北海道旅行記 2005


本別

 8月7日、朝、バイクのチェーンに注油していたら、隣りにいた人に声をかけられた。
「バイク、持ってようか?」僕よりかなり年上の50代くらいのアメリカンに乗った気さくな感じの男性だった。彼はもう、自分のバイクに荷物を付け終えていて、一服しているところだった。

 「大丈夫ですよ」僕のバイクは軽いので、かるく横に倒しながらチェーンを動かし、そして注油することはそんなに大変なことではない。
「みんな、メンテナンス結構しているんですね」とそれを見ていたレーサーレプリカに乗った若い男性が言った。
「いや、いや、僕なんかレッドバロンにまかせっきりで、自分ではチェーンにオイルを差すことくらいしかしないよ」とアメリカン氏。
「そう、それとたまにタイヤの空気圧、見るくらい」と僕。
「僕はほとんどレッドバロンに任せてます。ほんとは自分でやらないといけないんだろうけど」とレーサーレプリカの若い男性。

 確かに長期のバイク旅行では、途中でいろいろとメンテナンスが必要になってくる。3週間くらいなら、それほど大したことはしなくてもいいかもしれないけど、1月を超えるようになるとオイル交換も必要になるかもしれないし、簡単な調整や修理はできた方が心配は少なくなる。

 僕も今までで一番長い今回のバイクツーリングに際して、転倒によりブレーキレバーやクラッチレバーが折れたことを想定して、バイク屋さんから部品を買ったまではよかったのだけど、それを家に忘れてきてしまった。また、パンク修理キットはいつも持ち歩いているけど、幸か不幸か、今までバイクがパンクしたということが1回もないため、実際にパンクしたとき、果たして自分で修理できるかどうかは甚だ疑問なのである。

 何かいやなことが起こりそうな予感はあったが、ここまではいつも通り無事に来た。何とか最後までトラブルが起こらないでくれと、ふたりの話しを聞いて思った。

 9時過ぎに国道44号線を釧路方面に出発した。この道は釧路に近づくに連れて面白味がなくなってくる。そして、道の駅等、ゆっくり休憩できる空間もほとんどなく、旅で疲れている体には少し辛い。途中のパーキングに入ったが、ここもただ駐車スペースがあるというだけで、精神的にはほとんど休憩にならなかった。強い日差しがさらに、徒労感を強める。

 釧路市内から国道38号線で白糠に向う。途中、道の駅「しらぬか恋問」に立ち寄った。太平洋を望める美しい場所だけど、ものすごい人の数だ。ここで何か食事でもと思っていたけど、とてもそんな雰囲気ではない。仕方ないのでアイスクリームを買って、海を見渡せるベンチに座り、ぺろぺろと食べた。それにしても北海道のアイスクリームは例外なく美味しい。ミルクの味と香りが濃厚で、健康的な感じすらする。しかし、溶けるのは早いようで、早く食べないと手にぽたぽたと落ちて来たりする。

 白糠からは国道392号で、本別に向った。交通量の大変少ない山道だ。山道といっても北海道らしく、険しさはあまりなく、ただ自然の大きさだけが迫ってくる感じだ。本別に着いたのは、ちょうどお昼くらいだった。

 そして、静山公園にあるキャンプ場に向った。静山キャンプ場は稲牛川の辺にある美しい芝のサイトだった。その中に木立がいくつもあり、やさしい日陰をいくつも作っていた。僕は、そのひとつの下にテントを張った。そして、街まで徒歩で出掛けた。

 まずは食堂を探さないといけない。しかし、キャンプ場はかなり奥まったところにあり、街までは、かなりの距離があった。バイクで来れば…と後悔したがもう仕方ない。それに歩いた方がはるかにいろいろ細かいものが見られると、自分を慰めた。

 街に出てすぐにラーメン屋を発見した。しかし、この暑さ、ラーメンなどあまり食べたくない。駅の方向に少し歩きかけたけど、面倒臭くなり、その店に入った。

 店内はほとんど満員で、テーブルはひとつしか空いていなかった。そこに座り、周りと見ると部活の帰りらしい高校生や、親子で来ていたりと、近所の人たちばかりのようだった。みんな無口にラーメンを啜っていた。

 メニューをみて、シーフード五目ラーメンというものを頼んでみた。しばらく、経って出てきたものは豪華なものだった。まるまる一匹車エビが入っていて、他にホタテやイカなど海の幸が満載だった。スープも美味しく、近所の人たちが集るのもわかる。

 汗を拭き拭き、テレビに映し出されている高校野球を見ながら食べていると、同じくそれを見ていた高校生たちがラーメンをほとんど食べ終えたようで、ぽつぽつと話しを始めた。
「すごいよな…」彼らは野球部の部員のようで、さかんにテレビの同じ高校生たちのプレーに感心していた。彼らは解説者としてではなく、明らかにファンとしてテレビを見ていた。それが何だかとても微笑ましく思えた。

 僕らはいつからからか、解説者になったり、評論家になってしまった。野球を見ても、音楽を聴いても、社会の出来事に対しても、そして時には自分自身に関することでも…。しかし、評論家は何処までいっても評論家でしかありえない。

 キャンプ場に帰る途中、スーパーに立ち寄り、夕食の買出しと葡萄を1パック買った。キャンプ場に戻り、マットをテントの外に引っ張り出し、そこに寝転び買って来た葡萄を食べながら本を読んだ。やさしい風と陽に気持ちよくなり、本を読むのを止めて、しばらくウトウトとしていたら、体が痒くなってきた。アリが体に這い登ってきたり、虫に刺されたりしていた。

 テントの中に入り、またしばらく本を読み、その後、キャンプ場に隣接する温泉に行った。昔ながらの懐かしい感じの宿で、とても雰囲気があった。近代的な建物より、よっぽど心が休まる気がした。(2005.10.12)


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