中で向える朝は気持いいし、本当に落ち着く。ゆっくりとパンを噛み締め、コーヒーを流し込んだ。散策をしている人もいるし、もうすでに川に入って釣りをしている人もいた。

 9時過ぎに最低限の荷物を持ってキャンプ場を出発した。まずは只見を目差す。途中、伊南村から小塩塩ノ岐林道に入り只見に抜ける予定だ。この林道の入り口がなかなか見つからないで行き過ぎてしまったりしたが、何とか探しだすことが出来た。始めはとても走りやすい林道だったが、勾配がきつくなると路面がだんだんとガレてきた。これも台風の影響だろうと思った。昇りは何とかうまく走れた。峠を越え、只見町に入ると路面の状態はよくなったが、ちょっと砂利が多い。下りの砂利は怖い。急な下りはほとんどアイドリング状態で何とか走った。しかし、最後の急な下りのところで走るコースがよくなく修正しようとして止まろうとした時こけてしまった。ほとんど立ちゴケだったためバイクにも体にも影響はなかったが、こんなところでコケるとはなさけない。坂を下り終わったところでペットボトルに入った水を飲み落ち着いてから再スタートした。ここからは平坦な走り易い路面になった。R401に出て只見町を入り、只見ダムのところに着いた時は11時ちょっと過ぎくらいだった。今日も天気はよく、雲1つない。しばらく只見湖でのんびりとした。ここからは只見の町並から新潟県側の山々まで見渡せる展望台もある。

 昼食は只見の町中を通り抜けるとき見かけた定食屋にしようと思っていたが、只見ダムから戻ってみるとその店の前にバイクが30台くらい止まっていた。たぶんバイククラブのツーリング会だと思う。これでは入れないし、入れたとしてもいつ注文したものがいつ出てくるかわからない。仕方がないので他に店にしようと只見の町を流してみたが店がない。しかしここを過ぎてしまうと他ではさらに探すのは難しくなりそうだ。もう一度町の方に引き返して探してみると‘フルートの店 民宿・お食事’とある。ちょっと怪しそうだがこの店に入ることにした。

 店の入り口には‘営業中’という掛札といっしょに‘農業中’という掛札もあった。よくはわからないがとりあえず入ってみるしかないだろう。中に入るとお客さんらしい中年の夫婦が1組いて、食堂の横にある部屋では小さな子供が遊んでいた。適当な椅子に腰を下ろし、店主が出てくるのを待ったがなかなか出てくるけはいがない。ただ、台所で奥さんらしい人が働いている。と中年夫婦の夫の方が中に向って「お客さん、来てるよ〜」と怒鳴ってくれた。中から奥さんの声が聞こえて注文を取りにきた。始めはアユ定食を注文したが魚がないとのことだったので、野菜炒め定食になった。やがて店のご主人が帰ってきた。掛札に‘農業中’と書いてあったように畑にでも行っていたようだ。

 まずびっくりしたのはプチトマトが20個くらい出てきたことだ。料理が出来るまでつまんでいてとのことで末娘が収穫したものらしい。赤いちょっと大きめのものと普通のものと黄色いものがあった。始めて食べたが黄色いプチトマトはちょっとフルーティでおいしかった。料理が出来てから得意のフルートを2曲くらい演奏するので旅の思い出にしてくださいとのことだった。この店に入って正解だったかどうかはまだわからない。ただ、話のネタになりそうなことは確かだった。料理もどんなものが出てくるのかかなり不安だ。それにメニューに料理の料金が明記されていない。店の何処を見回しても料金は書いてなかった。

 しばらく経つと今度はそばがでてきた。これは結構おいしかった。茹で具合もちょうどいい感じで氷で冷やされていた。そして野菜炒め定食が出てきた。通常の野菜炒めを想像するとかなりイメージは違う。これは野菜炒めには違いないが中華風ではない。バーベキューで野菜を鉄板で焼いたものに似ている。野菜は全て自家製だそうだ。種類はナス、ニンジン、ピーマン、長ネギ、玉ネギ、インゲンなどで山盛りになっている。この中に肉が入っていたがこれは通常食べている肉ではないようだ。後で知ったことだが馬肉だったようだ。そして味噌汁には長ネギがこれまたすごい量はいっていて、漬物に梅干まである。これだけでも食べるのは辛そうだが、プチトマトに蕎麦を食べた後ではさらにきつかった。

 ご主人は料理を作り終えるとフルートの演奏を始めた。1曲目はもう一組のお客さんの故郷新潟の古い曲だった。2曲目は童謡のカラスだった。何でもそのフルートは200万円もしたそうだ。かなり無理をして買ってしまったようで、何となく奥さんの冷たい視線を感じがしていたがその原因が何となくわかったような気がした。それに客も1日平均3組しか来ないとのことだった。肝心の野菜炒めだが、味はそんなに悪くはなかった。自分の畑で作っているとのことだったが新鮮だった。特にニンジンは味が濃くおいしかった。だけど、量が多すぎる。それに料金がどうなるのか…

 始めのお客さんがお勘定になった。そばを注文していたようだが1人1400円を請求されていた。う〜ん… 俺はどのくらいになるんだろう?1500円は請求されるような気がした。そのうちもう1組客が入ってきた。若いカップルだが男性は白人の外人さんだった。その人達の前菜として枝豆が出てそれがまた僕の方にも回ってきた。もう本当にお腹いっぱいだったが、出された量の半分くらい食べた。こんなに野菜を食べたことは今までなかっただろう。お腹いっぱいでちょっと吐き気がする。そしていよいよお勘定になった。かなり不安だったが、1000円ですんだ。

