北海道旅行記 2005


静内

 8月8日、本別から池田を経由して、国道236号で広尾に向った。今日もまたいい天気である。天塩川温泉以降、ずっと晴れの天気が続いている。前半は雨ばっかりだったが、全体的に見れば今まで一番天気に恵まれた旅ということになるのかもしれない。

 広尾に向う途中、虫類にあるナウマン象記念館に寄った。ここは以前にナウマン象の化石が見つかった場所である。ナウマン象そのものよりも、その化石が見つかった時の町の慌て方が面白く、微笑ましいものがあった。じっくりと見学していたら、ゆうに1時間が過ぎてしまっていた。

 さて、広尾からどのルートをとろうかと迷った。えりも岬を経由するか、それとも天馬国道を使って一気に浦賀に抜けてしまおうか。迷った理由は霧である。ナウマン象記念館を出て広尾に向う途中、少し霧が出始めていたのである。

 えりも岬に夏場かかる霧は、優しくはなく、白い幔幕に飛び込むような感じで恐怖を感じることもあるくらいだ。しかし、道を走っているうちに、もうそうなったらそうなったで、それもまたいいような気がしてきた。僕は広尾から天馬国道ではなく、黄金国道に向った。

 黄金国道、広尾から庶野までの約30Kmの道のりは完成までに、道路に黄金を敷き詰めたといわれるほどの巨費が使われた。そこから、この名称が付けられたそうだ。現在も工事箇所が多く、場合によっては20分以上も待たないと通行できない箇所もあった。

 濃霧の心配が強かったが、えりも岬に近づくに連れて天気はよくなり、青空が広がり始めた。そして、ちょうど正午、久しぶりに僕はえりも岬に立った。以前、来た時はなかった風の館というのができていた。風が強いこの岬にはうってつけかもしれない。そこには入らず、僕は岬の突端まで歩いた。そこは岩礁が太平洋に、ばらまかれたように連なっていて、北海道で最も豪快な岬の風景かもしれない。しかし、その厳しい風景の下には、昆布干しの玉砂利が引き詰められていたりして、生活の匂いも強く感じることができる。

 ここで昼食をとっていこうかと思っていたが、あまりの観光客の多さに辟易してしまい、もう少し落ち着いた静かな場所にしようと、静内に向って北上を開始する。

 日高幌別駅近くにある食堂に入り、生姜焼き定食をたのむ。僕以外は、タクシーの運転手さんがコーヒーを飲みながら高校野球を見ているだけだった。そういえば、この辺りに馬事資料館があったはずである。食事を終えた後、店主に場所を訊いて行ってみたが、何と本日は月曜日のため、休館だった。何とも残念である。そういえば、稚内温泉も月曜日休みだったし、ひょっとしたら静内温泉も…といやな予感さえしてきた。

 温泉手前のコンビニで夕食の買い出しを済ませて、キャンプ場に向った。静内温泉のキャンプ場は、温泉のすぐそばの奥まったところにある。すぐ横には小川が流れ、反対側は木々が深く生茂る山だ。しかし、管理はしっかりしていて、管理人さんの他にアルバイトと思われる男女がひとりづついた。

 サイトは、区画されている部分もあるが、奥の方には芝生のフリーのところもあり、僕はそちらにテントを張ったが、あまりこちらは人気がない。何故、みんな区画されている窮屈そうなところにテントを張りたがるのか、僕には理解できない。

 トイレに入ると、温泉の営業状況が書かれた紙が貼られていた。それによると、月曜日は通常の窓口は休みで、宿泊者が利用する出入り口からの利用となるらしい。とりあえずほっとして、落ち着いてからぶらぶらと行ってみた。

 きれいな温泉施設で、気持ちよく入浴できた。湯の温度が低めというのも僕にとってはうれしかった。特にジャグジーのひとつは、かなり温くていつまででも入っていられるような感覚になるが、調子に乗っていると、出た後に頭がくらくらとしたりする。

 温泉から上がり、ロービーでコーヒー牛乳を飲みながらテレビを見ていると、小泉首相が記者会見をしていた。何事かと思ってみていたら、郵政民営化法案が参議院で否決されたため、衆議院を解散したことに対する会見だった。首相の顔には、悲壮感のようなものが感じられた。その会見を見ていたら、何となく自民党が勝つような気がした。

