北海道旅行記 2004 その6


不運な1日

 8月1日、朝起きたら、依然岬は霧に覆われていた。時計を見ると5時を過ぎていた。昨日は350Kmくらい走ったので、かなり疲れた。今日はのんびり行こうと思った。時間が経つにつれ、霧が晴れてきたので岬の周りを散策した。霧多布岬は草原の岬で断崖が海に落ち込んでいる。草々の中にはいろいろな花が咲いていて、可憐な風景をつくっていた。また、こういうところで1日のんびりとしたいと思った。僕は本来怠け者だから、バイクで走るより、風景のいいところでぼんやりしているのが好きなのだ。

 そんなことをしているうちに、ほとんどのキャンパーは次の目的地にと旅だって行った。今日はあまり走るつもりはないので、僕はのんびりだ。隣にテントを張っていた大阪からバイクで来た女の子が出て行ってしまうと、僕だけになってしまった。時間はすでに9時を回っているので、そろそろ出発しようと思うと初老の男性に声をかけられた。

「もう、出発ですか?」と和やかな声だった。姿から、このキャンプ場の管理人さんかと思ったのだけど、東京からご夫婦で来ている人だった。何でも、霧多布で1ヶ月くらい滞在して、この辺りの草花を写真やビデオに撮るのだという。それを釧路湿原で買った図鑑と合わせて、どのような草花が自生しているかを調べているらしい。
「うらやましいです」と思わず言ってしまった。僕もできればそのような旅をしてみたい。
「いや、いや、私はもう仕事もリタイヤしてますからね」と初老の男性は笑い「この辺りは涼しいから、クーラーもいらないしね。どうもクーラーの風は苦手で…。東京に戻るよりはこっちにいたほうがいいでしょ」と続けた。
お互いに気をつけてと言って別れ、僕は厚岸に向かって出発した。霧多布から道道123号で霧多布湿原を眺める琵琶瀬展望台に寄った。展望台には馬がいて、僕が鼻筋を撫でてあげたら、気持ち良さそうに顔を寄せてきた。展望台から見ると、以前より民家が湿原の近くまで建ち並んでいるのに驚いた。風景も年々変化している。

 さらに、この道沿いにある涙岬、あやめヶ原に寄った。涙岬は海に落ち込む岸壁が人の横顔に見えるところから命名されたようだ。以前は看板もなかったが、今では遊歩道ができていた。ここも草原の岬で訪れる人は少ないようだけど、いい雰囲気だ。あやめヶ原はすでに時期が過ぎているため、あやめはあまり咲いてはいなかったが、馬が放牧されていて、いい雰囲気だった。

 厚岸についたときちょうどお昼時だったので、駅前の食堂に入った。厚岸といえばカキである。カキを卵でとじたカキ丼を注文した。値段も手頃で、甘辛く煮られたカキがおいしく、いい気分になった。異郷でこうしたものを食べると、旅心が起きてきて、自分は今、旅をしているのだなということが実感される。

 この後、駅前のガソリンスタンドでバイクに給油するついでに、コンロ用にもシグボトルにレギュラーガソリンを入れてもらった。ツーリングを始めてから、かなり自炊の機会が多くなり、持ってきた白ガソリンがなくなってしまったのだ。僕の持っているピークワンは燃料として白ガソリンを使うのだけど、レギュラーでも大丈夫なので便利だ。ガソリンを入れてもらったシグボトルはアミの中に入れ、しっかりとゴムをかけていたつもりだったのだけど、甘さがあったようで後々困ることになるのである。

 厚岸を出発した後は、できるだけ国道を通らず、太平洋沿いの道を走り釧路に入った。釧路からは、国道38号で音別方面に向かう。お腹が減ったので、パシクル湖の近くの食堂で野菜ラーメンを食べた。途中、昆布刈石展望台に向かうダートを走ったが、ここは趣きがなくなってしまった。やがて舗装化に向かうようで、ただジャリの多いだけの道になった感じだ。だんだんと懐かしい景色が消えていくのは寂しい気がした。

 このダートを過ぎると、国道336号に出る。僕は北海道でもあまり人のいないこのコースが好きで、来るたびに走っているような気がする。さて、今日はどこにキャンプしようかと考えた。どうせなら近くに温泉があるところがいいと思い、晩成温泉キャンプ場に決めた。

 晩成温泉に着いたのはまだ4時前だった。温泉施設の横にすばらしい芝のサイトがあったのでそこにテントを張った。その時になって始めて、後に積んだはずのシグボトルがなくなっているのに気づいた。どうもゴムのかけ方が甘く、走っている最中に落下してしまったらしい。ダートも2回走っているし、その時の振動が原因かとも思ったが、ガソリンがなくなったということは、今日の自炊ができなくなることも考えられ、一気に落ち込んでしまった。

 さらにその落ち込みに拍車をかけるようなことが起きた。シグボトルは諦め、晩成温泉に入りにいくと、キャンプの受け付けもやっているので、料金を払おうと思い、テントを隣の芝のサイトに張ったことをいうと、そこはキャンプ場ではないという。キャンプ場は500mほど行ったところにあるので、すぐに片付けてほしいと言われてしまった。もうテントを張ってしまったからと粘ったが、ダメで仕方なくテントの撤収にかかった。そして、言われた場所に行ってみると、あまりいいキャンプ場でなかったが、これから次の場所にいくのも、だるいのでそこに張ることした。

 こんなこともあり、晩成温泉はあまり愉しく入ることができなかった。でも、考えてみればどちらも自分の不注意であり、縁起担ぎのためヒゲを剃った。風呂から上がった後、自動販売機を見てみると、ガソリンを入れるにはちょうど良さそうな、アルミの容器に入ったジュースがあったので、それを買い飲んだ。400mlくらい入るので、ちょうどいいかもしれない。

 テントに戻ってから、コンロに残っているガソリンの残量を調べると、何とか一食分くらいは持ちそうだった。今日は、何も買い出しをしていないので、残り物で作ることにした。タマネギ半分とニンニクを入れたペペロンチーナを作った。つづく…


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