 後、この只見で明日の朝食用のパンも買っておかないといけない。奥会津ではこの只見が一番大きな町だろう。会津田島もあるが今回は田島には行かない。コンビニに入っておいしそうなパンを探したがあまり種類はない。とりあえず一番ましそうなものを選んだ。この辺りのパンはクリームパンとかアンパンとか古典的なものが多いようで、都会で売っているような気が利いたものはあまりない。昼食をとり、明日の朝食用のパンも買い、あとは今日のもう1つの楽しみである温泉巡りだ。

 まずは滝沢温泉に向った。ここは前に共同湯を探したのだがついに探し当てることができなかった。今回も地図を頼りに探したのだがまた探し出すことができなかった。後で地図を見直してみると根本的に勘違いしていたことがわかった。共同湯は町の中心ではなく入り口の近くにあるらしい。次に行く時は必ず探し出すことができそうだ。仕方ないので昔行ったことのある大塩温泉に行くことにした。

 大塩温泉は今から約10年前に訪れたことがある。当時僕は2つ目の会社を会社の上層部と対立して辞めて東北・北海道を約1ヶ月間旅行した。四月の中旬に出発したその旅行は当初東北をゆっくり周り、北海道に入りこれものんびり旅して宗谷岬まで行ったら未練なく一気に帰宅する予定だった。ところが宗谷岬まではほぼ予定通りだったが、そこからの南下に時間がかかった。将来への不透明感が漠然とあり家に帰り、次の行動を起こす気持になれなかったのだ。その遅々として進まない南下の旅で最後の訪れたのが大塩温泉だった。奥会津の飾らない素朴は雰囲気が僕を包んでくれた。何でもない山村の雰囲気が僕には懐かしく、愛しく、貴重なものに感じられた。それ以来僕はこの地方が好きになった。

 10年振りの大塩温泉は昔とほとんど変わっていないように思われた。観光用の大きな看板がある駐車場にバイクを止めた。前回もここに車を止め共同湯を探したことが思い出された。この看板にも共同湯の位置は載っていない。地元の社交場の意味合いが強いため、看板には載せていないのかもしれない。あまり多くの観光客が来るのを避けているのかもしれない。始めての人は見つけるのに苦労するだろう。僕はたまたま持っていた地図に民宿のすぐ隣という情報があったから見つけることができた。大塩の旅館または民宿に泊まればたぶん教えてもらえるのだろう。僕が温泉に入った時は3人の地元の人が入っていた。前に来た時より鉄分が感じられるがこれは温泉に含まれる塩分で水道管が錆びたせいなのかもしれない。窓の外にはすぐに只見川が見えるのがまたいい。温泉を出てからその玄関で冷たいお茶を買い、近くにある祠のところに腰掛けて飲んだ。天気もいいし、静かだし、風景もいいし、本当にうまく感じた。後は湯の花温泉に帰るだけだ。

 湯の花温泉に戻ってきたのは5時くらいだった。まずはキャンプ場にバイクを置き、温泉に浸かりに行く。今日はまだ入っていない天神湯に行った。ここは川の横に小屋があり、ロケーションは今までの中では一番よさそうだ。ただ、男女の区別はなく混浴なので女性は入りづらいだろう。引き戸を開けるとすぐに脱衣所があり湯船はコンクリートで4人くらい入れそうなものが1つと人1人入れる小さなものが1つあり、水道は湯を冷ますものがあるだけだ。ただ訪れる人は少ないようでゆっくり入れるのがいい。窓を開けると川を見ながらの入浴も可能だが、橋を歩いている人からは橋のすぐに近くにあるため丸見えになってしまう。でも、のんびり温泉を楽しみたい人にはお薦めの共同湯だと思う。

 この後、湯の花温泉の村中にあるラーメン屋に行った。そんなに客が入っていないかと思ったが何と中はほとんど満員だった。ちょっとびっくりしたが団体さんが入っていたようだ。やはり寒いと蕎麦よりもラーメンを食べたくなる。ここは中太の縮れ麺で典型的な喜多方ラーメンだった。醤油ラーメンとギョウザを注文した。ちょうど1000円。頼み易い金額設定にしているのかもしれない。このラーメンで温まって今日は熟睡したい。昨日は気温が4.5℃まで下がったそうだが、今日はそこまでは冷えないらしい。ラーメンはまあまあおいしかった。昔懐かしい味がした。ラーメンを食べている時、変な話だがラーメンを食べているんだなっていう音がした。おいしそうな音だった。ここのおかみさんは中国人らしかった。花嫁不足で来たのだろうか?そういえば前に会津で中華料理店に入った時も中国人のオーナーだったが、会津地方は中国人が多いのだろうか?

 今日もまた暗くなった道を湯の花温泉からしらかばキャンプ場まで歩いた。昨日の反省からまだちょっと明るい表側に道にした。空にはきれいに月が出ていて道路に書かれた白線を照らしてくれる。その白線に従って僕はキャンプ場に向っている。昨日は一睡もできなかったので今日は早く寝ようと思った。地図を見ながら明日の帰路を調べ横になっていると眠くなってきた。時計は9時をちょっと過ぎている。もう寝よう。ますはトイレに行く為外に出た。空には満天の星…。ただ夜遅くなると霧が出て来て何も見えなくなってしまう。昨日、2時くらいにトイレに起きた時も霧で何も見えなくなっていた。今日はトイレに起きないでゆっくり眠りたい。(つづく)


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