北海道旅行記 2004 その5


日暮れて道遠し

 7月31日、朝5時に目が覚めた。テントの外に出ると今日も快晴、天気については恵まれている。気持ちいいので、朝の海岸を散歩した。岬は公園として整備されていて、のんびりとするにはいい場所だった。公園からは階段が下りていて、海辺にも出られる。朝早いのにも関らず、潮風を感じている人が数人いた。

 テントに戻ると、周りはすでに撤収を始めていた。チャリンコ・バイク族は動き出すのが早い。僕も昨日買っていたトマトを丸かじりした後、テントを片付け始めたが、その間に周りはほとんどみんな今日の旅へと出発して行き、僕と自転車で回っている男性だけが残った。

 僕は昔、自転車で旅行していた時期があるので、気になり、話しかけた。彼は20代前半だろうか、一日どのくらいの距離を走っているのかを聞いたところ、昨日は190Km走ったという。これには驚いた。荷物満載の自転車で190Kmとは、僕にはちょっと考えられない距離だった。僕が走っていたときは、120Km走ればすごく走ったという感覚だった。軽装のときでも180Kmが最高で、そんなに走って疲れがたまらないものかと他人事ながら心配になった。

 そのことを訊くと、やはり疲れはたまるという。今日はふとんの上で眠りたいと言った。予定は網走らしいので、150Kmくらいは走らないといけないようだ。朝食は道の駅でとっているそうで、9時におこっぺの道の駅が開くので、それに合わせて出発して行った。 彼が行ってしまうと、残っているのは僕だけになってしまった。のんびりとしたいいところだったので、何となく去りがたい気もしたが、8時過ぎに出発した。オホーツク沿いの国道238号を再び南下した。途中で先程の自転車青年を追い越した。サイクリストというよりはツールド・フランスなんかを走っているレーサーのような走りで、ああでなければ1日190Kmは走れないなと納得した。

 紋別を過ぎ、コムケ湖で原生花園に寄るため一時国道から離れた。原生花園への道は走りやすいダートで海沿いの気持ちいいものだった。肝心の原生花園は時期を外してしまったようで、そんなに花も咲いていなかった。この後、シブノツナイ湖にも寄ってみた。この道もダートだったが、走りやすく湖畔に沿って延びていた。訪れる人もほとんどいないようだけど、野鳥が多く集るようで、双眼鏡を持った人に出会った。

 国道238号を南下さらに南下して、サロマ湖に出た。サロマ湖は北海道最大の湖で、ホタテの産地としても有名だ。僕はキムアネップ岬に寄ってみた。ここには今まで何回か来たことがあるのだけど、あまり熱心に見たことがなかった。今回は岬のあるキャンプ場の周りを歩いてみた。ここは素晴らしいところだった。原生花園になっていて、ハマナスを始め、いろいろな花が咲いていた。こんなところなら、1日のんびりしていたいと思った。

 また国道238号に戻り、今度は網走市街に入るのを避け、能取岬によった。ここは草原の岬で、馬や牛が放牧されている、売店が1つだけあるのどかな場所だ。もうかなり前だけど、ここを夏に訪れたときあまりの寒さで、この売店でストーブにあたりながらかにみそラーメンを食べたことがあった。今日は暑いけど、またここでかにみそラーメンを食べることにした。

 おばさんふたりで営業しているこのお店はほんとにのんびりしていて、故郷でくつろいでいるような気分になる。扇風機の風にあたりながら、かにみそラーメンをゆっくりと食べた。能取岬は何故か訪れる人が少ない。ただのどかな場所というものは、みんなあまり寄る気にならないものなのだろうか?

 網走からは国道244号で斜里方面に向かった。途中、小清水原生花園に寄ってみたが、ここには不似合いな立派なビルが建てられていた。これも箱物行政なのだろうかと思った。知床はパスして、さらに国道244号で標津を目指した。久しぶりにトドワラに行ってみようかと思ったからだ。だけど、根北峠を辺りから、路面が濡れていたが、かまわず走ったため、靴とずぼんの膝下からがびっしょりになってしまった。途中で小雨が降りだし、それがさらにやや強くなったので、雨具を着た。国道335号と交わる辺りでは雨は完全に止んでいて、路面も乾いていたので雨具を脱いで、靴下をしぼった。そしてトドワラに向かったが、どうも天気が怪しい。

 トドワラに着いたのはもう4時過ぎだった。今日は霧多布辺りまで行こうと思っていたので、どうしようかと思ったが、せっかく来たのだし、遊歩道を歩いて見学することにした。トドワラは海水に侵食されたトド松の林が枯れて幻想的な風景をつくっている場所であるが、昔に比べるとさらに侵食が進んだせいであろうか、トド松の枯木が減ってしまった。以前より物足りない感じになっていた。時計を見るとすでに5時半を回っていた。さらに、標津方面の空は真っ黒な雲に覆われ時折、稲妻が光っていた。

 本来だったらまだ十分に明るい時間であるが、そのうち辺りは真っ暗になり、夜のようになった。トドワラからの道の途中、雨がぽつぽつ落ちてきたため、また雨具を着た。真っ暗な稲妻が走る中をバイクで走るのはハードボイルドな感じだが、実際はそんな余裕はなく、ひたすら心細かった。ただ、雨は思ったほど強くは降らず、霧多布に近づくにつれて明るくなった。

 国道243号から国道44号に入り、そして霧多布岬キャンプ場に着いたのはもう8時を過ぎていた。霧多布岬は霧で覆われていて、このツーリング中始めて寒さを感じた。すぐに夕食の準備に取りかかった。今日はご飯だけ炊いて、あとはそれにレトルトカレーをかけるだけだ。しかし、気持ちが急いていたためだろう、飯炊きがうまくいかず、芯こそないもののあまりおいしくない。仕方ないのでカレー用に沸かした湯を適当に入れ、炊き直したら、ふっくらとした状態にすることができた。怪我の功名というヤツだ。つづく…


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