 キャンプ場に戻ったときはもうかなり陽は落ちていた。米を炊き、野菜を炒め、レトルトのカレーをかけて食べていたら、横で食事をしていた若い男性から
「唐揚食べませんか?」といきなり声をかけられた。唐揚は食べたいような気はしたが、それらはすでに、その男性のコッフェルの中に入っていて、すきな女性のだったら別だろうけど、手が出ない。

 「ちょっと買いすぎたもので」とさらにその男性は言ったが、丁寧に断った。そしたらさっさと自分のテントの方に戻ってしまった。それにしても、自分のコッフェルに入った食べ物を人にすすめるとは、珍しい。ちょっと変わった人らしい。

 このキャンプ場は家族連れや友達同士で来ている人たちも多いようで、遅くまで歓声があがり、花火も上がっていた。


 8月9日、静内温泉へ、朝風呂に行った。朝6時から8時まで、営業することをトイレの張り紙で知ったのだ。このキャンプ場に長期滞在者が多い理由がわかる。キャンプ料は無料だし、歩いて2分のところに温泉はあるし、買い出しにはバイクは必要だけど、それほど市街地まで距離があるわけでもない。

 朝風呂はキャンパーというより、地元の人たちが車で来て利用している方が多かった。ロビーで、コーヒー牛乳を飲んだ後、テントに戻った。そして、まずは静内湖の方でも行ってみようとバイクで出掛けた。

 静内湖に向う道は、寂しい山間の道だった。すれ違う車も市街地を過ぎてしまうとほんとんどない。双川渓谷を過ぎ、しばらく走ると道はダートになった。キャンプ場の方にいってみようかと思ったが、思いの外、道が荒れていたため、途中で引き返した。

 静内は新冠と並んでサラブレッドの故郷でもある。競馬好きの僕が、馬を無視するわけにも行かないと思い、牧場巡りをしてみることにした。柵の外に車を止め、子供といっしょに、馬を見ている人も結構いる。牧場の中で、のんびりしている馬を見ていると、競馬場とは違う世界のように感じる。

 新冠の市街地で食事をとろうと思い、道の駅に寄って、近くの食事処を調べ、行ってみたが、営業していなかったり、店自体がなくなっていたりして、結局、道の駅のレストランで昼食をとることになってしまった。

 食事の後、新冠のサラブレッド銀座PAによった。ここは高台にあるPAで、眼下に牧場が広がっていて、サラブレッドがのんびりと過ごしている姿が見られる。

 静内温泉の戻る途中、うぐいすの森という表示があったので寄ってみることにした。静内川の辺から始まる公園ではあるが、人は誰もいなかった。うぐいすの森はこの公園の一番奥にあり、確かに多くのうぐいすを見ることができたが、周囲は荒れ放題という感じである。自然が豊富に残っているところを、切り開いて作ったが、訪れる人もほとんどなく、すべては放ったらかしになってしまったようだ。これでは落ち着けないと思い、キャンプ場に戻ることにした。

 キャンプ場に着いたとき、時刻はまだ3時だった。しかし、バイク用の駐車場を見ると、朝見かけた多くのバイクが残っている。ということは、ここでキャンプしているライダーはあまり出歩かないのかもしれない。ちょっと買い出しに行くくらいで、のんびりとしているのだろう。

 僕もテントの中に敷いてあるマットを外に出して、寝転びながら本を読んだ。この旅行中は、読書の時間が多かった。今までの旅で、これだけ本を読んだということもなかったと思う。滞在型の旅にしたいという希望は、中途半端になってしまったかもしれないが、何も形にこだわる必要もない。

 それにしても、このキャンプ場は滞在型の旅をしている人が多い。区画されているサイトにテントを張っている人は、ほとんど残っているし、みんな3〜4日くらいいるらしい。長期滞在に向いているキャンプ場は、料金が無料であること、近くに入浴施設があること、街に近く買い出しに便利なこと、そして自然が豊かなこと。ここはその全てを満たしている。

 5時過ぎ、静内温泉に行った。こうして、同じ温泉に何回も入れるのもうれしい。明日の朝も入るとしよう。

 今日が、北海道最後の夜である。持ってきた米もほとんどなくなり、いつも炊く量の半分くらいしか残っていなかったが、炊き上がるとそんなに少なく感じなかった。今までがちょっと多過ぎたのかもしれない。レトルトの中華丼をかけて、食べた。これで残っている食材はなくなり、紅茶のパックが2つあるだけになった。

旅の終わりが実感された。(2005.10.19)


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